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バイデン撤退で表舞台に立ったカマラ・ハリスはトランプを倒せるのか? 一部世論調査では逆転するも、勝敗を決する激戦州では苦戦か? 都知事選の蓮舫氏と重なるハリスの決定的な弱点

バイデン大統領が大統領選からの撤退をついに表明した。物忘れが激しく、名前の言い間違えが相次ぎ、公衆の面前で躓く場面も続出。トランプ前大統領とのテレビ討論でも精彩を欠いて高齢不安が高まり、世論調査でもトランプ氏にリードを許していた。リベラル系メディアニューヨークタイムスをはじめ、民主党議員や民主党支持の大物俳優らから撤退論が相次いでいた。

それでも本人は徹底を否定していたが、トランプ氏が銃撃事件を危機一髪でかわして勢いづぐなか、ついにギブアップした格好だ。

かわりに民主党が擁立するのがカマラ・ハリス副大統領である。大統領選まで残り3ヶ月半。土壇場でのバイデン撤退を受け、ここから民主党が結束して戦うには現職副大統領のハリスしかないというのが実情だろう。

ハリス氏はカリフォルニア州の司法長官を歴任しており、トランプ氏との一騎打ちを「検察官vs犯罪者」と位置付け、反転攻勢に出た。勝利すれば、初の女性大統領、初のアジア系大統領の誕生となる。

民主党支持層はバイデン撤退が実現したことを歓迎し、ハリス支持で結束を固めている。「バイデンではないこと」がハリスの最大の売りと言えそうだ。一部世論調査ではトランプ氏を上回る勢いを示しており、ハリス氏へのバトンアッチはとりあえずは成功した格好だ。

しかし、ハリスは保守層を中心に拒否度も強い。「女性」や「アジア系」であることに対する白人男性を中心とした偏見が根強いことも背景にあろう。トランプ氏は「バイデンよりハリスのほうが戦いやすい」とも言っている。

たしかに4年前の大統領選で、現職のトランプ氏がバイデン氏に敗れたのは、バイデン氏自身が評価されたというよりも、「トランプだけは絶対に阻止したい」「トランプよりはマシ」という幅広い人々の受け皿になったからだった。バイデンはカリスマ性に欠け、さしたる魅力もないものの、拒否度が比較的少なかったのだ。

大統領選のように、たったひとりしか当選しない「一騎打ち」の構図では、候補者本人が魅力的であること以上に、拒否度が低いことが重要になる。二者択一のなかで「よりマシ」な方を選択する有権者が少なくないからだ。「どちらが好きか」よりも「どちらが嫌いか」が二者択一の選挙では遥かに大きな決定権を握るのだ。

ハリス氏はバイデン氏と対照的に、女性やマイノリティーなどリベラル勢力には強い人気があるものの、白人男性の労働者階級を中心に拒絶感も少なくない。おそらく民主党がもともと強いニューヨーク州やカリフォルニア州ではトランプ氏を圧倒するが、これはバイデン氏であっても票を総取りする可能性が高い地域である。逆に勝敗を決する激戦州(アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの7州)でハリス氏はバイデン氏より苦戦する可能性がある。

トランプ氏が「ハリスのほうが戦いやすい」というのは、全米の得票を足し合わせるとハリス氏は強いが、州ごとに勝敗が決して勝った方が総取りする方式では、むしろハリス氏は都市部以外で伸び悩み、トランプ氏優位に進むとの見立てであろう。

一部のリベラル層には絶大な人気を誇るものの、保守層には抵抗感が強く、ネガティブキャンペーンを打たれやすいというハリス氏の特徴は、東京都知事選で想定外の惨敗を喫した蓮舫氏と重なりあう。

蓮舫氏は立憲民主党や共産党のコア支持層には絶大な人気を誇り、実際、都知事選の街頭演説は小池百合子知事や石丸伸二氏よりはるかに熱気に包まれていた。「ひとり街宣」活動も広がり、蓮舫支持層は熱を帯びた選挙戦を展開したのである。

ところが、その熱はコア支持層以外には広がらなかった。蓋を開けてみると、小池知事(291万票)にダブルスコア以上引き離され、石丸氏(165万票)も大きく下回る128万票にとどまったのである。

2年前の参院選で、蓮舫氏自身は67万票、共産党の山添拓氏は68万票だった。この票をあわせても135万票ある。そこにも届かなかったのだ。出口調査でも蓮舫氏は無党派層で石丸氏、小池知事に大きく引き離されている実態が浮かび上がった。

つまり蓮舫氏は高齢化が進む立憲と共産のコア支持層を固めただけで、若年現役世代を中心とする無党派層には完全にそっぽを向かれたのである。

蓮舫氏もまた好き嫌いの激しい個性派政治家だ。このタイプは参院東京選挙区(定数6)や参院比例代表(全国区)のような大選挙区・中選挙区ではコア支持層の熱狂的な支持を集めてめっぽう強いのだが、知事選や衆院小選挙区のように一議席を争う一騎打ちではめっぽう弱い。拒否度が強いため、アンチ蓮舫票が相手に流れてしまうのだ。

今回の都知事選も、蓮舫氏が出馬表明する前にJX通信社が行ったネット調査では、小池都政の「継続」を求める声は24%にとどまり、「交代」を求める声は42%に達していた。小池知事は明らかに「NO」を突きつけられていたのだ。

ところが、蓮舫氏が出馬表明したあとは「小池知事の是非」から「蓮舫氏の好き嫌い」に争点が移った。既得権を有する組織票は小池知事へ集まり、反小池票は「蓮舫氏が好きか嫌いか」で石丸氏と蓮舫氏に二分してしまったのである。

これは蓮舫氏本人の責任ではない。蓮舫氏のようなタイプの政治家を、現職に挑む都知事選に擁立した立憲執行部の戦略ミスといえるだろう。首長経験者や学者ら拒否度の少ない候補者を擁立していれば、アンチ小池票を一手にかき集め、石丸氏の躍進を許すことなく、場合によっては小池知事に競り勝てた可能性もある。

同じことは、ハリス氏にもいえるだろう。だからこそ民主党内には、高齢不安を抱えながらも最終的にはバイデン氏で突き進んだほうが勝率は高いという見方が最後まであった。やはり拒否度が高いと激戦州では競り負けてしまう恐れが高い。

もちろんハリス氏がそれを上回る魅力を発揮し、拒否度を落とすことに成功すれば、話は別である。さらにはトランプ氏がこれから失態を重ね、支持を失う可能性もあろう。とはいえ、現時点ではやはりトランプ優勢ではないかと私は分析している。

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