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枝野氏の「冷たい野党共闘」とは正反対!衆院選最前線で進む「心の通った野党共闘」

立憲民主党の枝野幸男代表は「野党共闘」という言葉を使わず、立憲民主党の「単独政権」を目指す考えを明言している。「政権交代の実現」を勝敗ラインに掲げず、「立憲民主党の議席増」を優先する姿勢が明白だ。共産党との共闘には半身の姿勢で、れいわ新選組の山本太郎代表にはとりわけ冷淡な対応を続けている。

これに対して山本氏は枝野氏への反発を封印し、「野党共闘による政権交代」を鮮明に掲げて、立憲民主党や共産党の候補の応援に駆けつけている。

山本氏は10月22日には東京8区(杉並区・阿佐ヶ谷駅前)で立憲民主党新人の吉田はるみ候補と並んでマイクを握った。立憲民主党と事前調整したうえで一度は出馬表明したものの、立憲民主党内の調整不足が原因で地元の吉田支持者から反発が噴出。山本氏が混乱を収束させるために自ら出馬を取り下げた「因縁」の選挙区である。

山本氏はこの東京8区騒動の結果、選挙区から出馬できず、比例東京単独で立候補するしかなくなった。このため「山本太郎」の名を掲げて選挙を戦えず、投票用紙に「れいわ」と書いてもらうしかない不利な立場に追い込まれた。

山本氏との約束を違えた枝野氏ら立憲執行部は非を認めていないし、山本氏に謝罪もしていない。

山本氏が一方的に出馬表明したかのように報じたマスコミは記事を訂正せず、山本氏のイメージをダウンさせたまま何食わぬ顔で「選挙報道」を続けている。

それでも「野党共闘による政権交代」の大義を優先させて吉田氏の応援に駆けつけた山本氏の姿勢は高く評価されるべきだろう。自分の党の議席増ばかりを優先させている枝野氏との「政治家としての器」の違いはもはや歴然としている。

山本氏と並んだ吉田氏の演説も良かった。次のようなエピソードを明かしながら、山本氏に歩み寄ったのだ。

先日、高円寺のカトリック教会のシスターと話していた時、山本太郎代表のことを「太郎ちゃん」なんて呼んでもうしわけないのですが、シスターが「太郎ちゃんはいつも貧困対策で頑張っていたんだよ、はるみさんもそれ一緒にやっていこうね」と言ってくださったんです。

詳しくは以下のツイッターにあるユーチューブ動画でご覧いただきたい。

枝野執行部の「冷たい野党共闘」とはまるで違う「心の通った野党共闘」が、「政権交代を目指す」という大義名分のもと、選挙の最前線でじわじわ広がっていることを感じさせる光景だった。

吉田氏の街頭演説後のツイートも良かった。「れいわ新選組の東京比例の躍進を、心からご祈念申し上げます!」という結びの一文は、本来なら立憲民主党を代表して枝野氏が発するべきものであろう。

山本氏が東京4区から出馬している共産党新人の谷川智行候補を応援するため、大田区の蒲田駅西口に駆けつけたのも感動的な光景だった。

谷川氏は医師である。年末年始の炊き出しをする活動にいつも参加し、同じように現場へ現れる山本氏と顔見知りだった。

山本氏が22日に東京4区(大田区・蒲田駅西口)の谷川氏の街頭演説に飛び入り参加し、谷川氏と肩を並べで語った短い演説は、この衆院選で最も印象に残る場面になるのではないかと私は思っている。

以下、ほぼ全文を起こすが、お時間のある方はぜひ、以下のツイッターにある動画でご覧いただきたい。心の通った演説であることを実感していただけると思う。

れいわ新選組代表、山本太郎です。共産党とはまったく違う会社です。別会社なんだけど、谷川さんは絶対に国会へ送らないとダメな人なんですよ。これ、ほんとに。どうして私が谷川さんのことを知っているかといったら、年末年始にね、社会的に締め出されてしまう人たちに対して、炊き出しがあったり医療相談があったりするときに、この方はどこでもいるんです。ほんとに。僕のなかのヒーロー谷川さんなんです。ほんとですよ、ほんとに。あのね、今年初めにもコロナで困った方々のためにそういうものが催されて、ものすごく体が悪い方がいらっしゃったんです(谷川さん「あ〜」)。で、私たち新宿西口からその人を連れて行ったんですが、途中で歩けなくなっちゃって。で、谷川さんに連絡したら、すぐに飛んできてくださって、これは救急車を呼ばなきゃだめだ、という話になって。とにかく、私のなかで、谷川さんヒーロー。大田区の皆さん、お願いします。ほんとにお願いします。所属している団体違いますよ、会社は別だけど、この人は絶対に国会に送らないといけない人。大田区の宝ですよ。お願いします。受からせてください、谷川さんを!

山本氏は2019年夏の参院選でれいわ新選組を旗揚げし、マスコミに無視されながらも旋風を起こし、難病患者と重度障害者の二人を比例名簿上位に掲げて当選させ、自らは落選した。

私は当時、東京・品川駅前で、候補者である重度障害者の木村英子さん(現参院議員)の演説を聞いて、思わず涙が吹き出した。私の近くにもすすり泣くサラリーマンが何人かいた。

1999年に政治記者となり、ずいぶんたくさんの選挙演説を聞いてきたが、初めての体験だった。まさか自分が選挙演説で泣くとは思いもしなかった。

困難な人生を歩んできた「当事者たち」を次々に候補者に担いでマイクを握らせる山本氏の選挙スタイルは、これまでの政治の常識を打ち破る「心を動かすストーリー」だった。

それは、政治的無関心と低投票率に苦しみ、政権交代への道筋を切り開けない「上から目線」の立憲民主党に対する強力なアンチテーゼでもあった。高学歴のエリート官僚出身者がひしめく立憲民主党に欠けているのはこれだと私は確信したのである。

弁護士から29歳で国政デビューし、民主党の将来を担う論客として若くから脚光を集めてきた枝野氏は、まったくタイプの違う山本氏のカリスマ性を警戒した。枝野氏ばかりではない。山本氏の台頭を恐れ、徹底的に弱者の側に立つ彼の政治姿勢を「ポピュリスト」と切り捨てる空気は、「民主党政権」を担った立憲民主党のベテラン勢を中心に重たく広がっている。

たしかに両者の間には相容れない何かがある。2019年以降、今回の衆院選に至るまでの立憲民主党とれいわの確執の根底には「政治とは何か」という根本的な思想の違いがあるのかもしれない。

政権交代を目指す今回の衆院選で、東京8区の新人候補である吉田氏ら次世代の政治家と山本氏の間で「心の通った野党共闘」が実現したことは大きな収穫であろう。そこに新しい政治の胎動を感じる思いである。

全国各地で「心の通った野党共闘」をもっとみたい。その先に「政権交代」がある。

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