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参院選の野党共闘は絶望的に。「改憲勢力の3分の2阻止」の旗印も怪しくなってきた

今夏の参院選で野党共闘が極めて困難な状況になってきた。

野党第一党の立憲民主党の支持率が低迷し、野党をとりまとめる求心力を欠くなかで、①国民民主党が新年度予算案に賛成して与党入りに大きく踏み出した、②日本維新の会が参院選で立憲民主党に代わって野党第一党を目指す姿勢を鮮明にした、③ロシアのウクライナ侵攻をめぐってれいわ新選組が他の野党と一線を画したーーの3点が大きな理由である。

以下、ひとつずつ詳細に見ていこう。

① 国民民主党「岸田政権への接近」

国民民主党の玉木雄一郎代表は国際的な原油高を踏まえ、ガソリン価格の高騰を抑えるための減税政策であるトリガー条項の凍結解除を強く主張してきた。岸田文雄首相が新年度予算案の審議で前向きに検討する姿勢をみせたとして新年度予算案に賛成。岸田首相と水面下で交渉を重ねた結果、トリガー条項の凍結解除に手応えを感じたと説明した。

野党が政府提出の当初予算案に賛成することは極めて異例だ。首相指名選挙や内閣不信任案で与党に同調するのと匹敵する政治的意味を持つため、国民民主党内でも慎重論が出て、前原誠司氏らは採決を欠席した。

立憲民主党はこれまで連合に配慮して国民民主党との共闘を最優先にする姿勢を示してきたが、当初予算案に賛成したことを受けて、さすがに参院選での共闘は難しいとの見方が強まっている。

それでも玉木代表はどこ吹く風だ。岸田首相、公明党の山口那津男代表と自公国3党の党首会談を開いて原油高対策について政党間協議を進めていく方針を確認。参院選に向けて「与党入り」をめざす姿勢を鮮明にし、独自色を強めている。

岸田首相が国民民主党との連携に動いたのは、政権運営に不満を強める安倍晋三元首相と菅義偉前首相が連携して政権批判を強めたからだ。菅氏は派閥結成の動きを見せるとともに、強いパイプのある公明党や日本維新の会との連携を強めた。公明党は参院選の相互推薦の見送りを表明して岸田政権に揺さぶりをかけ、新自由主義を掲げる日本維新の会は岸田首相の「新しい資本主義」への批判を強めた。

岸田首相は麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長と結束を固めるともに、国民民主党を取り込むことで安倍ー菅ー公明ー維新のラインに対抗することを狙ったのである。国民民主党は自民党内の非主流派や連立相手の公明党を牽制するカードだったというわけだ。

岸田首相は一方で安倍氏との関係修復にも動いた。自民党大会では安倍氏の持論である憲法改正を目指す姿勢を強調。ウクライナ戦争を受けて安倍氏が掲げる核共有の議論も容認に転じた。岸田首相の後ろ盾である麻生太郎副総裁は茂木敏充幹事長とともに安倍氏と昨年末以来の会食をして「和解」を演出した。

安倍氏や菅氏は岸田首相の歩み寄りを受けて少なくとも参院選までは岸田政権を支えていく姿勢をみせている。公明党も参院選の相互推薦を受け入れることで歩み寄った。

このような経緯をみると、国民民主党は岸田首相にとって「用無し」になったようにも見える。少なくとも参院選前の与党入りは難しいだろう。

とはいえ、参院選後の政局に備え、岸田首相は安倍ー菅ー公明ー維新に対抗するため「国民民主党カード」を温存していきたい意向だ。それが如実に現れたのが、参院選の山形選挙区(改選数1)での対応である。国民民主党の現職が立候補する予定のこの選挙区で、自民党は候補者擁立を見送る方向で調整に入ったのだ。

山形は自民党選対委員長の遠藤利明氏の地元だ。遠藤氏は谷垣グループ(約25人)の代表世話人。麻生氏は老舗派閥・宏池会を源流とする麻生派、岸田派、谷垣グループを再結集させる「大宏池会」を実現し、安倍派を上回る自民党最大派閥に躍り出る構想を描いている。遠藤氏の地元で国民民主党に譲歩し、将来的には玉木代表らを大宏池会に引き込むことも念頭に置いているようだ。玉木氏は宏池会の第三代会長である大平正芳元首相の遠戚にあたり、この誘いに前向きとみられている。

玉木代表の動きに前原氏らが同調する可能性は低い。前原氏はむしろ維新との連携を探る可能性が高いだろう。国民民主党は分裂含みで参院選を迎えることになりそうだ。少なくとも野党共闘に党を挙げて参加することはあり得ない。

②日本維新の会「打倒・立憲民主党」

日本維新の会は3月27日の党大会で、野党第一党を獲得して政権交代を目指す目標を掲げた。ポイントは自民党を倒して政権を奪取する前に、立憲民主党を倒して野党第一党を獲得する姿勢を鮮明にしたことだ。

松井一郎代表は菅義偉前首相と橋下徹氏を大阪府知事選に擁立した時からの盟友で、規制緩和など新自由主義的な政策を重視する菅政権とは連携する姿勢を鮮明にしていた。しかし、成長よりも分配を強調する岸田政権の「新しい資本主義」には反発しており、参院選にむけて規制緩和や歳出削減を前面に掲げて対決姿勢を強めるだろう。

しかしこれは自民党と全面対決するということではない。あくまでも岸田首相ー麻生副総裁ー茂木幹事長が仕切る現政権と対決するということであって、安倍氏や菅氏ら新自由主義勢力が自民党の主流派に返り咲けば再び連携を強化することになる。参院選はあくまでも「岸田自民党」との戦いであり、自民党内の権力闘争で菅氏を側面支援するという意味合いが強いと言える。

当面は野党第一党の立憲民主党を「最大の敵」とし、政権批判票を立憲民主党から奪い取り、立憲民主党に取って代わって野党第一党になることが、維新の目標だ。参院選で立憲民主党が惨敗して分裂する事態になれば、維新がその一部を吸収して一気に野党第一党に躍り出る展開は十分にあり得るだろう。

この場合、自民党主流派に安倍氏や菅氏らが復権すれば、自民党と維新の大連立という展開は十分にありえる。この時は公明党の存在感は低下し、憲法改正の発議に一気に進むことも現実味を帯びてくるだろう。

維新の立場からすれば、岸田首相や麻生副総裁に接近した国民民主党は目障りな存在でしかない。維新と国民民主党は「与党入り」を競いあうライバルの関係となり、参院選にむけて関係は一層冷え込むのではないか。前原氏らが維新との連携を強めれば、国民民主党は参院選前に分裂する可能性もある。

以上の考察からして、維新が参院選で野党共闘の枠組みに加わる可能性はゼロだ。

③れいわ新選組「ウクライナ戦争で単独路線」

れいわ新選組の山本太郎代表は昨年の衆院選で、立憲民主党から非常に冷たい対応をされながらも野党共闘の枠組みを壊さないように最大限の配慮をみせてきた。

これに対し、立憲民主党は今年の通常国会でれいわ新選組に国会質問の時間を十分に与えず、冷淡な対応を続けている。山本代表は、国会で「野党共闘」が実現しない以上、参院選だけで「野党共闘」を行うのは難しく、参院選は単独で戦わざるを得ないという姿勢を強めており、1人区では「野党共闘」に協力する姿勢を維持しつつ、2人区以上では単独候補を擁立する方針だ。比例票を掘り起こすには選挙区でできるだけ多くの候補を擁立するのは政党戦略としては王道だろう。

さらにウクライナ戦争をめぐって、れいわ新選組だけが与野党と一線を画して①戦争当事国の一方に加担することへの懸念を表明し、②「ウクライナと共にある」という国会決議に反対し、③ゼレンスキー大統領の国会演説をスタンディングオベーションで称賛せず、④早期停戦を優先して対ロシア経済制裁に慎重な姿勢をみせていることは、れいわと野党共闘の距離をいっそう広めることになった。

立憲民主党や共産党がロシアとの戦争を遂行するゼレンスキー政権を全面支持する立場で自民、公明、維新などと歩調をあわせたことは、「戦争」や「平和」という国家の基本政策をめぐり、れいわ新選組との間で根本的な政治理念の違いを露呈したといえる。参院選ではウクライナ戦争を受けて、戦争論や安全保障論、経済制裁の是非などが主要な争点となることは避けられず、れいわが立憲民主党や共産党と全面的に共闘することはもはや難しいであろう。一人区を中心に極めて限定的・消極的な共闘にとどまるのは避けられない。

④「改憲勢力の3分の2阻止」の旗印は成立するのか

立憲民主党の低迷を受けて、今夏の参院選で与党を過半数割れに追い込むことは困難という諦めムードが野党支持層の間にも広がっている。

かりに自公が過半数を割ったとしても、維新や国民民主党が「与党入り」を競い合っている現状では、彼らの与党入りを後押しし、連立政権の枠組みが広がるだけで終わってしまう。衆参ねじれ国会を実現させ、次の衆院選で本格的な政権交代を果たすという道のりは極めて険しい。野党第一党の立憲民主党は参院選が始まる前から「与党の過半数割れ」や「野党で過半数」という目標を掲げる意味さえ見失っている状態だ。

いったい何のための参院選なのか。有権者がしらけるのも無理はない。このような閉塞感あふれる政治状況を生み出した野党第一党の立憲民主党の責任は極めて重大である。

そこで、野党支持層の間では「与党の過半数割れ」を目標とするのではなく、「改憲勢力の3分の2の阻止」を目標に掲げ、少しでも与党の議席を減らそうという声も出ている。だがこれも「非改憲勢力」とは誰がという、根本的な問題とぶつかりそうだ。

与党入りをめざす国民民主党や維新は事実上の改憲勢力とみなすことができるだろう。そうなると、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党の4党で3分の1以上を得ることが目標となるのだが、問題は、野党第一党の立憲民主党の候補でさえ、本当に「改憲反対」を貫くと信用できるのかということだ。

第一、立憲民主党はこのままだと参院選で大惨敗し、参院選後に解党する可能性は捨てきれない。その時、改憲反対を掲げて当選した参院議員は、ほんとうにその公約を守るのか? 衆院選で共産党やれいわ新選組の支援を受けて小選挙区で当選した立憲民主党の衆院議員が選挙後に手のひらを返したように「野党共闘の見直し」を主張した姿をみると、私はまったく信用できない。

さらにウクライナ戦争を受けて、立憲民主党や共産党が国民総動員令を発して戦争を遂行するゼレンスキー政権を称賛する姿をみて、私はこれら野党も日本が戦争の危機に直面したら、「自衛のための戦争」や「正義のための戦争」を主張し、「緊急事態条項」や「国民総動員令」の必要性を訴え、国民に戦闘を強要するのではないかと疑い始めた。彼らは本気で平和憲法を守る意思と覚悟があるのか。所詮は「個人」より「国家」の視線から、国民を戦争に駆り出すのではないか。信用できなくなってきたのである。

このような状況で、自民党が掲げる改憲ーー緊急事態条項や自衛隊の明記ーーに反対し、立憲民主党が「改憲勢力の3分の2を阻止する」という旗を掲げて野党共闘を呼びかけたところで、説得力があるのか。「第二、第三の玉木代表」が現れ、あっという間に改憲勢力のほうへ転げ落ちるのではないか(立憲民主党の議員の多くはかつて玉木氏を代表に選出した人々なのだ)。

立憲民主党や共産党がウクライナ戦争への対応で自民、公明、維新などと歩調をあわせたことは、参院選対策としても大失敗であったと私は思う。結局のところ、平和憲法の理念を正確に理解し、国家が掲げる「正義のための戦争」を否定し、ウクライナ戦争への対応でそれを体現したのは、衆院3人・参院2人の弱小勢力であるれいわ新選組だけだったのだ。

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