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50万超の反対署名を無視してインボイス開始を強行した岸田首相の「4年間説明してきた」とは裏腹に「預り金」の誤解を放置し続ける本当の理由

岸田政権は50万筆を超える反対署名を無視し、10月1日にインボイス制度の導入を強行した。

課税売上高1000万円以下の免税事業者にとって事実上の消費税増税となる。岸田政権は大企業や富裕層を優遇する減税政策を打ち出す一方、中小零細への課税を強化する「格差拡大政策」を推進している。

岸田文雄首相がインボイス導入に先立って発したコメントはあまりにひどい内容だった。

「インボイスへの対応、複数税率が決定してから4年間にわたって様々な準備を進め、そして説明を続け、これまで何もしていなかったのではなくして、何年にもわたってその対応を考え説明を続け、そして今日に至った」

インボイスについてマスコミはほとんど報道せず、社会にほとんど周知されていなかったことを知りつつ、「4年間にわたって様々な準備を進め、説明を続けてきた」と言ってのける無神経さ。これぞ岸田首相の真骨頂であろう。

この首相が口にする「聞く力」や「丁寧な説明」とはこの程度のものなのだ。自分が言えば相手に届こうが届くまいが知らぬ存ぜぬである。

インボイス制度への周知が進んでいないことを映し出す最大の事象は、「免税事業者は消費者から消費税を預かりながら、自分の懐に入れてきた。きちんと納税するのは当たり前だ」というフェイクニュースを、いまなお多くの人々が信じ込んでいることである。

このフェイクニュースの発信源は、何と財務省だ。マスコミがそれを流布してきた。そしてネット上では今なお政権寄りの著名人たちがそれを拡散している。

まさに「官製フェイクニュース」をマスコミや著名人が広め、消費税に対する誤った認識が定着したまま、インボイス制度は始まってしまったのだ。

法律上、国家から消費税の納税義務を課されているのは、事業者(売り手)であって、消費者(買い手)ではない。事業者は「売上高」(正確には「課税売上高」)に対して消費税10%を課され、その分を消費者価格に転嫁しているだけだ(軽減税率適用の場合は8%。仕入れにかかる消費税分は控除される)。

もっとも、消費税分をすべて価格に転嫁できるかどうかはわからない。価格競争に敗れて消費者から見放されたら事業は立ち行かなくなる。消費税分を転嫁したくてもできない場合も多い。

結局のところ「本来の価格」とはあいまいなもので、それに消費税分を実際にどのくらい上乗せしているのかもあいまいなのだ。事業者は消費者価格に消費税分をどの程度転嫁したかを問わず、最終的な「売上高」に対して10%の「消費税」を課されているのである。

消費税は売上高に応じた事業者への課税であって、消費者からの「預り金」ではないーー実はこのことはすでに判例で確立している。

消費税が導入された1989年にサラリーマンが東京と大阪で国を相手に提訴し、「自分の払った消費税が事業者にピンハネされ、税務署や国家に入っていない」と訴えた。判決は「消費者は、消費税の実質的負担者ではあるが、消費税の納税義務者であるとは到底いえない」「消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しない」「事業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者との関係で負うものではない」として退けた。

要するに、消費税はあくまでも物価の一部であり、消費者からの「預り金」ではないと認定したのだ。この判決は確定している。そしてこの裁判でそう主張したのは、国(国税庁)だったのだ。

納税義務はあくまでも事業者にある。消費税分をどこまで価格に転嫁するのかは、価格競争を踏まえて事業者が判断することだ。それにかかわらず、「売上高」の10%を「消費税」として納税するという仕組みなのだ。

「事業者が消費者から消費税を預かり、代わりに納めている」というのはそもそも間違いで、「消費者に払わせる法的根拠」はない。事業者が消費税分を価格に転嫁しているだけだ。価格決定権は事業者にある。

この点から見ても「消費税」という名称は実態を映し出していないといえる。

そもそも消費税導入前に予定された名称は「売上税」だった。これに対して納税義務を負う商工業者らが「消費者価格に転嫁しにくくなる」として猛反発し、名称を「消費税」に変更して「消費者が負担する税」という印象操作を施したのだ。

消費税導入後、「事業者が消費者から預かって納める税」というフェイクニュースを流布したのは、何と財務省自身だった。「ちゃんと消費税も払っているのに、それを預かる人のなかにきちんと税務署に納めない人がいるなんて、ぜったい許せないじゃん」という啓発ポスターを作成したのだ。

これに対し、一部からは「消費税は預り金ではない」との批判が出ると、財務省は次に「オレが払った消費税、これっていわば預り金なんだぜ」という啓発ポスターに切り替えた。「いわば預り金」というかたちで誤魔化したのである。さらに「消費税は預り金的性格を有する税です」「とめないで私の払った消費税」という啓発ポスターが続いた。

財務省がなぜ「消費税は消費者から預かった税金」という虚偽のPRを展開したかというと、事業者による消費税の滞納が膨れ上がったからだ。消費税は「売上高」に課税されるので、どんなに赤字でも納税しなければならない。滞納が増えるのは当然である。そこで財務省は「お客さんから預かった税金なのだから、懐に入れてはいけないんだ」とウソのアピールすることで、滞納を減らそうとしたのだった。

あまりにひどい。

この結果、売上高が1000万円以下の免税事業者が「消費者から預かった消費税を懐に入れている」という、いわれなき批判を浴びることになった。官製フェイクニュースが免税事業者に対するバッシングを誘発したのである。

課税売上高1000万円以下の零細事業者が免税されているのは、売り上げが少ない業者の生活を守ることを目的とした社会保障政策である。

どの程度の売上高まで免税対象とするかは社会保障政策の視点から行政が判断すべき事柄だ。その政策判断に対する是非に賛否はあってよいが、免税事業者が批判されるべきものではない。

免税事業者が道義的・倫理的に批判されるとしたら「消費税分を価格に転嫁している」と消費者を偽って売りつけながら、実は消費税を納めていない場合だけである。消費税込と明示して販売していない限り、批判をされるいわれはない。消費者は実際の販売価格をみて、買うかどうかを判断すればよい。

インボイス導入を契機に免税制度が撤廃され、免税事業者も納税義務を負うことになるのは、社会保障政策の大幅な後退といえるだろう。これは「弱者切り捨て政策」なのだ。

ここで岸田政権が誤魔化していることがある。それは「複数税率導入で適正な税額を算出するためにインボイスが必要になった」という税務会計実務の問題と、零細事業者を守るための社会保障政策を強引にリンクさせたことだ。「インボイス登録しないと取引先が仕入税額控除できなくなる」のに「インボイス登録したら免税事業者も課税事業者になる」と追い込んだのだ。

だが、よくよく考えるとこれはおかしな話である。仮にインボイス制度が適正な税額算出に必要だとしても、それとは切り離して免税事業者制度を継続することは十分に可能だ。免税事業者にインボイスを発行することを求めつつ、売上高1000万円以下なら引き続き「免税」すればよいだけである。

つまり、インボイスと免税事業者制度をリンクさせなければよいだけのことだ。

にもかかわらず、財務省はなぜ、インボイスと免税事業者制度をリンクさせたのか。

その狙いは、①「消費者からの預り金を懐に入れている」という世論操作通じて免税事業者への批判を高めて消費税に批判的な大衆世論を分断する、②中小零細事業者を廃業に追い込んで、業者の統廃合を進め、大企業中心の経済構造に転換するーーことだろう。

このようにしてみると、インボイス制度は、「大衆には増税・企業には減税」という岸田政権の弱肉強食政策を象徴的に映し出していることに気づくのである。

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