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ものづくりの考古学者がゆく(1)鋳物を見る〜丹羽崇史

はじめまして、私は奈良県在住の考古学者の丹羽崇史。

普段は遺跡の発掘調査をしたり、出土した遺物や発掘調査の記録の整理をして報告書を書いたり、論文を書いたり、事務やマネージメントの仕事をしたりしている。時にはよそにお邪魔して文化財を調査したり、現地の遺跡を見に行ったりすることもある。

そう、考古学者の仕事はじつに多岐にわたる。

ある1日を紹介しよう。

今日はいい天気。そうだ、ずっと気になっていた、ある「もの」を見に行こう。

場所は誰もが知る有名なお寺、東大寺。

向かう先は大仏様がいらっしゃる大仏殿、ではなく、その東側の小高い丘を登った上にある鐘楼。

鐘楼とは文字通り、梵鐘を設置するために設けられた建物。吊るされた梵鐘はとにかく大きい。その迫力に圧倒される。

現在の東大寺の鐘楼が建てられたのは鎌倉時代。そして梵鐘は奈良時代に鋳造されたと伝わるもので、鐘楼とともにいずれも国宝に指定されている。

じつは、こちら、国宝の梵鐘を間近でじっくりと見ることができる、私の東大寺のおすすめの見学スポットでもある。

え、考古学者が梵鐘を研究するの? 

考古学って、遺跡から出土したものを研究しているんじゃなかったっけ?

いやいや、出土品以外にも、このような過去の時代に作られたあらゆる文化財は、考古学の研究対象。

東大寺の梵鐘を観察すると、外面にはさまざまな装飾のほかにも、横方向の線状の痕跡がある(下の写真の矢印の箇所)。これは銅を溶かして鋳造した時、鋳型の合わせ目から湯(溶解金属)が漏れた跡ではないか。所謂「バリ」(鋳バリ)とよばれているものである。

鋳物の「バリ」は今も昔も、取って磨いて目立たないようにするもの。しかしながら、よくよく観察するとこのように「バリ」の痕跡がわかることがある。

鉄板に挟まれて焼かれたたい焼きを開いたとき、合わせ目にできるのも「バリ」。そう、たい焼きも鋳物も合わせ目の隙間にできるという点で、「バリ」ができる原理は同じ。

次に梵鐘の内面を観察すると、たくさんの亀裂状の痕跡が目につく。

これは、湯(溶解金属)のまわりが悪かったのか、あるいは内型と呼ばれる内面の鋳型に、何らかの理由で多くの傷ができ、それらが転写されたのか。いずれにしても、外面とのギャップに驚きを覚える。

東大寺見学の折、有名な大仏様だけでなく、ぜひ梵鐘の実物をじっくりと観察されることをお勧めしたい。実際に実物を観察すると、ここで紹介した特徴以外にも、さまざまな発見があるはず。

そう、私の研究テーマの一つは、こうした昔の人が作った「鋳物」。私は鋳物や焼き物など、その作り方や歴史的背景を研究する「ものづくりの考古学者」である。

京都市安祥寺の梵鐘の鋳型の構造 (五十川伸矢2016『東アジア梵鐘生産史の研究』岩田書院)


梵鐘のように、金属を高温で溶かし、鋳型に流し込んで物を成形する鋳造技術で作られたものは「鋳物」と呼ばれている。

写真は福岡県にある芦屋釜の里で行われた釣鐘の鋳造の様子。真っ赤に溶けた銅が鋳型に流れ込む。鋳造の現場は迫力満点!

釣鐘の鋳造 (2009年3月 芦屋釜の里)


中国の殷周青銅器(私の学生時代からの研究テーマ)、弥生時代の銅鐸、古墳時代の三角縁神獣鏡、東大寺の大仏様など、歴史上にはさまざまな「鋳物」が登場する。時代が下り、現代の自動車の部品やマンホールの蓋も「鋳物」。はるか昔の時代から現代まで、実に多くのものが「鋳物」でできている。

私は日々、さまざまな時代の鋳物に残るこうした痕跡を一つ一つ観察している。個々の観察が「点」、それらを比較して時系列に並べてできるのが「線」、さらに広い地域で比較すると「面」になり、やがて次第に「ものづくりの歴史」が浮かび上がる。

今も昔も、作り手には自分の製作品を「美しく仕上げる」というこだわりがある。これに対し「ものづくりの考古学者」である私は、どんなものを観察するときでも、「作り手の痕跡」に注意を向ける。「作り手の痕跡」がわかれば、製作工程を解明する手掛かりになる。

そう、私にとって文化財の観察は、「美しく仕上げる」昔の作り手と「作り手の痕跡を探す」現代の考古学者との時代を超えた「真剣勝負」なのだ。

文化財は過去の先人たちが残し、継承されてきたもの。だから人間が住んでいたところには、必然的に文化財が残る。

文化財の楽しみ方は十人十色。博物館・資料館に行って展示を見たり、お寺や神社の古い建築を見に行ったり、仏像を見たり、あるいは各地に残る古墳を見てまわったり。

インターネットの普及により、各地の文化財へのアクセスはより容易になった。以前は図書館で調べていたものが、現在ではGOOGLEで「文化財 ○○(地域名)」で検索をすれば、その地域の文化財の情報がたちどころに出てくる。

ぜひ多くの方に、お住まいの地域の文化財を知り、実物を見る喜びを知っていただければと思っている。文化財を通じて現代に生きる私たちは、過去の人々の生み出した文化や技術、芸術に触れることができるのだから。

今後も、ものづくりの考古学者がみた「文化財の世界」を紹介します。お楽しみに!


丹羽崇史(にわ たかふみ)

奈良在住の考古学研究者。中国・韓国・日本を中心に、過去の時代の人々のものづくりやその技術を研究しています。このたびSAMEJIMA TIMESの筆者同盟に加わり、考古学・文化財に関する記事を執筆することになりました。考古学や文化財の魅力を発信できればと思っていますので、お付き合いいただけましたら幸いです。写真は中華人民共和国北京市にある大鐘寺古鐘博物館を見学した時のものです。