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オーストラリアから日本を思って(1)母国への違和感を率直に伝えよう~今滝美紀

※オーストラリア在住の今滝美紀さんがSAMEJIMA TIMESの筆者同盟に加わります。日本を離れて20年。日豪を比較しながら「変わりゆく日本」への思いをつづる連載です。

1 オーストラリアとの出会い

なけなしの貯金を元手にオーストラリアに渡ってから、気づけば20年が経っている。日本に帰る場所はもうない。

海外に興味があったわけではない。日本が嫌で逃げ出したわけでもない。教員の仕事は好きだった。はじまりは新しく転任してきた上司から「海外で経験してみないか」と言われたことだった。

せっかく声を掛けてもらったので希望・計画書を書いて提出した。行きたい国はやっぱりアメリカだった。世界の中心、アメリカンドリーム、ビックアップル、巨大なマーケット、多くのセレブが居を構えるアメリカは、憧れだった。

プロジェクトには参加できることになった。ただし派遣先はオーストラリアだった。少しがっかりした。

嫌いな国ではなかったが、地球の下の下(Down Under)の世界の果てにあり、駄々広く、暖かい気候で、の~んびりしているというイメージしかなかった。まるでインパクトがなかった。イギリスやアイルランドから多くの囚人が流されてきた国という認識しかなかった。

サウスオーストラリア州の首都アデレードから車で西へ約1時間、広大な麦畑や牧場に囲まれた人口約2千人の町に約1か月滞在した。十字を切る道に、教会、郵便局、学校、薬局、スーパーマーケット、ベーカリーと小さな店が点在し、住宅がぽつんぽつんと散らばっていた。ごみの落ちていない町だった。

一緒に仕事をしたオーストラリア人は、準備よく勤務時間内に集中しテキパキと仕事をこなす。アジア人は見かけなかったが、会う人々は一概に好意的に接してくれた。

一番の問題は、試験のためだけに嫌々勉強しただけの自分の英語力だった。仕事後に5,6人ほどの人々にカフェに誘ってもらった。ほとんど会話がつかめず、理解できないでいるとそれを察したように「私たちの英会話を理解しているの?」と尋ねられた。何故かその英語は理解でき「ほとんど分からない、でも英語の訓練になっている」と答えた。

野外でのコミュニティーの集いや食事、スポーツなどに誘ってもらった。帰りに送ってもらっても別れ際に声をかけてくれたことさえ理解できないこともあった。最後まで溶け込めず、エイリアンのまま帰国した。

日本に帰国してオーストラリアと何が違うのかとモヤモヤしていた。数か月滞在しただけでは、分かるはずもない。この違和感をこのままほったらかしにできない気がした。心の中で何かが動き始めた。

2 時間とは、生きるということ

教員の仕事は好きだし、やりがいもあり安定していた。上司も先輩も同僚も他人に害を与える人はいなかった。真面目で、よき人々だった。

でも、自分は未熟だった(今もそうだが…)。同僚といろいろな所に飲みに行ったり遊んだりするのも楽しかった。人と人との繋がりは大切だ。けれど「パンとサーカス」所謂「飽食と娯楽」以外にも心を満たすために何かが、必要だった。

仕事や生きることも要領よくこなせなかった。多くの人々がそうであるように残業勤務や休日の仕事の持ち帰りは普通だった。従わなければならないシステムや規則の中で自分のやっている仕事に迷い自信を失い、どんどん苦しくなくなっていく。どうしていいのかわからないという状況に落ちて行った。

このままこれ以上続けられない…。

学生時代に真面目で気のいいクラスメイトがいた。それゆえにグループから浮いている感もあった。その人がエンデの「モモ」という時間泥棒の本がすごくよかったと何度か語っていた 。私は、さして興味もなく「そうなの」というくらいの軽い反応だった。

それからネットサーフィンをするようになると何度かエンデと「モモ」を目にするようになる。エンデはモモを通して「光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのとおなじに、人間には時間を感じるために心というものがある。そして、もしその心が、時間を感じとらないようなときには、その時間はないも同じだ」ということを言っている。

そうか、このまま、心をあやふやに胡麻化しながら続けて時間を過ごしても、自分の時間は無いと同じことだ。それは、生きていないということ。自分の苦しさは、きっとそこから生まれていたのだろう。自分の心に耳を澄ませてみる。自分の無知と理解できないシステムや規則の中で、Dehumanise(非人間化する/豪でこの言葉をよく見聞きする)していたのだろう。

エンデは続ける。

「なぜなら時間とは、生きるということ、そのものだからです。そして人のいのちは心を住みかとしているからです」

3 日本の異変に気づいて

それから3年間、お金を貯め、仕事後に英語学校に通い、オーストラリアに渡った。様々な出会いや出来事が重なり、ふと気づくと20年が経っていた。

もちろん日本を思う気持ちは変わらない。だが、近年ツイッターを見るようになって、日本の様子が何やらおかしいことに気付いた。それからどんどんおかしくなっているように見える。一体何が起きているのだろう。

オーストラリアでは、日本と違うことがたくさんある。減税、積極財政、日本の約2倍の最低賃金、非原発、再生エネルギー転換、電気自動車への減税、中国との平和外交、人口増、夫婦別性、同性婚、政権交代…。これらの違いはなぜ生まれるのだろうか。日本の主要メディアはそのような疑問にこたえていない気がした。

そう心配する中、ツイッターで鮫島タイムスに出会った。広く深い知識、経験、洞察力に基づいた、鋭い分析と意見を伝えてくれる。権力におもねっていない。言葉と表現は熱い気持ちが込もっていて勇気づけられる。

メディアの役割は、国民が知っておく必要がある情報、分析や意見を伝えることだ。迷走暴走する与党とそれに忖度迎合するような野党(ゆ党)は、危険に見える。注視し厳しい声を上げていかなくてはいけない。

日本の人々、自然、文化芸術は素晴らしい。それを守ってほしい。そうすればもっと豊かになれる。

4 伝えたいこと

オーストラリアからみた「日本への違和感」を率直に伝えたい。そんな思いを鮫島タイムス(サメタイ)にぶつけたら、「筆者同盟」にお誘いいただいた。

サメタイに集う皆さんの多くは、日本の再生を願う方々だと思う。一人では、響かない声も皆で声を上げ続ければ、社会は変わることを見てきた。サメタイに賛同する一人として、このコミュニティーを広げる一助になれば、ということが、書く原動力だ。みなさんと時間や空間を超えて、交流できることも楽しみにしている。

政治や社会についてオーストラリアと日本を繋げたり、比べたりしながら見えることや話題の時事をお届けしたい。おまけとして、その他のオーストラリアの様子も時々、添えたい。興味がある方への読み物になればと思う。どうぞよろしくお願いします。


今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。

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