政治を斬る!

オーストラリアから日本を思って(11)ニュージーランドのアーダーン前首相と女子サッカーワールドカップが熱狂的マニアを生んだ秘密とは?~今滝美紀

この7月20日からニュージーランドとオーストラリアで女子サッカーワールドカップが開催されます。日本の初戦は7月22日ニュージーランドでのザンビア戦です。そんなこともあり、今回はニュージーランドにちなんで、今年4月に突然首相を辞任したジャシンダ・アーダーンJacinda Ardern前首相のことを取り上げたいと思いました。去年の4月、日本を訪問した際に受けたキウイ・マスコットと琴演奏の日本のおもてなしが話題になっていました。

アーダーン氏は、独自のスタイル「優しさ・共感と強さの政治」をあげて、2017年ニュージーランド最年少37歳で誕生した女性首相ですが、その時の話題はそれだけでなく、ニュージーランドで、初めて一番多い議席を獲得した党が与党にならなかったことでした。

「ジャシンダ・マニア」という彼女の熱狂的支持に押され、アーダーン前首相の労働党は46議席と伸びましたが、国民党は56議席。議席数では負けても、そこで、発揮された彼女のリーダーとしての巧みさは勝り、グリーン党(より庶民派)とニュージーランドファースト党(自称保守ですが、トランプ前大統領のように大衆の人気取りを狙うポピュリストと見られています)と3党連立で政権を取りました。

リーダーの政局をコントロールし維持し、まとめる手腕や人柄が、良い結果を生む例だと思います。

2020年の選挙では圧倒的過半数を獲得し「ジャシンダ・スライド」と呼ばれました。小党との連立を解消することなく、包容しました。グリーン党とはもう連立を組まないと宣言し、ニュージーランドファースト党は、9議席ありましたが、誰も当選しませんでした。

マオリ族の人々を尊重し、スピーチの始めは、まずマリオの言葉で挨拶をし、公式な場面でよく、マオリの伝統的衣装であるキウイの羽根のついたマントを着て現れていました。外務大臣に、少数派のマオリ族議員Nanaia Mahutaさんを選び良い意味で驚かせました。

Mahuta外務大臣は、初めて女性のマオリ族から大臣になり、初めてタ・モコと呼ばれるマオリ族の歴史、知識、技能などを示すタトゥーをした国会議員でもあります。その時の会見で「私たちは女性に選挙権を与えた最初の国であり、女性に関する問題で先進的であることを保証した最初の国です。マオリ系、混血系、ニュージーランド全土の多くの女性たちが、職業上の機会という点で、これまで私たちに閉ざされていた分野の天井をもう一度取り払ってくれる希望をもっています」と少数派や女性の代表として語りかけていたことが印象的でした。世界を駆け巡り活躍しています。下はその時の記者会見です。

また、外相は就任当初から「Five eyesファイブ・アイズという英米加豪新の機密情報共有の枠組みに抵抗し、豪州やアメリカと共に中国と敵対しようとする動きを取らない独自の外交を行う」と表していました。どの国とも敵対したくない、というのはオセアニア諸島の国々も同じです。

また、米と近い西側諸国では、珍しくアーダーン前首相はウクライナとロシアの戦争が起こった後、対話と協力を訴え、同盟の強化は分断と緊張を生むと反対し、AUKUS(英豪米の軍事同盟)にも加わっていません(こちら参照)。以下のように主張していました。

この争いを民主主義と一党制の戦いだという構図で見てはいけない。アジア太平洋に戦争を持ち込んではいけない。正直、今の世界は乱雑で混乱しているのが、現実です。しかし、その複雑さの中で、しばしば問題を白か黒かで描こうとするのを目にします。『自己満足のためにする予言』という危険性が、私たちの地域にとって避けられない結果となることを許してはならない。皆、この地域の軍事化に向けた動きに懸念を抱いているが、それは当然、気候変動による災害という暴力を経験した人々への懸念と一致しなければならない。

分断や争いではなく、対話と協力の外交を強調しました。そして、地球温暖化による海面上昇で国の生存を危惧する太平洋諸国の国々を代弁し、例えば「台湾有事は日本有事」という声や戦争を起こそうと、うずうずしている勢力に、釘を打つように毅然と述べていました。

国のリーダーにありがちな攻撃的で傲慢な態度とは対照的で、優しさ・繊細さと強さが元にあるリーダーであることを示していました。

約5年間で、少数派政党を包容し、2019年クライストチャーチでのテロ事件の悲劇から人々を導き、パンデミックの管理、気候危機や自然災害への対応など難局を乗り越え、世界の注目を集め人気が高まる一方で、国内ではパンデミックでフラストレーションの溜まった人々が、過激なデモを起こすようになり、メディアも頻繁にそれを報道しました。また、農業・水の供給システム・住宅不足・労使関係・インフレ圧力という複雑な問題も指摘され始めました。

2020年には70%だった支持率は2022年には30%まで落ち、SNSでの悪質な批判や犯罪をほのめかすメッセージも送られるようになり、多くの男性が起訴されたことが、辞任に至った本当の理由ではないかと言われています。

アーダーン氏の「自分にはもう首相をこなすエネルギーが残っていない」という辞任発表は、残念でしたが、爽やかですがすがしい会見でした。2019年には、長年不妊治療をしても授けられなかった赤ん坊を40歳前にやっと生むことができ、子どもや家族のこと、パンデミック後のニュージーランドの回復を考え、バトンを渡す時期だと判断したことは、引き際を見極めることができる良いリーダーだったとも評価されました。

最近のインタビューでは「私の辞任が政治論議の熱を冷まして落ち着かせたと思う。それはニュージーランドにとって良かったこと。私の判断は正しかった」と冷静に答えていました。

15年間務めた国会議員に終止符を打ち、国会で別れを告げるアーダーン氏の写真です。

今後は、2019年の白人至上主義によるクライストチャーチでのテロ襲撃事件の際、インターネットで過激で暴力的な内容が大量に流され、社会に大きな負の影響を与えたことをきっかけに、ソーシャルメディアの過激主義問題に対処するために情熱を注ぎたいと述べていました。

アーダーン氏の影響を受けたのか、2022年の豪州の国政選挙では、前例を見ないほどの無所属の女性議員が立候補し当選しました。女性議員の存在は、組織の分断を避ける役割を果たす傾向があるそうです。男性も女性も両方バランスよく必要だということでしょう。

豪州の与党(労働党)は過半数が女性議員で、閣僚も女性が約半数です。州でも同じような傾向があり、男性ばかりの政治家集団を見ると、返って違和感を覚えるようになりました。日本の第1,2,3党の上層部は、ほとんど男性で占められている印象がありますが、分断が度々起こる、一つの理由かもしれません。選挙の争点にはならないと思いますが、意図的に女性をもっと登用することは、日本の大きな課題かもしれません。

アーダーン氏の辞任は、いろいろな問題が浮き彫りになり、考えさせられる機会にもなりました。彼女は政治的なリーダーシップからは下りてしまいましたが、民主的リーダーシップとして新たな道を歩き始めたことに、今後も注目していきたいと思います。

女子サッカーワールドカップを楽しみな気持ちと反面、どうしても気になることがあります。それはロシアチームが、予選を通過し参加できるはずだったのに、ウクライナとの戦争のために、参加を許されなかったことです。よくスポーツは政治に口を出すなと聞きますが、政治が罪のない、それまで、ワールドカップを夢見て努力してきた選手たちを制裁することに、いたたまれなくなります。

テニスの国際試合でも、ロシアとベラルーシ―の選手の国旗は白旗で示され、握手を拒否する選手までいました。記者会見でも、ウクライナとロシアの戦争をたずねる記者もいました。親露の国の選手の家族がロシアの国旗をもった人々と写真を撮っただけで、非難され試合をコートで見ることができませんでした。これらのことを、メディアは取り上げて、大袈裟に放送します。まるで、人々の考えを誘導し、対立や憎しみを深めているように感じます。

スポーツに政治を持ち込まない。これは私のリーダーを選ぶ、必要条件になりました。

女子サッカーは、米や欧州のチームが軒並み世界ランキング上位を占める中、その他の地域の奮闘を期待したいです。日本はランク11位なので、ぜひノックアウトステージまでは、勝ち残ってほしいと思います。女子サッカーは、どんどん発達し、スピードのある細かい技術が高く、しなやかで勇敢なプレイが見られ、男子に劣らず見ごたえがありそうです。

最後に、2023女子サッカーワールドカップ関連ツイートを載せておきます。

※ニュージーランドとオーストラリアの間にはタスマン海Tasman seaがあり、ペンギンが生息しています。生まれ故郷であるタスマン海とUnity(団結)をミックスしたマスコットの名前がTazuniです。この15歳の少女は、「偉大さを超えていく」イベントの精神をつかむ準備ができている!

※アメリカの人気プレイヤーRapinoeさんは、Tazuniを意識したのでしょうか。選手たちのファッションも楽しみです。


今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。

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