(前の話はここ)夏だけの数ヶ月間のみ通行できるアイスランドのハイランドを通る道Kjölur(キュールル)。その真ん中あたりに位置するキャンプの拠点地Kerlingarfjöll(ケルリンガルフョットル)で一泊車中泊。
この日はバナナとナッツを朝食とし、コーヒーだけを入れて出発しようとキャンプの共同使用小屋に入ると、フランス人団体が朝食の片付けをしていた。
「コーヒー、まだたっぷりあるから宜しければどうぞ」と嬉しいオファーを受けた。ありがたや、ありがたや。フランス人は美食家だ。不味いはずはない。保温ボトルに入れさせてもらった。
昨日の夕方、彼らは手分けをして野菜を切り、食前酒付きで食事をしていた。美味しそうなチーズやら酒類をたくさん持参したようで(アイスランドで酒は高級品)、ちょっぴり恨めし〜く彼らを見つめてしまった私たち。そんなこともあり、美味しいコーヒーのおこぼれはとても嬉しかった。朝から得した気分。
さて、今日はどう動こうかとキャンプ事務所を訪れた際にもらった地図をみると、ごく近くのHveradalir(クヴェラダーリル)という場所に駐車場がある。駐車場があるということは、きっと見るべき何かがあるに違いない。少しそこに寄ってから先へ進むことにする。異動二日目の目的地は、アイスランド第二都市のアークレイリだ。
分かっていたこととはいえ、そして近隣とはいえ、Hveradalirへの道は悪路だった。道路幅は狭いし急斜面の上り坂、大きな石もゴロゴロ。山間部の上り坂。それも木のないアイスランドは見通しがいいので、景色が悪いはずがない。「さすがに景色すごいね〜」と、小さな駐車スペースを見つけては車を止めてみる。
「お〜〜!」
本当に凄い光景を目にした時は、細やかな表現など思い浮かばない。元々そのような表現を持ち合わせていないことは、読者のあなたと私の内緒ね。
どーでもいいことだが、ここまで小型車で来るのは不可能ではないとはいえ、かなり厳しい。特にキャンプ地を出て、番号も振られていないこの悪路は、小型車では無謀としか言いようがない。なのに、なのに、なんと、トヨタのアイゴが途中駐車してあった!どうやら、先に見えているぬかるみには太刀打ちできないと判断してか、そこで車を降りて、Hveradalirへ向かったらしい。賢明な判断ではあるが、ここまで到達したこと自体が賢明なのか疑問。どちらにしてもドライバーの技術とトヨタ車に敬礼。
Hveradalirの駐車場には、コーヒーを分けてもらったフランス人団体のツアーバスの他にも、海外からの観光客のレンタカーが10台近く停まっていた。こんな僻地に海外から観光に来ているということは、いったい何があるのか?
「我々は地元民だ。ここまでなら日帰り旅行も可能な距離。説明の看板を見て、気に入れば次回ゆっくり見にこよう。まぁ、少しだけ歩いてみてもいいが」
というノリだった。20メートルほど先の看板の説明を見て、周囲を少しだけ見回せばいいやと思っていた。だから、ジャケットも羽織らず、カメラだけを持って車をでた。
いろんな名前が出てきて混乱するが、Kerlingarfjöllとはケルリンガル山脈という意味。標高は1400メートルだそう。この駐車場の標高も1000メートルはありそうだ。そしてこの山脈にある温熱地帯をHveradalirと呼ぶ。上の写真を見ると写真のところに赤い色の線が見える。それがハイキングコースだ。
「ハイキングコースがあるんだね。山脈はきれいだけど、ハイキングは次回かな。観光客は続々と歩いていくぞ。少しだけ見てみるか」
「数分だけね。長いハイキングじゃなくて」
「早くアークレイリへ行きたいから、数分だけにしよう。気に入ったらまた来ればいいんだし」
という会話が笑い話になるのに要したのはたったの2分。この光景が目に飛び込んできたら、読者のみなさんはどうする?車に戻って目的地へ走るか、少しだけ見学をしていくか。
や、やばい(またまた語彙がない!)まずい・・・。なんだこの色彩はぁ?!ここは宇宙か、別世界か?!写真では見たことがあったが、実際にここまでの規模で見るのは初めてだ。やだ、これ、もっと見たい!
おまけにハイキング道がとてもよく整備されている。歩きやすい。滑らない。怖くない。もうちょっとだけ、もうちょっとだけと階段を降り、え〜い、ここまで来たら最後までと、ボコボコと地が沸き立つ場所まで降りてしまった。ここを拠点として、周囲の山々へと道が分かれている。
素晴らしく整備され足場がしっかりと作られている。こんなことならせめてジャケットを羽織ればよかった。セーター一枚では風が染みて寒い。ここで作戦会議をした(そんなに大袈裟?)
気持ちとしてはハイキングコースを全て回りたいが、その時間がないのと、軽装すぎて無謀。それでも、一箇所だけは低い山に登ってみようということになりぃ・・・。結局1時間半をそこで費やした。
これは海外から来る価値がある!海外の観光客の方がわかってるじゃん!
途中、フランス人団体とまた出会った。女性の一人が彼に何やら興奮気味に語っていたので何事かと思ったら、「このような素晴らしい場所は見たことがない」と言ってたそう。彼はフランス留学歴3年間。フランス語は不自由しないそう。私はフランス語は分からないけど、日本語の読み書きはできるぞ。
それからアイスランドの自然は大きすぎて、動画や写真では全く歯が立たない。なので、興味を持った方はぜひアイスランドへどうぞ。
「数分」「ちょっとだけ」が合言葉だったのに、身体も冷えてきたので仕方なく、後ろ髪をたっぷりとひかれたまま現場を後にした。次回は天候のいい日を見極めて、ハイキングコースを網羅することを目的に来ることが決定。ただしその次回がいつになるやらだけど。
*2022年追記:実際に行きました!その話のコラムはこちら。
車を出発させた私たちは、前回の記事の動画に少し出てきた滝Gýgjarfoss(ギーギャルフォス)を5分ほど眺め、再度Kjölur高地道路に戻りアクレイリへ。次回はアイスランドの外食事情と、アクレイリでのグルメをご紹介予定。
小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、アイスランド在住メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。アイスランドと日本の文化の架け橋として現地新聞に大きく取り上げられる存在に。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。