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こちらアイスランド(76)〜極北の花見会。話題は日本の子育ての厳しさへ 〜 小倉悠加

アイスランドの首都レイキャビクの、チョルトニン湖畔にある公園(Hljómskálagarðurinn)の花見会に参加してきた。

アイスランドは国土の一部が北緯66度線にかかる極北の国。大きな樹木は育ちにくく、野生で見られる植物は背が小さい。溶岩が広がる新しい大地でもあるため、まずは苔が繁茂し、苔に守られながら小さな草花が育っていく。

かつてアイスランドは巨木が茂っていたが、ヴァイキングが住み着いた際に燃料や木材として切り倒し、使い尽くしてしまったと言われる。が、どうもその説は眉唾っぽいと私は疑っている。

そこに桜だ。

樹木に欠ける極北の孤島に、温暖な気候を好む桜が根付くのか?

日本とアイスランドの友好親善のシンボルとして桜を根付かせたいとの思いで選ばれたのが、千島桜という桜の原種だ。

2011年5月友好親善協会がレイキャビク市、在アイスランド大使館等の協力をとりつけ、この桜の苗を50本ほどチョルトニン(湖)のほとりに植樹した。

植樹から10年以上が経過しているが、なかなか大きくはなってくれない。とはいえ、植樹時は胸程度の高さだった桜も、私の背丈を超えるほどになっている。最終的にはこの3倍くらいになるそうだ。

植樹以来、毎年アイスランドでも「花見」が行われてきた。もちろん日本の規模には及ばないし、花見よりも花冷えが身に沁みることも多く、気分だけでもと思っても厳しいものがある。

今年はなかなか花見のアナウンスがなかった。この国ではコロナ規制は全廃されている。にも関わらず、日本流の自粛とやらで花見はないのか。はて、どうしたのか?と思っていたところ、開花状況を見極めて二週間前に発表された。

イベントの予定を数ヶ月前には立てる日本人からすると、切羽詰まった時期での発表に思える。けれど、アイスランドの基準では十分に早い。早すぎるくらいだ。大掛かりな物事以外は、数日前、前日あたりに発表されることが多く、当日に発表されることさえ稀ではない。あまり前に発表しても、忘れられてしまう可能性の方が高い国民性とも言えよう。

日本人は花見に異常なまでの情熱を示す。私も桜に関しては情熱というか意地になる。日本を離れる際一番残念に思ったのが、桜を見られなくなることだった。今でも桜に関しては腹がよじれる思いがする。あの華やかでやさしげな桜の花を一身に浴びるのが、人生唯一の心の高揚といってもいいほど大好きだからだ。

どうしても開花が気になる。花見会がなければ、自分だけでも花見をしに行こうと心に誓っていた。誓うほど大袈裟なこと?まぁ、ね。だって桜なんだから!

4月下旬にパトロールした際は、蕾がまだ小さかった。そして5月8日にはここまで咲いていた。

アイスランドの千島桜は、咲き始めたら数日でパ〜っと一斉に開花することはない。植えられた位置により、風当たりや気温にばらつきがあるせいか。湖に近づくほど開花が遅く、一般道に近い土地が高くなるほど開花が早かった。

そして以下が5月11日の桜。二日前よりも開花が進んでいるのがわかる、よね?!

そして迎えた花見会。2022年5月13日(金)午後5時開始。何よりも天候に恵まれて本当によかった。いやぁ、晴天は本当に貴重なんですよ。風もそこそこ。アイスランドでは最高の花見日和。寒いか寒くないかって、あ〜た、野暮なことは尋ねないのも華。

この会はÍslensk-japanska félagið(アイスランド・日本協会)の主催で、ゆる〜く会長のヘルガ・グヅルンさんの挨拶から始まった。私は早稲田大学で、アイスランド語と文化の授業を毎年1-2度だけ受け持っていた時期があり、その時の授業に学生として座っていたのが彼女だった。あれから10年ほど経ったのか。意外なところで時の流れを感じた。

ビニールシートは主催者側が用意していて、膝掛けも完備。その上、アイスランドでは貴重品のアサヒ・ビールが振る舞われ(キャ〜うれしい!)、ポッキーやキットカットも配られて、子供のように喜んでしまった。日本に住んでいた時はガン無視していた菓子なのに、この時ばかりは抹茶味とか、ピーチ味とか、美味しくてたまらなかった(笑)。

在アイスランド日本大使館の職員も、大使を始め、書記官のご家族もいらっしゃり、邦人のみなさんと顔を合わせる貴重な機会となった。

私も幾人かと言葉を交わした。その中に子育ての話題が出てきた。

「アイスランドでは子供の声を気にしなくていいので、本当に助かっている」
「日本での子育ては辛すぎて考えられない」
「子育てが罰ゲームのような日本」
「子育を持つことは贅沢」

そこで耳にしたのは、日本での子育ての厳しさだった。

同意するしかなかった。30年前、私が子育てをした時代よりも、さらに世間の目は厳しく、母親にかかる責任が異様に重くなっていると感じる。子供に、子育てにやさしくない社会のあの空気感は、いったいなんなのだろうか。

異口同音に日本での子育ての不自由さを嘆き、アイスランド社会の子供に対する寛容と理解を称賛していた。この国の子育てがパラダイスかといえばそうではないが、私も日本の子育て事情がアイスランドに迫っていれば、もう一人産んでもいいかと思っていた可能性は高い。

アイスランドに限らず、北欧、欧米は子供への目が暖かい。ーーというようなことを書くと、「また北欧礼賛かよ!」と迫ってくる人がいそうだけど、そういう人はたぶん子育てをしたことがないのだろう。礼賛でもあるが、そうでもない。

子供の声にめくじらを立てる大人の多い日本が異常ではないのか?子供や親に「場をわきまえろ」という煩いオヤジの方が、場をわきまえていないだろう。

いやはや、ビールをひっかけながら楽しく花見をしたけれど、日本の子育ての現状や小さい子を持つ親のことを考えると、一気に酔いが覚めたのだった。

小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら

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