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こちらアイスランド(117)アイスランドにも春の気配。ドラゴン石の物語は生まれるか?〜小倉悠加

アイスランドも少しだけ春めいてきた。春めくといっても、日本のように草木の先が一斉に活動を始めるような気配ではなく、あくまでも日照が長くなる程度で、気温は変わりない。

日本の国土を覆う最大の存在は森林だ。アイスランドの国土は何に覆われているのか?国土の8%が氷河であることはわかっている。残りの90%は何で構成されているのか?具体的な統計を見つけることはできなかったけれど、大半が溶岩台地であり、それを覆う苔が広い範囲を占めている。

日照以外での季節感をあえて探すなら、苔にその姿を見ることができそうだ。

これは先週末、レイキャネス半島を細かく探索した時の写真だ。

新緑が顔を出し始めてはいるが、まだ枯れた冬色の苔が残る。そんな大地の表情が、アイスランドの春の姿ではないかと思う。日本でいえばちょうど啓蟄の時期に当たる気配を、私は溶岩大地の苔に感じる。

今回探索したのは380号線だ。あまり使うことはないけれど、風光明媚なドライブだし、舗装道の427号線から枝分かれしている未舗装道。427号を走る度に、Hlíðarvatn(湖)の反対側に家屋が見えるので、どうやって行くのかなぁ?と思っていた。

380号線に入る前から、427号を並行に伴走する旧道を通ってみた。車は一台も通らないし、ゆっくりと周囲の苔を観察しながら走るには楽しい。

こうして写真を投稿する度に思うのは、都会に比べると風景が単一で色彩が決まりきってしまうなぁということ。私自身はそれが大好きではあるけれど、読者は見てると飽きてしまうのかとも。どう?

ここまで来たから寄ってみようかと、今は廃れたかつての農場を見に行ってみた。

ここは詩人エイナール・ベネディクトソンが静けさを求めて晩年に住んだ場所で、伴侶のヒリン・ヨンソンが農場を運営して生活をしていたという。現在はアイスランド大学が管理している。

家の中には入れないが、周囲には牧場の基礎となっていたと思われる跡があちこちにあった。私も静けさが好きでアイスランドに移動したけれど、ここまで徹底しての生活は厳しい。ここまで腹を括れる胆力不足とも言える。

それにしても二人だけでどうやってこのような場所を築いたのだろうか。重機がなければ石を動かすことも困難であろうし、穏やかな気候に恵まれているとは言い難いアイスランドで、このような孤立した生活を選ぶとは。

近隣には突然大きな石が点在するこんな場所もあった。

それにしても私、辺境好きなのかな、本当に。それとも、石を見て喜ぶのは人間の本能なのか。山がそこにあるとはいえ、このような大きな石が落ちてくるような風情ではなく、不思議な場所に思えた。もっとも、地質学などを知っていれば、答えは簡単なことなのかもしれないが。

この周辺はレイキャビクから小一時間で到達できるし、途中はクリスヴィクというこれまた風光明媚な地域を通るので、あまり時間がなかったり、遠出したくはないけれど少しだけ冒険したいと思う時に便利な地域のひとつだ。

そして、向かったのが未舗装の380号線。ところどころに「釣り禁止」の看板があったので、釣り場であることがわかる。釣りは興味ない。魚を食べるのは好きだけどね。

支線が何本かあり、いくつかの道を進むことにした。それにしても車は一台もこない。湖の周辺には、個人所有ではなく、労働組合所有の別荘がいくつかあることがわかった。

夏は結構賑わいのある場所かもしれない。風景のいい場所へ出る道の先は駐車場があるし、子供たちを放置してもそれほど危なくないだろう楽しい自然の遊び場が点在している。

駐車場から数分で歩いていける孤島(?)のような一角に、白い羽がたくさんついた場所があった。鳥が最近まで営巣していたのか、去年の渡り鳥の忘れ物なのか、不思議な光景だった。

380号線の途中で、めずらしい光景に出会った。

苔の大地はよく見かけるが、溶岩の上の部分だけを苔が覆っている場所を、私は思い出すことができない。夏になると、どのような植物が周囲を包むのか、かなり興味がある。

Hlíðarvatnを一周する形でレイキャビク方面へ戻る途中、もう一箇所だけ、少しだけと、Vigdísarvallavegurに寄ることにした。日照が長くなったおかげだ。

正式には開通していない道ではあるけれど、自己責任で通るのは合法。残された日照を少しでも長く楽しみたい。ひたすら日照から隠れたいと思っていた、日本に住んでいた頃の私はどこへ行ったやら。人間、やはり住環境に順応していくものなのかと感慨深い。

Vigdísarvallavegurに入り、ひどく奥まで行かない場所に、気が向くと立ち寄るポイントがある。小高い丘のようになっていて、かつてはカルデラだったような窪みがいくつかそこにある。

美しかったとしか書けず、語彙力がなくて情けないけれど、写真を大きくして見てもらえれば、なんとなく雰囲気は掴めるか、と。右の写真は今日のお気に入りの一枚だ。カルデラの溶岩のひとつが、この角度だと、鳥か、動物か、ドラゴンが毛づくろいをしているように見えないだろうか。

自然には限りない想像力を引き出す力があるのか、このドラゴン石(私が勝手に名付けた!)を見ていると、物語が生まれてきそうな気がする。

この日は春の気配は感じたけれど、気温が低い日で、すごく寒かった!アイスランドは国名の「氷島」というイメージから受ける印象よりも、実際はずっと温暖だ。たとえばレイキャビクの冬の平均気温は0度程度(でも今年はもっと寒い!)。風さえなければ、北極圏が近い割には楽勝の気温だろう。

本格的なドライブの季節はあと数ヶ月先になる。それでも、ぼちぼち外に出る機会が増えるので、少し心が躍り始めている。


小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

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