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こちらアイスランド(152)警戒情報を発出!噴火の兆し再び!今度は生活圏か?インフラ危機、ブルーラグーン閉鎖、道路も閉鎖!〜小倉悠加

追記:このコラムを書き終えた数時間後、地震の回数が増えたため、当局はcivil protection alert(警戒情報)を発出。

再追記:日本時間11月11日午前9時。グリンダヴィクの住民に避難勧告。それも夜中の3時までに避難のこと。避難勧告は73年ヘイマエイ島の火山噴火以来の出来事。経緯は私のツイッターをご覧ください。時系列で追える限り逐次ツイートしてます。


2023年11月9日から一週間、ブルーラグーンの営業が停止された。直接の理由は頻発する地震で、要は近隣での火山噴火の可能性だ。

3年連続の火山噴火はエンタメとして楽しませてもらった口が言うのもナンだが、今回の噴火の兆しは楽しめない。とても心配している。

人間は本当に身勝手なものだ。人里離れた山間部であれば心躍らせて見学を考えるが、人里近く、それも生活インフラに大きな影響を及ぼす可能性があるとなると、噴火は災害でしかない。心は重く、懸念材料しかない。

世界最大の露天風呂、乳白色の湯が美しいブルーラグーンは、地熱発電所の副産物だ。その歴史をかいつまんで説明しよう。

地熱発電に使用した冷却水(熱湯)を海水とまぜて周囲に流していたところ、ちょうどいい湯だと、人が入浴しに来るようになった。その湯で皮膚病が治り、水質を検査した結果、確かに薬効が認められた。健康保険協会がそこに掘立て小屋を作り、皮膚病患者が入りにくるようになった。それがブルーラグーンの始まりでありルーツだ。

今やそこは世界に名だたる観光地となった。掘建小屋は立派な屋舎になり、無料だったそこは有料となり、公共プールと同じ値段で入れた時代は遠い昔のこと。今や入湯料は1万円だ。他の有名観光地と同じように、地元住民には縁遠い場所となった。

ということなので、地元住民にしてみればブルーラグーンの閉鎖は特に問題ではない。

それでは何が問題なのか?生活インフラの確保であり、そこへの被害が最も怖い。

今までの噴火は山間部だったので、溶岩が流れに流れても、生活インフラに大きな影響はなかった。主要道路の遮断はあったかもしれないが、溶岩はそこへ到達する前で止まった。

害がなかったどころか、火山見学の経済効果で近隣の街は潤ったし、旅行会社も航空会社もそれを売りにした。ご存知の通り(みなさん、読んでますよね?)私も3年連続の噴火で、15回以上生の噴火を見学をすることができた。とても貴重な体験だった。

今回揺れている場所にもしも何かが起これば、事態は真逆の方向へ進む。災害を免れないかもしれない。

今回地震が起き、問題になっているマグマ溜まりはブルーラグーン南西の地域で、ブルーラグーンと地熱発電所はほぼ同じ場所にある。そこには当然電気の供給元であり、冷水、温水のパイプがある。電話等の電波は、すでに別ルートが確保されて問題ないそうだが、物理的なパイプや送電線は別ルートの確保といっても早々には無理だ。

わかりきっていることを書くが、電気がないと何もかもが動かなくなってしまう。電気、電子化が進み、いまや自動車まで電気式になった。電気がないとドアひとつ開けられなくなる。飲み水の確保は必須であるし、アイスランドでは温水も死活問題になる。

アイスランドは寒い国なので、暖房が生活の大きな鍵を握る。その暖房を担うのが温水なのだ。この国の暖房は電気でもガスでもなく、温水!暖房のみならず、洗濯や風呂などの生活用水としても配給されてくる。温水なしに生活は不可能になる。

火山観光は全くの論外で、とにかく生活インフラの確保を最優先。もちろん近隣住民の安全確保は言うまでもない。

今回、群生地震が起きているのは山間部ではなく、グリンダヴィクという人口約3千人の街からそう遠くない場所だ。

現在は噴火が起こりそうな状態ではないが、そこにマグマ溜まりがあり、一週間で7センチも土地が隆起したとなっては、対策に動かざるをえない。当然マグマは溜まり続けているし、そのマグマの圧力が地表を押し上げているのだ。

そんな状態が続く中、今週に入りグリンダヴィクの街は避難経路を発表。備えあれば憂いなしの対策だ。国の安全保障委員会のようなチームも動き、火曜日には記者会見を行った。

翌日、溶岩から生活インフラを守るため高さ10メートルの要塞を作ることを発表した。ブルーラグーンと地熱発電所をぐるりと取り囲む要塞だ。発表したのはいいし、作るのも悪くないと思うが、今から資材を発注して間に合うのか?間に合うとは思えないのだがーーー。アイスランド人らしい場当たりの国民性を感じずにいられない。いや、計画は無いよりもあった方がいいし、とりあえず進める方向なのもいいと思う。

ちなみに、電話やインターネットなどの回線は別ルートをすでに確保済みだという。これで、何があってもとりあえずは連絡はつく。

最初の話に戻るが、ブルーラグーンが閉鎖された。直接の要因は地震で、昨夜M4級の地震が頻発し、恐ろしくなってタクシーで近隣のホテルに宿を移した宿泊客が続出したという。加えて、ここ二週間地震が続いていたため、スタッフのストレスが大きくなってきたことも閉鎖に拍車をかけたそうだ。

営業停止は暫定的に一週間。その後の営業は、これからの一週間でどのように物事が動くかで決まる。これからアイスランドに来て、ブルーラグーンに浸かる予定の人はご注意を。

このコラムを書いている間にも、ブルーラグーン至近距離のノーザンライトインというホテルが営業を停止したというニュースが入ってきた。そこへ通じる道も閉鎖され、従業員以外は立ち入れなくなった。

どうも当局は、近隣での噴火ありきで動いている気がして仕方がない。もちろん物理的な用意も、心構えも、どちらも大切だ。そして何事も起こらなければ、それはそれでいいのだ。

地震がおさまり、土地の隆起も落ち着けばそれでいい。マグマ溜まりの規模が少しばかり大きくなったとはいえ、基本的には今までと変わらない。

とはいえ、この騒ぎの後に、心落ち着かせて生活ができるのだろうか?いつも心のどこかに拭いきれない不安を抱えるのではないか。そうであれば、人里離れたところで噴火して地下の圧力を抜き、落ち着いてほしいと思うのは私だけだろうか。

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

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