アイスランドに興味を持つ芸能人やアーティストが増えたせいか、最近「アイスランド」の文字をあちこちで見ることが飛躍的に増えた。
この国を訪れる人も増え、それに伴い「住んでみたい」という声もちらほら。もちろん、夢のような憧れが大半だと思うし、私自身も当初はそうだった。
現実的には厳しいけれど、道がないこともない。基本的にどうすれば一時的にでも住むことができるかをサクっとご紹介したい。
定住ではなく、一時的にでも住みたい!という欲求をどう満たすかという解釈でお願いします。
私はレイキャビクに移って9年目になった。毎回「拠点を移した」と書いているのには意味があり、一生をここで過ごす予定も意思もない。海外移住は日本国内の「引越し」よりもズンと重さがのしかかる。「移住」という言葉には骨を埋める場所として選んだと響くため、避けているのだ。ちなみに、当コラム第一回目のタイトルは鮫島さんがつけたため「移住」という言葉が使われている。
まずは最近、アイスランドがどのような形でマスメディアに登場しているかを、自分用のメモを兼ねて記しておきたい。
まずはアイスランドで撮影された有名人の写真集が立て続けに発表された。
長濱ねるさんは大人気、大活躍中の女優さんだ。今年7月に発売となった長濱ねるさんの写真集は、リリース早々二週間にわたりジャンル一位に輝いた。ロケ地はアイスランドとフィンランドの両国で、アイスランドのコーディネーターは私だった。ねるさんはこのコラムを必ず見てくださっているそうで、実はキョーレツに驚いた。ねるさん、ありがとう!
ねるさんの少し前に出版された映画『国宝』の主役を務めた吉沢亮さんの写真集『Foss』もアイスランドでの撮影だった。これは書籍と連動で行われた写真展も評判がいいようだ。
有名人が次々とアイスランドを撮影地に選ぶのはなぜなのか。アイスランドは景色が写真映えするのに加えて、生活の素朴さや自然の荒々しさが被写体の人間性を引き立たせるのかな?
音楽畑では歌手のAimerさんのアイスランド好きはずっと以前からのこと。今年私が日本に滞在していた時に彼女のFM番組『Laid-Back radio』でアイスランドのことを話する機会をいただいた。Aimerさん、ありがとう!
最近、テレビ番組の劇伴音楽等で注目をされるJun Futamataさんもアイスランドでのレコーディングを行い、録音スタジオ内の動画も発表してきた。これも私がお手伝いさせていただいた。Junさん、ありがとう!
それから先日、テレビ番組『ANOTHER SKY』で女優の見上愛さんが熱くアイスランド愛を語っていた。なんでも見上さんはアイスランドで陶芸家になりたいそうだ。
ふかわりょうさんのアイスランド好きも以前から知られているし、他にもプライヴェートでかなり芸能人が訪れているらしい。イッテQでも結構取り上げられることがあるかと記憶している。
アイスランドのどこがそれほど魅力的なのか?
私はアイスランドの静けさとピリっとした空気が好きだ。レイキャビクには面白い文化的なことが身近にあるのもいい。街のどこへでも歩いてアクセスできる足回りのよさも気に入っている。
私は小さい頃から人里離れた山の中のような自然に囲まれた場所で暮らしたいと思ってきた。変人ですね(笑)。
人混みが多い場所は常に苦手で、20代半ばから満員電車に乗ると電車の中でパニック障害(動悸、めまい、吐き気等)が出ることが多くなり、会社員を辞めている。
日本にいると人混みを避けたいがため引きこもりがちになる。人と会うことが苦手だと思ってきたけれど、どうやら原因はそこではなく、人混みを避けられない環境が苦手であることに気づいた。

本題に移ろう。
アイスランドに住むといってもいろいろな形態がある。とりあえずこうすれば住めますよ、というのを以下にまとめた。それぞれ長短はあるので、本気で考えようという人は、以下をヒントに自分で調べ、理解し、納得して行動に移してほしい。
+3ヶ月以内であれば(シェンゲン協定内)普通に滞在できる。
必要なのは第一に財力。第二に英語力。
レイキャビクの家賃は高い。近郊も同じ水準の家賃だ。まずは住宅難で物件が見つかりにくい。見つかったとしてもシェアハウス一室で月額10万円以上。キッチン付きのアパートだと現在は25万円以上が当たり前。敷金もあるため、最初に3-4ヶ月分をまとめて支払う必要がある。
物価全般に高いので、要はその資金があるか?ということに尽きる。このカテゴリーではアイスランド内での就業はできないため、リモートで仕事ができる人であれば収入を得ながらも住むことは可能。
私がレイキャビクに住む前は、このパターンを毎年繰り返した。コーディネーターとしての仕事を受けてはレイキャビクでの仕事の前後に滞在を延長した。
この方法で、15年間に20回以上アイスランドを訪れて、のべ約2年間をレイキャビクで過ごした。その間に人脈も随分とできたし、居住許可をどうすべきかを事前にアイスランドの弁護士とも話したので、とりあえず腹を括ればなんとかなるか?という非常にアバウトな感じで移ってきた。ダメなら日本に戻ればいいだけだ。
若い人は私のようないい加減な気持ちで挑むべきではないけれど、やったる!という勢いは必要だし、考え方は人それぞれでいいと思っている。物事は何がきっかけでどう転がっていくかは、発車してみないと分からないことが多い。
+学生として住む。
留学生になる、これは確実な方法だ。優秀ならば奨学金も出るとはいえ、当初はやはりある程度の資金が必要だ。貯金の残高証明も必要になると記憶している。
アイスランドで学生になるための年齢制限はない。私は60代でアイスランド大学に1年間通わせてもらった。1年間のアイスランド語コースで留学ビザも降りる。条件は高等学校相当の教育を終了していること、英語力、財力の三点セットが必要。
ついでに言及すれば、修士課程を卒業すると、その後3年間アイスランドに居住(就業)できる許可が降りる。
+ワーホリで住む。
年齢制限はあるし、当初の生活資金(貯金残高証明)は必要ではある。けれど、学生とは異なりアイスランドで就業できるし、飲食店などは日本よりも格段にいい収入を得ることができる。アイスランドの職場では食事を提供することが義務付けられているため、食費もある程度浮く。余暇であちこち旅行することもできるし、私も若ければやりたかった。
+アイスランド人の家族になって住む。
アイスランド人との婚姻、養子縁組。家族は引き裂けないので、(ほぼ)自動的に居住許可が降りる。
+企業や教育団体等から招待を受けて住む。
ここからやたらとハードルが上がる。「この仕事はこの人でないと絶対にダメなんです!!」という確かな証拠・根拠が必要。
+現地で職を得る。
日本人(=EEA圏外の外国人)にはまったく非現実的。仕事はまずアイスランド人・EEA圏内の人、すでに現地の就業許可を持っている人が優先。欧州圏内に募集を出して、それでも日本人でなければこの仕事は務まらない!というのでないと雇用できない。
同様に日本人だけでなく、北米人やイギリス人などもEEAの縛りで四苦八苦する。
全く現地につてのない日本人がアイスランドに来て、いきなり職業につくことができた人物を私は一人も知らない。いや、50年くらい前に一人だけ日本の男性が漁村で働き続けていたとか、そんな伝説のようなことは聞いた覚えがある。あれ?フェロー諸島だったかな??
とにかく、それほど難しい。
逆に、就業許可が下りなかった悲しい話は時折聞こえてくる。その中には日本女性の話もあった。彼女はアイスランド大学を卒業してアイスランド語は堪能、現地に就職先も決まっていた。けれど、その職に関する募集をEEA圏内で公募しなかったという理由で、就業・居住許可が降りなかった。この記事にある通りだ。彼女はその後再度学生に戻り、その間に正式な手続きを経て職業をみつけている。
アイスランド大学を卒業し、アイスランド語が堪能でも追い出されそうになる。まして日本から突然やってくる人物を雇う理由はない。雇用主側から見れば、すでに就業・居住許可を持っていないと手間がかかりすぎるのだ。EEA圏内隅々まで探してもこの人でないとできない!という職種でないと雇えない。

結論は、日本人がアイスランドに住める簡単な方法はない!ただし財力があれば別!という感じかな。
ここまで読んでくれた熱心な若い人のために少し追記しておけば、北欧諸国で海外(EEA圏外)からの学生の授業料を免除しているのはアイスランドのみとなった。フィンランドは今年から授業料の支払いを義務付け、年間100万円以上になるそうだ。
いつアイスランドも諸外国に追随すると限らない。留学を考えている人は、早めに行動した方がいいかも。
小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。
