困った困った。平々凡々すぎて、書くことがないぞ。
5月下旬に一週間ほど、スコットランドはエジンバラに滞在した。私の誕生日旅行だった。けれど、理由はそれ以上に、二年間以上アイスランドに閉じ込められていた彼の息抜きも兼ねていた。
なぜエジンバラなのか?私も知らん(笑)。
彼の同僚で何度もエジンバラを訪れている人がいて、よさげなことを聞いていたため、規制も全廃されたことだし、行ってみたいと思ったらしい。
ある日の夕食後、エジンバラがどうとムニャムニャ言いながらパソコンに向かっているので、ハハン、旅行先を調べているのだな、と薄々思ってはいた。と、突然ーーー
「誕生日旅行。エジンバラでどう?というか、もう航空便取ったんだけどさ。ユウカがどこへ行きたいのか、事前に尋ねなかったけど、いいところらしいからエジンバラでいいよね?ネ?ね!」
ん?!ナヌ?!そんなに「いいよね?!ね!」と言われては、ヤーダとは言えないだろう。
付け加えたように、「それとも別の場所の方がいいかな?ユーカどこへ行きたい?」とも。
航空便を抑えた後に尋ねてどーする。行きたい場所を尋ねましたから〜という形式だけだな。ま、許そう。気持ちはありがたいし。
「エジンバラでいいよ。行ったことないし」
私はスペインやイタリアあたりの方が興味あるし、彼はかつて4年間留学していたフランスへ私をつれて行きたいらしい。が、その地域はまだ若干の縛りがあるため、手軽さを考えると、エジンバラの選択は理解できる。
ただし現在の私の「海外に出たい欲」はゼロ状態。なにせ年末年始を日本で過ごしている。エジンバラへ行こう!と言われた心の盛り上がり度は20%程度。むしろ彼を海外に出してあげたいから行きますかぁ、のような感じだ。
そんな訳で、現地へ行ってからテキトーに考えようという至極気軽な旅だった。そして一週間、ごく平々凡々の観光旅行をしてきた。ここにご紹介するのは、そんな私の、ぶらぶらエジンバラ旅行です。
まずはエジンバラ城。キャッスル・ロックという岩山の上に建つ古代からの要塞とWikiにある。歴史の重みは感慨深かったけれど、日本の城に感じる趣の方がやっぱり好き。
要塞だけあり、鉄砲の配備は圧巻だった。今ならドローンで空から配備も動きも丸見えになる。当時の真剣勝負は今や子供の遊びとなったという、時代の流れを否応なく感じた。そして人間は果てしなく過ちを犯し続ける浅はかなものだと、落胆を新たにした。悲しいことに、人は進歩するどころか退化しているとしか思えない。いつになれば、歴史を繰り返さなくなるのだろう。
要塞よりも肌にあったのは美術館!国立美術館が入場無料なのはとてもありがたい。ウキウキで見に行った。
私は聴覚人間で、視覚人間ではないと自分では思う。言い換えれば、音楽好きで、音楽であれば自分の基準を持っている。けれど、視覚に関してはド近視の上に乱視だし、美術は見るだけで自分の中に基準はない。「美術が好き」という意識さえないのに、ワクワクで見に行くのだから、やっぱり好きなのか?
所狭しと並べられた中世らしき絵画は一様に重く、暗く、特に宗教画は苦手。ボッティチェリ、ダヴィンチ等、超有名どころの絵が続き、心から感嘆できる絵と、テーマが苦手で逃げてしまうものも多かった。
結局ホっとしたのはモネ、ゴーギャン、ゴッホ、マチス、モリゾ、ドガなどの印象派。ミーハーでごめん。
素晴らしい原画を満喫したけれど、それ以上に楽しかったのは併設されていた現代アートのセクションだった。同じ時代に息づく仲間として、親しみをもって遊べた。
今回の旅行でひとつ理解したのは、イングリッシュガーデン熱ともいえるガーデニング人気。日本の「庭づくり」とはちーと違う。
一目見てすぐ納得した。「みんなこういうお庭に憧れるんだ」と。だって私も、こういうお庭がほしいと思ったもん。
エジンバラはスコットランドだけど、隣り合わせの地続きだから、ガーデニング文化はほぼ同じと見ていい。素敵だ。
アイキャッチにしたのはそんな庭園のひとつ、たまたま見つけたDunbar’s Close Gardenという場所で撮った写真。
こういった庭園には、作り込む端正な美しさと、勝手気ままに繁茂してもらいましょうという作意の無作為を同時に感じた。花の季節にはまだ早く、ローズガーデンのローズは咲いていなかった。けれど既に雰囲気は盛り上がりつつあり、パープルの色合いが目に鮮やかだった。
今回の旅のハイライトは何だったのか?
ハイライトはいくつかある。アイスランドでの食事の選択はとても少ないので、久々にあれこれ食べたいものが食べられた。食欲に素直になれたし、エジンバラには食べたいものが目白押しだった。
最初にたまたま入った中南米レストランは満足だったし、誕生日に行ったミシュラン店のPhiorは言わずもがな素晴らしかった。アイスランドにもあるタラとラム肉を使い、これだけの味が出せるのか!という、なんかもう、アイスランド人よ、もっと調理法を工夫せい!みたいな感じだった。
雰囲気で彼が選んでくれたのがドームというレストラン。アイスランドは国としての歴史も浅く、豪華な歴史的建造物がないので、こういった重厚でゴ〜ジャスな雰囲気に浸れるのはうれしい。
最終日、航空機に乗り込む前に市内で食べたなんちゃって日本食もそれなりに満足。あぁ、都会っていいなぁ〜。
過去の旅行を振り返れば、エジンバラとは対照的なのがベルギーで、見た目も味も芸術的なチョコがそこら中にあったのに、食事で納得できるレストランを見つけるのが難しかった。今回のエジンバラはチョコレートが壊滅で、アイスランドにも劣るとは全くの予想外。
予想外といえば、部屋履きが見つけられなかった!スリッパは日本特有だとしても、部屋履きくらいヨーロッパにあってもいいと思わない?アイスランドではスリッポンのような部屋履きを何度も修理して使っていて、そろそろ買い替えたく思っているけど、見つからなかった(悲)。
ハイライトに戻ろう。ハリーポッターで有名な、ホグワーツの汽車も見てきた。この日だけ1日バスツアーでハイランドを観光。ガイドのお兄さんのスコットランド訛り英語が難関で、それを謎解きのように楽しんだりもした。
ツアーでは駐車場が満車につき停車できず、湖のLochan na h-Achlaiseを素通りしたのがとても残念。それでも、ハイランドの大まかな土地勘を掴むのにとても役立った。スコットランドの渓谷はアイスランドよりも落ちつた美しさがあり、機会があればレンタカーで1-2日走ってみたい。
次なるハイライトは毛糸だ。
編み物好きの私は、シェットランドの毛糸も密かに楽しみにしていた。色合いが微妙に哀愁を帯びて、見ているだけで幸せな気分になる。けれど、お値段が幸せではなく、心惹かれてこれでもかなり抑制して購入したつもりだけど・・・・
買っちゃった。編み物族ならこの気持ちは痛いほど理解できるはず。だって、スコットランドで毛糸を買う機会が人生に何度ある?
毛糸の在庫は、見ているだけで人生が豊かになる(大袈裟!)。色合いだけではなく、手触りもよく、ニギニギするだけでホワっと心が暖まるのだ(編み物族定番の言い訳)。買わなければ一生後悔したと思うので(これまた大袈裟)、お財布には厳しかったけど、心に優しいのでヨシとしたーーという経済状態と心理状態をぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。
とまぁ、ごく平凡な観光旅行に終始した中、一番印象深かったのは、帰国前の日に、川のほとりを散策した時のことだった。
生い茂る木の間を歩いていると、突然ザザザっという音がした。風に揺られた木の葉が擦れあう音だ。思わず「あぁ!」と声が出た。嬉しかったのだ。
アイスランドには木がほとんど生えていない。昨今のCO2騒動で植林は進みつつある。それでも、日本のようにあちこちに大木を見る環境ではない。私は木の葉が擦れあう音に飢えていたのではないかと思う。
なつかしい音だった。立ち止まり、私はその音をしっかりと身体に刻み込もうとした。
私が突然驚いた声を出したことを不思議に思ったのか、「どうかした?」と彼が尋ねてきた。何を感じたのかを説明はしたけれど、木のない国で生まれ育った彼には、ピンとこないというようなリアクションだった。
木の葉が擦れあう音に心が躍り、同時に心が落ち着いた。グルメもハリポタもエジンバラ城もよかった。それでも一番心に残ったのは、木の葉の音だった。
ちなみにスコットランドはコロナ規制全廃。マスクしている人はほぼ皆無。アイスランドも同じこと。で、日本はまだマスクですか。なんでぇ???
小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら。