アイスランドは高級温泉ブームだ。各地に続々と新しい施設が登場している。そんな時流に乗り、アイスランド第二都市アクレイリへ行った際、今年4月にオープンした最新の温泉施設フォレスト・ラグーンへ出向いた。
温泉施設といっても日本人感覚の「温泉」ではなく、平たくは公共プール。公営の市民プールではなく、雰囲気を重視した高級リゾートで、各施設ともにそれぞれ個性をアピールして観光客を集めている。
アイスランドにはこういった施設があちこちに出現している。
ざっと挙げれば、レイキャビクの周辺には世界的に有名なブルーラグーンを筆頭に、Kopavogurのスカイ・ラグーン、ロイガルヴァトン(湖)の湖畔にあるフォンタナ、レイクホルトのクロイマ、Husafellのキャニオン・バス、Hvarfjordurのクヴァムスヴィク・ホット・スプリングがある。北東部にはブルーラグーンを真似てかミーヴァトンの地熱発電所近くにまずネイチャーバスが登場し、続いてHusavikのジオ・シー、Egilsstadirのヴーク・バスがオープンした。
この温泉ブーム、火付け役は世界最大の露天風呂と言われるブルーラグーンであろうと思う。世界的に有名になったここは、元を正せば発電所からの温水を周囲の環境に破棄したことがきっかけだった。温水はタービンの冷却に伴う産業副産物で、地下水と海水を混ぜたもの。基本的に水なので、近隣の溶岩地帯に流せば地に戻ると思っていた。
ところが成分の関係で水溜りができ、ところどころに快適な湯加減の場所ができあがった。湯加減がいいだけではなく、この湯には疥癬に効果があることがわかり、温泉治癒の場所として有名になっていく。ブルーラグーンとなったのは1992年。その後、施設の拡大を繰り返し、世界的に人気の高い現在の巨大施設となっていった。
それぞれの施設には設立に伴うストーリーがあり、紐解いていくとなかなか興味深い。今回ご紹介するアクレイリの温泉施設はフォレスト・バス、森林風呂ということになる。
なぜ森林なのか?私の邪推にすぎないが、近隣にあるのが海に面したジオ・シーや湖に浮かぶヴーク・バスで、何を「売り」にするかを考えた時、余っていたのが「木」だったのかと。
アイスランド人は森林がないことにコンプレックスを抱いている。「我が国は大きな木がない、森林のない、とても貧しい国だ」という考えだ。郊外の広い土地の家の周囲に、森林のごとく木がたくさんある場所を見かけることがある。あれは「森林のある豊かな国にしたい」という人が植えたものだ。「私の父はこの周辺に1万本の木を植えました」等、植林を誇りとする人に遭遇することが時々ある。元来の生態系に組み込まれていないものをガンガンもってくるのは愚行とは思うけど、そんな正直なことは言えないので、生返事を返す。
フォレスト・ラグーンというネーミングを聞いた時、アイスランド人の持つそのようなコンプレックスの裏返しに思えた。そして、この温泉施設の周囲にはどれほどの木があるのだろう?と少し興味をそそられた。
ちゅーことで、この夏休みにアクレイリへ行った時にフォレスト・ラグーンに寄ってきた。入湯料大人一名約6千円。タオルは追加料金(900円)でどうぞという強気の料金。
外観も内装もウッディでモダンなスッキリしたスタイル(カタカナ単語も続いてごめん)。カフェにある暖炉がいい雰囲気を醸していた。暖炉といえば、クロイマという温泉には水着のまま入れる暖炉の部屋があり、そこが静かで暖かく、心落ち着く場所だった。
フォレスト・ラグーンも他の高級温泉施設と同じく、施設内ではリストバンドがキーとなる。ロッカーの開閉もリストバンドで行うし、温泉に浸かりながらドリンク類を購入する時もこのリストバンドが必要だ。
フォレスト・ラグーンはさすがにブルー・ラグーンほどの規模感はないが、それなりに気持ちがいい。温水は、近隣のトンネル工事の時にでてきた水源を使っているそうで、天然温泉だった。温泉内には一箇所水を飲める場所があり、もちろん料金はかからない。
サウナも完備され、自動的に温度調節できるような施設だった。サウナの外にはシャワーとコールド・プールが設置されており、スタンダードな設備とはいえ、サウナ、シャワー、コールド・プールの一連の流れは気持ちスッキリする。
ごく小さな滝ではあるけれど、打たせ湯的な場所もあるし、若干温度が高い場所や、子供たちでも安心な浅瀬も用意されていた。
写真でわかると思うが、フォレスト(森林)と呼べるほど木は多くない。少なくとも林や森を見て育った日本人の私には、「これがフォレストなんですか?」という程度の、まるで頭の髪の毛が少ない人をハンサム(半寒)と呼ぶような、そんな気持ちになってしまう。
湾の向こう側がすぐにアクレイリの街で、それを対岸から見ることができるのがいいのかどうか・・・。現在は夏なので木々に葉があるため視界が若干遮られているが、冬になって葉が落ちると、対岸から丸見えかと。それに、木の葉が落ちる季節になったら、温泉に大量の葉が落ちてこないのか?
長年、木に親しんできた日本人の私は、お節介にも掃除のことなどを考えてしまった。周囲がすべて常用樹ではないと思う。
温水の温度はちょうどよく、温水の中で座れる場所もあれば、テーブルのように使える石も点在し、よく考えられてた作りであることは確かだった。気持ちのいい湯に浸かりながら、ゆったりとした時間を過ごした。
ブルーラグーンのように、一生に一度は行っておきたいかもという場所ではないけれど、時間と予算に余裕があれば、行って損はない場所でした。
ちなみに翌日はこの地域にイエローウォーニングが出ていたので、この温泉に寄った後、予定を早めてレイキャビクに戻ることにした。アイスランドをぐるりと山手線のように一周する1号線は、使わざるを得ないことが多く飽きてしまうので、時間は長くなるけれど氷河と氷河の間を通るキュールル(F35号線)を使用。その後も1号線は避けて、家路へと着いたのでした。
ところで、ここにコソっと書けば、鮫島さんは最近大忙しのようで、ここ数週間ほど投稿予約を入れた後に報告をすると、「写真が素敵ですね」というようなことだけが返ってくる。「こちらアイスランド」はサメタイの息抜きの場なので、特にブツギを呼ぶような話題ではないけれど、写真以外の内容を確認してくれているのかなと少しばかり気になってる。
小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら。