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市民記者が神奈川県政に迫る第一弾! なぜ、神奈川県「LINEコロナお知らせシステム」は通知実績ゼロなのか?〜池野青空

私たちが暮らす街の疑問を自ら掘り下げて追及しようーーそんな「市民記者」が全国津々浦々に誕生すれば、この国の行政は格段に向上するに違いない。SAMEJIMA TIMESはそう考え、第一弾として「神奈川県民」または「横浜市民」を対象に「神奈川県政」「横浜市政」の疑問に迫る筆者を募集しました。

神奈川県民、横浜市民の皆様へ。黒岩知事と山中市長を追及する「筆者」を募集します!

応募者の中からトップバッターとして登場していただくのは、横浜市在住の池野青空さん。これまでコメント欄でも鋭い指摘を重ねていただいたサメタイの読者です。池野さんは外資系企業でITとセキュリティーを担当する管理職を務め、昨年に「引退」されたそうです。IT専門家の立場から神奈川県のコロナ対策への疑問に迫る記事を寄稿してくれました。

それでは池野さんの「市民記者デビュー」記事をご覧ください。


「LINEコロナお知らせシステム」をご存知だろうか。飲食店に入る際にQRコードを読み取ってアプリで登録すると、その店に同じ時間帯に感染者がいた場合、濃厚接触の通知が届くという触れ込みで神奈川県が開発・運用している感染拡大防止システムだ。

2021年3月4日の県議会厚生労働委員会で、立憲民主党の市川よし子議員が、このシステムの実施状況について質問している。

議事録を読むと、このシステムに登録した件数はこの質問の時点で約52万件あったことが分かる。ところが、実際に「濃厚接触」を通知したケースは1件もなかったというのだ。利用実績は「ゼロ」だったのである。

私たちの税金を投じて開発された「LINEコロナお知らせシステム」がまったく役に立たなかったのはなぜか。その謎を解くポイントは、アプリで登録された入店記録が自動的にシステムに反映されるのではなく、保健所がいちいち内容を判断して反映するか否かを決める仕組みにある。

県感染症対策課長の答弁によると、飲食店の利用客は計52万件の入店記録をアプリを通じて登録したものの、実際には保健所が入店記録をシステムに一件も反映しなかったため、「濃厚接触」は誰にも通知されなかったのだという。課長はその理由について①感染者数が少ない時は、保健所の調査で濃厚接触者が特定できるのでシステムを使う必要がなかった②感染者が増えてくると保健所の業務が逼迫し、このシステムを使う余裕がなかったーーと説明した。

市川議員が「今のシステムを修正して、接触したケースの場合に(ただちに)お知らせが行くという、実効性のあるものに改良すべきだと思います」と提案したところ、課長は「当システムの改良というより、保健所に対しても、変異株の特定に積極的にシステムを活用することを提案していきたいと考えています」と答えた。

保健所に対してシステムの積極活用を求めたところで、本当に有効活用されるのだろうか。

私は今年2月の第6波の最中、横浜みなとみらい地区の飲食店をくまなく見て回った。入店時にアプリを使って登録した利用客も、アプリを使って登録するよう客に促す従業員も、ひとりも見つけることができなかったのである。

県議会の質疑から1年経った今もなお、このシステムはまったく使われていないのではないか。私はそのような疑問を禁じ得ず、思い切って市川議員の事務所に尋ねてみた。市川議員は現在、他の委員会の委員に転じていたが、それでも県の担当者に問い合わせてくれた。その結果、今でもこのシステムの利用実績は「ゼロ」であることが判明した。

台湾ではオードーリー・タンIT担当大臣が昨年5月にQRコードを読み込んで入店する同様の通知システムを開発し、現在も活用されている。QRコードで読み込んだ店の情報を携帯のSMSを使って送信するだけの単純なシステムだ。専用アプリは不要で、電話番号が自動登録される。このため、神奈川県のように保健所の人手を煩わせることなく、自動的に濃厚接触者を特定して通知することが出来る。

台湾政府は入店時には必ずQRコードを読み込んで登録するよう求めている。台湾の友人によると、セブンイレブンに入店する時でさえ登録を求められるという。(下記写真参照)

一年前の県議会厚生労働委員会で「LINEコロナお知らせシステム」の質疑が行われた後、デルタ株の第5波、オミクロン株の第6波では、濃厚接触者が特定出来ないほど感染が拡がった。市川議員が一年前に提案したように、自動的に「濃厚接触」が通知される仕組みに改良していれば、第5波、第6波で保健所の負担を軽減出来たかもしれない。とても残念だ。

感染者から濃厚接触者を自動的に特定する厚生労働省が開発したCOCOAも、神奈川県が開発した「LINEコロナお知らせシステム」と同じように、一切個人が特定できる個人情報を使用していない。陽性者の情報は厚労省のHER-SYSで全国的に管理されている。COCOAは、このHER-SYSから発行される処理番号をユーザ自らCOCOAに入力して初めて濃厚接触者が特定できる。

神奈川県の「LINEコロナお知らせシステム」で、保健所に負担をかけずに自動的に濃厚接触者を特定するには、HER-SYSで使用している陽性者の個人情報(名前や電話番号など)が不可欠だ。神奈川県のシステムは、保健所が陽性者への聞き取り調査から利用した飲食店を特定し、その飲食店の利用登録をした人々に「濃厚接触」を通知するという流れを想定している。これでは保健所の負担が大きすぎて、保健所が忙しくなる感染拡大時にこのシステムの利用が後回しになるのは当然だろう。

そこで保健所に手間をかけない改善策を三つ提案したい。

  1. 台湾と同様のシステムを新たに開発する。当然電話番号も一緒に送信される。
  2. このアプリインストール時に名前と電話番号を登録しておき、QRコードで読み込んだお店の情報と共に、これらの個人情報も提供する。
  3. 感染者はCOCOAと同じように保健所から送られてくるHER-SYSの処理番号を入力する。

上記1と2は、個人情報が一緒に送信される。自治体は個人情報を保持することに消極的だ。機密に保存する方法、それらの削除方法、またそれを取り扱う人への教育など大変な作業が発生するし、漏洩した時の対応が大変だからである。実際、横浜市では2020年10月に76人分の陽性者の個人情報流出事故が起きている。このため、現実的な改善策は3であろう。

また、入店時にマスク着用と同じようにアプリでの入店登録を必須とすれば、登録数は今より格段と上がるだろう(正当な理由があれば拒否できるようにすべきである)。現在でもマクスを着けないで入店しようとすると、店の従業員に注意される。厚労省が開発したCOCOAと違って、神奈川県のシステムには客が自分で無効にする機能もなく、入店時にQRコードを読み取って登録するだけだ。政府のまん延防止等重点措置の対象が主に飲食店であることを考えれば、これほど最適な濃厚接触者通知アプリは他にない。

このアプリがまったく使われていないのに、飲食店にはQRコードが貼ってあり、いかにも通知システムが機能しているように見せかけている現状を、放置しておくことは許されない。春休み明けには第7波が来ると予想する専門家もいる。自動的に濃厚接触者が通知されるなら、これほど有用なアプリはない。神奈川県議会は現在、開会中だ。早急に厚生労働委員会で改善点を話し合い、対応してもらいたい。

最後に、総務省は今国会にインターネットの利用者情報保護の規制強化のための電気通信事業法改正案を提出すると報道されている。これを機会に、EU並みに個人情報保護を優先するのがいいのか、利便性向上を優先して規制緩和を進めるのがいいのか、国民世論を巻き込んだ議論が深まることを期待したい。


池野青空(いけの・せいあ)

横浜市在住。日本の大手企業に20年勤務した後、25年間グローバル外資系企業で東アジアのITとセキュリティ担当のマネージャーとして勤務後、去年65歳となり引退。ITの経験者誰もが、普通に疑問に持つ、国や自治体のシステムをいろいろ、みなさんと考察したい。写真はハンブルグ出張時にビートルズのジョン·レノンが滞在したアパートの前です。


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