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木原氏の妻を取り調べた元刑事の記者会見を徹底検証!警察庁長官「事件性なし」に同調するマスコミと、元刑事「Z実行犯説」に関心を寄せるフリーランスに二極化する報道現場の危うさ

木原誠二官房副長官の妻X子さんが2018年、元夫の怪死事件(2006年発生)の重要参考人として警視庁に事情聴取されながら、「木原氏の妻」であることを理由に捜査が打ち切られた疑惑を追及する週刊文春のキャンペーン。

X子さんの取調官を務めた捜査一課の元刑事・佐藤誠さんが、警察トップである露木康浩・警察庁長官の「事件性はない」という記者会見での発言に激怒し、「このままでは遺族が可哀想だ」として週刊文春の取材に応じて捜査の裏側を実名で暴露した第四弾の記事は、とても生々しくて衝撃的だった。まさに「事実は小説より奇なり」という内容だった。

佐藤証言のポイントは、①怪死事件は自殺ではなく事件性がある、②遺族に説明することなく捜査を打ち切ったのは異常だ、③木原氏から「お前なんていつでもクビ飛ばすぞ」とすごまれた、④木原氏がタクシー車内でX子さんに「俺が(警察に)手を回したから心配するな」と語ったドライブレコーダーを警察は入手している、⑤個人的には実行犯はX子さんではなく、別の重要参考人であるZ氏だと見立てているーーといったところだろう。

週刊文春が4週連続でこの疑惑を報じた翌日、東京・麹町の文藝春秋で、渦中にいる元刑事の佐藤さんが記者会見を開き、報道陣140人が駆けつけた。参加資格は、報道各社がペン記者1名と撮影者1名、フリーランスは各社媒体に執筆実績があるジャーナリストに限定され、佐藤さんの顔の撮影はNGだった。

私も記者会見に参加し、最後の最後に指名されて質問の機会を得た。記者会見の様子はライブ配信され、さまざまなユーチューブなどで紹介されているが、私なりのこの記者会見を検証してみたい。

佐藤さんは殺人事件を扱う捜査一課に所属し、数々の難事件を解決に導いた「取調官のレジェンド」と言われた。昨年退職して「失うものはない」として実名告発に踏み切った。

公務員の守秘義務違反に問われる恐れがあることや、退職した刑事が現役時代の未解決事件について私見を公表することへの批判は覚悟したうえで、「このままでは遺族が可哀想だ」との思いから、実名告発を決断したという。

記者会見場に現れた佐藤さんは刑事ドラマに登場するような「いかにもデカ」という印象だった。「取り調べではカマをかけることがある」「机をたたいて『嘘だろ』と言ったらX子はビクッとした。素直な子だと思った」などの証言から、自らの内面をさらけ出し、時に泣き落として容疑者の心をつかみ、自供を引き出すタイプの刑事像が頭に浮かんだ。

佐藤さんは、当時の二階俊博幹事長が木原氏に「取り調べに素直に応じろ」と助言したという話を警視庁の上司から聞いた後、X子さんの任意聴取がスムーズに実現するようになったという経緯も明かした。佐藤氏自身は二階氏や木原氏、さらには木原氏を重用する岸田文雄首相らの政治的立ち位置についてはほとんど知識がないとも語った。

私は佐藤さんの語り口を注意深く観察していたが、彼の政治的無関心は演技ではなく、政局には無縁で、容疑者や重要参考人から自供を引き出すことに全神経を傾注させてきた人という印象を確かに持った。

私が永田町・霞ヶ関で長く取材してきたエリート官僚たちは、会話の大半が「人事」や「政局」のことである。同じ公務員でも佐藤さんはまるで違う世界を生きてきた刑事なのだろう。

今回の文春キャンペーンの背景には、①岸田首相 vs 菅義偉前首相・二階元幹事長の権力闘争②安倍・菅政権に引き立てられた中村格・前警察庁長官派(刑事畑)vs 岸田政権で起用された露木康弘・現警察庁長官派(公安警備畑)の内部闘争があると私はみているが、少なくとも佐藤さんには派閥闘争の匂いをまったく感じなかった。

一方で、佐藤さんの証言ばかりに寄りかかることには危うさも感じた。

殺人事件の捜査は「分業制」だ。佐藤さんはX子の取り調べはしたものの、YやZら他の重要参考人の取り調べは行っていないし、事件全容を把握しているわけでもない。すべての捜査情報を集約して分析し、判断する捜査幹部の立場ではなかった。最前線で取り調べにあたる佐藤さんには知らされていない情報もあっただろう。

佐藤さんが長年の捜査経験に基づいて「事件性がある」と確信し、さらには実行犯はX子さんではなくZ氏であると見立てる根拠にはそれなりの説得力がある。しかし、佐藤さん自身も認めているように、Z氏実行犯説を決定づける証拠は現時点ではない。だからこそ佐藤さんは「なぜ捜査を異常なかたちで打ち切ったのか」と怒っているのだが、そうだとしても「実行犯Z氏説」が一人歩きすることは重大な人権侵害に結びつく恐れがある。

刑事事件には「推定無罪」の大原則がある。今回の文春報道が許される理由は、①大物政治家である木原氏が警察に捜査に圧力をかけたのか②警察が木原氏に忖度して捜査を不正に打ち切ったのかーーという2つの疑惑を追及するという大義名分があるからであって、怪死事件の真犯人が誰なのかを興味本位で推測して報じることには正当性がない。この点は確認しておきたい。

この点で懸念したのは、記者会見に集まった140人の報道陣が、①警察庁長官の「事件性はない」に同調するテレビ新聞の記者(おそらく警視庁担当記者)②佐藤さんの「実行犯Z氏説」に関心を集中させ、木原氏の捜査介入や警察の異常な捜査打ち切りの疑惑を離れて真犯人探しに躍起になるフリーランスたち・・・に二極化していたことだった。

テレビ新聞の記者たちは佐藤さんに「自殺の根拠はないというが、事件性があるという根拠はあるのか」などと迫った。警察庁や警視庁が自ら質問できないことを警察担当記者が代わって質問しているような気がした。一方でフリーランスの記者たちからは、怪死事件の捜査内容やZ氏の関与に質問が集中した。

記者会見は1時間。私は当初から挙手していたが、なかなか当ててもらえなかった。最後の最後にようやく指名され、質問の機会を得た。

私の最初の質問は「実行犯Z氏説は、佐藤さん個人的の見立てか、捜査本部が共有した見立てか」だった。佐藤さんの答えは、あくまでも個人的な見立てで、捜査本部にそれを告げたことはないというものだった。そこで私は「捜査本部は実行犯X子説で動いていたのか」と続けた。佐藤さんはうなずいた。最後に「木原氏は、捜査本部が実行犯X子説で動いていると認識していたと思うか」と聞いた。佐藤さんはわからないと答えた。

私がこの質問にこだわったのは、木原氏による捜査介入の有無が大きな焦点である以上、木原氏が「自分の妻が実行犯として捜査本部に疑われている」と認識している場合と「捜査本部は別のZ氏を実行犯と見立てている」と認識している場合では、木原氏の行動が大きく異なってくると思ったからだ。木原氏に「捜査に素直に応じるように」と助言した二階氏に警察からどのような捜査情報が伝わっていたかも同様に重要だ。

佐藤さんによると、当時の捜査本部は実行犯X子説が主流を占めていたことになり、木原氏は「捜査本部は自分の妻を実行犯とみている」と警戒していただろうし、二階氏も警察からそのような見立てを聞いていた可能性がある。

一方で、木原氏本人は妻から「私は実行犯ではない」と打ち明けられていた可能性も十分にある。また、警察内部にも佐藤さんとは別に当初から実行犯Z氏説があった可能性も排除できない。

このあたりは佐藤さんの証言だけでは解明できない。やはり木原官房副長官や露木警察庁長官が記者会見して捜査の公正さについて説明を尽くす必要があるだろう。そもそも2006年の事件発生時の初動捜査がずさんだった理由も検証すべきである。

佐藤さんは週刊文春の取材に応じた後、警視庁時代の同僚から連絡が途絶えたとも語った。警察は情報管理を徹底し、佐藤さんとの接触も厳しく監視しているに違いない。

佐藤さんは警察庁長官が「事件性がない」と明言した以上、再捜査が行われる可能性は極めて低いとの見方も示した。もし事件性があることになれば、警察庁長官の進退問題に波及するからだ。

しかし、事件への疑問にフタをしてよいのか。警察は誰を守るために何を隠しているのか。木原氏を守るためなのか、それとも…。

今回の疑惑の核心は、①木原氏は捜査に圧力をかけたのか、②警察はなぜ捜査を打ち切ったのかーーの2点である。①も②も追及しないマスコミの報道姿勢も問われている。この本質を確認したうえで、木原氏と警察当局を厳しく追及していく姿勢が肝要だ。


鮫島タイムスYouTubeでも「元刑事の記者会見」を検証しました。ぜひご覧ください。

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