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二階幹事長の「総裁選前解任」はふつうではあり得ない〜「岸田幹事長」で無投票再選か、衆院解散で総裁選先送りか

菅義偉首相が自民党総裁選で再選を果たすため、最大派閥を率いる安倍晋三前首相に屈服し、安倍氏が迫る「二階俊博幹事長の交代」を受け入れることを、私は予測してきた。菅首相が8月30日に二階氏に幹事長交代を告げたのは「想定の範囲内」の出来事であった。しかしあくまでも「総裁選が終了した後の党役員人事」で交代させると思っていた。

ところが、菅首相は総裁選前に党役員人事を断行して二階幹事長を交代させるというのだ。これは「想定を超える」展開である。政局は一挙に緊迫してきた。

朝日新聞デジタルは31日、以下のように報じている。

菅義偉首相は31日、二階俊博幹事長の交代を含む自民党役員人事を9月上旬に行う方針を固めた。9月17日告示の自民党総裁選や、衆院選を前に党運営の顔ぶれを代えることで、刷新感を打ち出したい考えだ。

古巣に申し訳ないが、この記事はやや説得力に欠ける。昨日の記事で紹介したとおり、菅首相は9月29日投開票の総裁選で勝利したうえ、10月21日の任期満了に伴う衆院選挙を10月5日公示ー10月17日投開票で実施する日程を描いている。衆院選にむけて刷新感を打ち出すのであれば、総裁選が終わった直後に人事を断行したほうがいい。総裁選前に人事を断行するのは逆効果になるからだ。

通常、党役員人事は総裁選後に実施される。首相(総裁)は自らの総裁選勝利への貢献具合を見比べて人事を決めるからだ。投票後まで人事を明かさないからこそ、党内の有力者たちは「人事の見返り」を期待し、競うように総裁選で支援するのである。人事を餌に支持を集めるのは権力闘争の常套手段であり、選挙に勝つための「最強のカード」だ。二階幹事長を代えることを事前に表明するにしても、後任人事は総裁選後に発表するのが通例だ。

菅首相はその「最強のカード」を総裁選前に放り出すというのである。人事というものは満足する人よりも不満を抱く人のほうが多いものだ。総裁選前に党役員人事を実行すれば、起用されなかった人々は不満を募らせて離反し、対立候補の陣営に駆け込む恐れがある。そのリスクを冒してまでも、あえて総裁選前に人事を行う理由があるとすれば、よほどのことである。

考えられるひとつめの理由は、安倍氏に総裁選前の人事を強引にのまされたということだ。

安倍氏は菅首相を心の底からは信用していない。菅首相が「総裁選後に幹事長を変えます」と約束しても、いざ総裁選に勝ったらその約束を反故にするかもしれないと疑うだろう。だからこそ、総裁選前に幹事長人事を断行して「先に約束を果たしてみせること」を菅首相に要求したのかもしれない。再選支持の条件として。

これほど露骨な人事介入は永田町でも異例だ。菅首相はそれを受け入れてでも安倍氏に支持を取り付け、再選を果たしたかったということになる。逆に言えば、自民党内で「菅おろし」が吹き荒れても、安倍氏の支持さえ得られれば総裁再選は間違いなしと確信しているというわけだ。

この場合、菅首相は安倍氏に完全屈服したといえる。新しい幹事長は、当然のこととして、安倍氏のお墨付きを得た人物となろう。有力候補として浮かぶのは、安倍氏に従順でおぼえめでたい岸田文雄前政調会長だ。

岸田氏は幹事長に起用されたら総裁選への出馬をとりやめ、菅首相の無投票再選の可能性が強まるだろう。討論会や記者会見が苦手な菅首相は、できれば無投票再選が望ましいと考えている。わざわざリスクを冒して「総裁選前の幹事長交代」に踏み切る本当の狙いは、そこにあるかもしれない。

菅首相が安倍氏に屈服して二階氏を外し、安倍氏の意中の人を幹事長に起用して再選を果たした場合、菅政権は完全な「安倍傀儡」となる。「桜を見る会」などの疑惑にまみれ、首相退任後も説明責任を果たしていない安倍氏が、これまで以上にキングメーカーとなるのだ。

菅内閣の無為無策がコロナの感染爆発や医療崩壊を招き、内閣支持率は続落している。その結果、菅首相さえ代われば政治は良くなるという空気も広がり始めている。しかし、その菅政権は安倍氏によって完全掌握されていることを、私たちはまざまざと見せつけられることになるかもしれない。

考えられるもうひとつの理由は、党役員人事を断行したうえで衆院を解散し、総裁選自体を先送りしてしまうことだ。

この場合、緊急事態宣言を9月12日に終了したうえで、総裁選が告示される17日までの間に臨時国会を召集して衆院を解散しなければならない。衆院選挙は10月5日公示ー10月17日投開票が有力だが、非常にタイトな日程となる。しかも9月12日時点で緊急事態宣言を解除できるような感染状況になっている保証もない。菅首相の手元には9月半ばから10月にかけて感染爆発は落ち着いてくるというデータの試算があり、衆院解散のタイミングはそこしかないと判断した可能性はある。それでも社会不安が続くなかで緊急事態宣言を強引に終了させて衆院解散に踏み切ったら、「総裁選を先送りするための衆院解散」という強烈な批判を浴びるだろう。

一方で、菅首相が総裁選を先送りするために衆院を解散するつもりなら、党役員人事を事前に断行する狙いはみえてくる。二階氏に代わる幹事長に野田聖子幹事長代行や河野太郎ワクチン担当相、小泉進次郎環境相らを起用して刷新感を打ち出し、「衆院選挙の顔」に据えて支持率を引き上げようということだ。

とはいえ、やはりコロナ対策を二の次にした党利党略・私利私欲の印象が強く、世論の猛反発を浴びることは避けられない。極めてリスクの高いバクチといえる。それでも総裁選を先送りするための衆院解散に踏み切るとしたら、菅首相は再選のめどが立たず、よほど追い込まれているということだろう。総裁選にむけて広がる「菅おろし」に対抗し、「衆院解散」の気運を極限まで高めて党内を牽制する狙いもあるかもしれない。

いずれにしろ、菅首相は衆院選挙で野党に勝つことよりも、自民党総裁選で再選を果たすことで頭がいっぱいだ。首相が自らの総裁選に有利になるように衆院選挙の日程や緊急事態宣言の解除時期を決めていくという、極めて危うい状況にこの国の政治はある。

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