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政治記事がわかりにくい!「自民党総裁選前に国会を召集しない」に潜む重大な意味〜菅首相再選、衆院選10月17日投開票を想定

テレビ新聞の政治記事は実にわかりにくい。8月30日夕刻に各社が一斉に流した記事もそうだった。とても重要な内容であることに、どれほどの読者が気づいただろうか。

それは「政府・与党は自民党総裁選前に臨時国会を召集しない方針を固めた」というニュースである。

マスコミ各社はおおむね「野党はコロナ対策費を積み増す補正予算を成立させるために自民党総裁選前の臨時国会召集を要求していたが、政府・与党はコロナ対策予算は足りているとして拒否することにした」という文脈で報じている(こちら参照)。

政府・与党が「自民党総裁選前の臨時国会召集を見送る」とはいったいどういうことなのか、丁寧に読み解いてみよう。

まず「政府・与党」とは誰か。NHKは「政府・与党側は30日、自民党の森山国会対策委員長と加藤官房長官が会談するなどして、対応を断続的に協議してきました」と伝えている。政府で国会対応を担う加藤官房長官が自民党の森山国対委員長と協議し「自民党総裁選前の臨時国会召集の見送り」を決めたということだ。

自民党トップは菅義偉総裁、政府トップは菅義偉首相である。だから「政府・与党」とは「菅首相」のことだ。これは紛れもなく菅首相の意思である。菅首相は「総裁選前の臨時国会召集の見送り」を加藤氏と森山氏に指示したのだ。

菅首相は、自民党総裁選前に臨時国会を召集しない意向を政府・与党に伝えた

とシンプルに書いたほうがわかりやすい。

次に「自民党総裁選挙前」にどんな意味があるのか。

総裁選は9月17日告示ー29日投開票の日程で行われる。少なくとも9月29日までは臨時国会を開催しないというわけだ。これには「野党との国会審議に応じない」という意味に加え、もうひとつ重大な意味がある。衆院を解散して総選挙を行うには、国会を開催していなければならない。つまり、自民党総裁選が終わる9月29日まで菅首相は衆院解散に踏み切らないと決めたのだ。

菅首相は9月12日まで緊急事態宣言を延長した。宣言中に衆院を解散して選挙戦に突入するのは困難との見方が政府・与党の大勢だ。そこで、内閣支持率の続落に苦悩する菅首相が自民党総裁選での敗北を回避するため、9月12日に緊急事態宣言を解除し、総裁選直前の9月13日〜16日に衆院解散を断行する「奇策」が取り沙汰されていた。総裁選前に衆院を解散すれば、総裁選は衆院選挙の後に先送りされることになるからだ。

今回、菅首相が「総裁選前に国会を召集しない」と決断したことで、総裁選に先行して衆院選挙が行われる可能性は消えた。菅首相は総裁選で再選を果たしたうえで衆院選挙に臨むという政治決断をしたのだ。総裁選目前に衆院を解散する「奇策」に出なくても総裁選に勝利できる手応えを感じたとみられる。

30日夜には二階俊博幹事長が菅首相と会談し、自らの幹事長交代を容認する考えを伝えたというニュースが一部で流れた。安倍晋三前首相が菅首相支持と引き換えに求める幹事長交代を二階氏が受け入れる「話し合い」が成立したことで、菅首相が再選への自信を深めた可能性がある。

これを踏まえると、

菅首相は、自民党総裁選(9月29日投開票)が終わるまで臨時国会を開かないことを決めた。衆院解散・総選挙を10月以降に先送りし、まずは自民党総裁選での再選を目指す。

と書くほうがわかりやすい。

では、菅首相は自民党総裁選で再選を果たした後、どんな政治日程を描いているのか。

公職選挙法は任期満了日前の30日以内に投開票を行うと規定している。首相が任期途中で衆院を解散せず、任期満了を迎える場合、内閣が公選法の規定に従って投開票日を閣議決定する。このような「任期満了選挙」は過去に一度しかない(1976年三木内閣)。

現在の衆院議員の任期満了は10月21日。任期満了選挙の場合、投開票日は9月21日〜10月20日の日曜日だ。総裁選が終わる9月29日以降に衆院選挙の公示日を設定するとしたら、「10月5日公示ー10月17日投開票」しかない。衆院選挙の準備(選挙公報や掲示板の用意)には通常1ヶ月近くはかかるので、菅内閣は総裁選真っ只中の9月21日ごろに衆院選挙の日程を閣議決定することになろう。

この場合、総裁選が終了して6日後に衆院選挙が始まるという、とても慌ただしい日程となる。おそらく、菅首相の狙いはそこにある。重要なのは、菅首相がこの任期満了選挙を選択した場合、臨時国会は一度も召集されないまま(つまり、野党との国会審議を一度も行わないまま)衆院選挙に投入するということだ。

もっとも、公選法には国会を開催している場合の「例外規定」がある。10月21日の任期満了まで国会を開催して最終日に衆院を解散した場合は、特例として11月28日に投開票日を先送りできる。立憲民主党の枝野幸男代表はこの例外規定を念頭に与野党が「政治休戦」し、現在の感染爆発や医療崩壊に与野党が協力して最低限の対策を打ったうえで衆院選挙に突入することを提案。自民党総裁前に臨時国会を召集して与野党が具体的な協議に入ることを求めていた。

菅首相が今回、野党提案の「総裁戦前の国会召集」を拒否したということは、野党と政治休戦してコロナ対策で力を合わせるつもりはハナからないということである。だとすれば、総裁選後に臨時国会を開いてわざわざ野党の出番をつくることはしないだろう。つまり、菅首相は臨時国会を開かないまま衆院選挙に突入する方針を決めたとみて間違いない。

菅首相は総裁選に勝利した後、二階幹事長に代わる「清新な幹事長」を起用する党人事を断行して内閣支持率を回復させ、ただちに衆院選挙になだれ込むシナリオを描いているのではないか。

以上を考察すると、私が政治部デスクなら、30日夕刻時点で公開されている情報のみを根拠に、少なくとも以下のような政治記事は書けると判断する。

菅首相は、自民党総裁選(9月29日投開票)が終わるまで臨時国会を開かないことを決めた。総裁選で再選を果たしたうえで「10月5日公示ー10月17日投開票」の日程で衆院選挙を実施する意向とみられる。野党が要求する臨時国会開催には一切応じないまま、選挙戦に突入する構えだ。

ここまで原稿を固めておいて、30日深夜にかけて、菅首相ら政府・与党幹部に対する政治部記者たちの取材を総合的に判断して「みられる」「構えだ」という表現をどこまで強めるかを決めていく。先程の二階幹事長の人事をめぐる情報などを加味して原稿を完成させていくことになる。

政治記事に必要な残る要素は、①菅首相が再選できない場合はどうなるか②「政治休戦」を提案していた野党はどう対応していくかーーだ。

①については大混乱になるだろう。通常であれば、9月29日に新総裁が選出された後、臨時国会を召集したうえで菅内閣は総辞職し、国会で新総裁を首相に選出しなければならない。この場合、衆院選挙の10月5日公示に間に合わない可能性が高い。新首相は衆院選挙日程を決めた閣議決定を変更し、任期満了日の10月21日までに衆院を解散して投開票日を11月に先送りするという「公職選挙法の例外規定」を活用することになるのだろうか。前例のない展開となり、政界は大混乱のまま衆院選挙に突入することになろう。裏を返せば、菅首相は大混乱をうむ政治日程をあえて組むことによって、自らの再選の流れを強くすることを狙っているといえる。「菅首相では選挙に勝てない」として首相交代を求める自民党議員たちがこれに対抗できるのかが今後の焦点となろう。

②については野党は「政治休戦」の旗を下ろすしかない。菅首相は野党との協力を明確に拒絶したのだ。10月の衆院選挙に向けて野党共闘を固めつつ、自民党総裁選に埋没しないで野党の存在感を高めるため、自公政権に代わるコロナ対策の具体的メニューを発表したり、「影の内閣」や「影の専門家会議」を創設したり、インパクトのある政権公約を掲げたり、野党共闘の目玉候補を打ち出したり、次々に「野党発のニュース」を打ち出していくことが不可欠である。

以上、30日夕刻時点の政治状況を私なりに読み解き、私が政治部デスクならどのような政治記事をつくるのかを提案してみた。31日のテレビ新聞の報道を読み比べていただくと、政治報道の裏側が透けて見えて面白いと思う。

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