注目の新刊!
第一回は9/4(月)夜、東京・渋谷で開催! オンライン参加も!

「極右の高市早苗氏が自民党総裁になれば野党は戦いやすい」は本当か?

高市早苗氏が自民党総裁選に勝利して首相になる可能性は十分にあると指摘した記事に対して、たくさんのご意見をいただいた。そのなかで目立ったのは、極右イデオロギーを掲げる高市氏が首相になれば、野党は秋の衆院選で大きく議席を伸ばすだろうという予測である。私はやや異なる見解を持っているので、きょうはそれを紹介したい。

高市政権誕生はあるか〜トランプが共和党を乗っ取った2016年予備選が自民党総裁選で再現される!?〜立憲民主党の不振の理由は「熱狂的支持層」の不在

高市氏勝利の可能性が十分にある理由は上記記事を参照していただくとして、高市氏が首相になれば安倍晋三氏による傀儡政権になるのは間違いない。さりとて、「初の女性首相」となる高市氏をめぐる報道は過熱するだろう。一年前に菅義偉首相がパンケーキを好むという報道が大々的に展開された以上に、高市氏のひととなりを紹介する報道が溢れ返るに違いない。

もちろん、衆院選を控えて「高市礼賛」にならないように一定の配慮はなされるはずだ。高市政権の懸念材料があわせて報じられることになる。そこで報道が集中するのは、高市氏の国家観や歴史観、ジェンダー観といった極右的なイデオロギーの是非だ。具体的には憲法改正論、靖国神社参拝、選択的夫婦別姓への反対などである。

野党もこれら極右的なイデオロギーに照準を絞って批判を強めるに違いない。とりわけ弁護士でもある立憲民主党の枝野幸男代表はこのような「価値観」をめぐる問題を争点化するのが好きだ。衆院選の最大の争点は高市氏の極右的なイデオロギーの是非ということになろう。

もちろん、最高権力者が極右的なイデオロギーを持つこと自体は極めて危険である。野党やマスコミがそれを追及するのは当然だ。しかし、そのような「価値観」をめぐる問題が衆院選最大の争点に浮上するのは野党にとって有利なのか? 今回の衆院選でもっとも問われるべきことなのか? 私の問題意識はそこにある。

永田町では「日本社会の世論は、右が3割、左が2割、無関心が5割」と言われている。安倍政権が6連勝した国政選挙は投票率が5割そこそこにとどまり、自民党が圧勝した。いずれも左右イデオロギー対決の構図で、大雑把に言うと「与党が3割、野党が2割、棄権が5割」となり、与党が低投票率に支えられて圧勝するというパターンを繰り返したのである。国家観や歴史観で極端に偏った主張を掲げる安倍支持層の存在が、野党を左右イデオロギー対決の土俵に引きずり込んだともいえる。

しかし、多くの国民(大衆)はイデオロギー的な左右対決にあまり関心がない。いちばん関心があるのは、自らの生活だ。自分はこんなに苦しい生活をしているのに、なぜ一部の上級国民は贅沢を重ねているのか? もっと大衆の暮らしを支える政策はないのか? 政治の不公正さや格差社会への憤りこそ、大衆がもっとも関心を寄せる部分なのである。

大衆の関心が薄い左右イデオロギー対決が繰り広げられているうちは、投票率はいつまでたっても5割そこそこにとどまり、「与党3割、野党2割」で野党が競り負けるパターンが繰り返される。それを避けるには、投票率そのものを7割程度まで引き上げるしかない。そのためには左右イデオロギー対決ではなく、貧富の格差の上下対決に持ち込むべきであるーーというのが私の持論だ。

実際、民主党が政権交代を実現させた2009年衆院選の投票率は7割近くにのぼった。また、菅政権になって野党が国政選挙で連勝しているのも、安倍氏とちがって菅氏にはイデオロギー色が少なく、選挙の構図が左右対決にならなかったからだと私は分析している。

もうおわかりだろう。高市氏が首相になれば、衆院選挙は必ず左右対決の構図になる。これに強い関心を示すのはこれまでも選挙に足を運んだ人々だ。左右対決の構図となれば投票率は果たして7割にはねあがるのか。私は否定的である。左右対決は、現在の日本の最大の病理である「格差社会」を争点からぼかしてしまう。極右的なイデオロギーを持つ高市氏の存在が格好の「争点隠し」となる。これは「与党必勝、野党必敗」のパターンではないか。

河野太郎氏は総裁選で年金改革を掲げ、消費税増税に前向きな姿勢をみせている。岸田氏は小泉政権以降の新自由主義の見直しを掲げつつ、新自由主義を進めてきた安倍氏には逆らえない。どちらが首相になっても、衆院選の最大の焦点は経済政策ーーとくに格差是正政策ーーになるだろう。野党は「上下対決」に持ち込み、政権与党に対する大衆の憤りの受け皿となりやすいのである。

高市氏が自民党総裁になると、安倍政権が6連勝した国政選挙と同じようにイデオロギーの「左右対決」が前面に出てきて、貧富の格差の「上下対決」がぼやけ、投票率が上がらずに与党が逃げ切るというパターンが繰り返されるのではないか。私が自民党の選挙アドバイザーなら「次期総選挙でもっとも戦いやすいのは高市総裁のケースだ」と助言する。皆さんはどうお考えだろうか。

政治を読むの最新記事8件