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高市政権誕生はあるか〜トランプが共和党を乗っ取った2016年予備選が自民党総裁選で再現される!?〜立憲民主党の不振の理由は「熱狂的支持層」の不在

河野太郎氏が本命視される自民党総裁選について、9月18日夜に出演したデモクラシータイムスで高市早苗氏が勝利する可能性を指摘したところ、大きな反響をいただいた。改めて「高市勝利説」の根拠を解説したい。

日本テレビが自民党の党員・党友を対象に独自に実施した電話調査(党員・党友名簿を入手して実施したと思われる)によると、河野太郎氏40%、岸田文雄氏21%、高市早苗氏15%、野田聖子氏5%の順だった。また、日テレの自民党国会議員への取材によると、投票先を明らかにしたのは、岸田氏72人、河野氏61人、高市氏47人だったという。

毎日新聞の世論調査によると、河野氏43%、高市氏15%、岸田氏13%、野田氏6%。自民党支持層に限ると、河野氏50%、高市氏25%、岸田氏14%、野田氏3%だった。他社の世論調査もほぼ同じような傾向だ。

これらを踏まえると、国会議員票383票と党員票383票(党員約113万人の投票を比例配分)の計766票を争う1回目の投票で河野氏がトップに立つものの、いきなり過半数を獲得して勝利を決めるのは難しく、上位2人による決選投票にもつれ込む公算が大きい。

決選投票は国会議員票383票と都道府県票47票(各1票ずつ)で争われるため、国会議員票の割合が格段に増す。最大派閥を事実上率いる安倍晋三氏(高市氏支持)、第二派閥を仕切る麻生太郎氏(岸田氏支持)、告示前日に野田氏を担ぎ出して決選投票でキャスティングボードを握ろうとしている二階俊博氏(二階派は第四派閥)ら「長老」の駆け引きで勝敗が決する可能性が高い。

1回目の投票で2位に食い込むのは岸田氏か高市氏か。今のところ第五派閥を率いる岸田氏がややリードしているようだが、勢いを増しているのは安倍氏の全面的な支援を受けている高市氏である。

高市氏は8月、総裁選に真っ先に名乗りをあげた。当初は泡沫候補扱いされたが、菅義偉首相が不出馬を表明した直後、安倍氏が国家観や歴史観など極右的な政治信条が極めて近い高市支持を表明したことで、一気に主要候補に躍り出た。

それでも「安倍氏の本命は岸田氏であり、党員投票を分散させて決選投票に持ち込むために高市氏を出馬させた」との見方が大勢だった。私も安倍氏は当初はそう考えていたと思っている。安倍氏の最側近である今井尚哉元首相補佐官や安倍氏と親密なジャーナリストらが早くから岸田陣営に続々と出入りしていたからだ。

ところが、安倍氏が高市支持を表明した後、ネット上で安倍氏を支持してきたネトウヨをはじめとする強固な安倍支持層が熱狂的に高市氏を応援し始めたのだ。安倍氏の政治信条を称賛する右派言論人やジャーナリストたちもこぞって高市氏支持を鮮明にし始めたのである。

そもそも河野氏を首相候補の一番人気に押し上げたのは、ツイッターのフォロワー数が政界で圧倒的に多いことだった。しかし、いまやネット上では高市氏の人気が河野氏を圧倒し、河野氏への激しいバッシングも始まったのである。高市氏のユーチューブ動画への「いいね」は河野氏より桁違いに多い。岸田氏はすっかり埋没し、ネットメディアでも高市氏をタイトルに掲げる記事がランキング上位を占める。

もちろん、ネット世論と自民党員の投票は必ずしも一致しない。だが、ネット世論に支持された政治家の露出度はネットニュースやSNS上で飛躍的に高まっていく。ネット世論を醸成するネトウヨをはじめとした強固な安倍支持層の存在こそ、憲政史上最長の政権を維持し続けた安倍氏の力の源泉なのだ。安倍氏は彼らの声を無視することはできない。

しかも、安倍氏は高市支持を鮮明に掲げた結果、高市氏の得票数は安倍氏のキングメーカーとしての真の実力を可視化することになった。高市氏の得票数が伸び悩めば「安倍氏恐るるに足らず」となり、安倍氏の影響力は急落してしまうのだ。

当初は党員投票を分断する狙いで高市氏を出馬させたものの、安倍支持層が高市氏を「安倍氏の継承者」と受け入れて熱狂的に支持し、高市氏の勝利を強く望んだ結果、安倍氏は引くに引けなくなったーーというのが私の見立てである。実際のところ、安倍氏は若手議員らに電話攻勢を仕掛けるなどして高市氏の支持拡大に懸命のようだ。キングメーカーのなりふり構わぬテコ入れで、高市氏の勢いはさらに増しているのである。

一方、岸田氏は支持率続落の菅首相との一騎打ちなら優勢とみられていたが、4人の混戦となった今は埋没気味だ。安倍氏へのすり寄りが鮮明なうえ、「永田町でいちばん話のつまらない政治家」の異名を持つだけに、リーダーとしての魅力が伝わらない。

現時点では岸田氏が高市氏をしのいで2位に踏みとどまり、決戦投票で安倍氏や麻生氏の支援を受けて逆転勝利するとの見方は根強いが、これから高市氏が勢いを増すにつれて岸田氏が失速し、決選投票に進めないという展開も十分に予想されるといっていい。

決選投票が「河野氏vs高市氏」になれば、一回目投票で岸田氏に投じた国会議員の動向が勝敗を大きく決することになる。「究極の選択だ」と漏らす岸田支持派は少なくない。河野氏の独善的な政権運営にも不安を感じる一方、高市氏の極右的な政治姿勢にも危うさを感じるからだ。

しかし、彼らが最優先にするのは「勝ち馬に乗る」ことである。党員投票でトップに立つ河野氏が勝つのか、キングメーカー安倍氏が全面支援する高市氏が勝つのかーー投票当日まで続く派閥間の駆け引きの行方を見定めたのちに投票先を決める国会議員が続出するだろう。その結果、決選投票はどちらかに雪崩を打つ可能性もある。

ここでポイントとなるのが、若手議員中心の河野陣営の「派閥間の駆け引きの弱さ」である。河野氏は麻生派に所属しているが、麻生氏は世代交代が進むのを恐れて河野氏勝利を望んでおらず、決選投票で河野氏のために奔走するとは思えない。河野氏支持を鮮明にしている派閥領袖は石破茂氏だけだが、安倍・菅政権下で非主流派として孤立していた石破氏が多数派工作を主導できる可能性は極めて低い。

もし河野陣営に「派閥間の駆け引き力」があったならば、野田氏の出馬を抑え込むことができただろう。野田氏の出馬によって、党員投票は分散し、河野氏が一回目の投票で過半数を制することは極めて困難になった。

河野氏が野田氏が告示前日に推薦人20人を確保することができたのは、二階氏の支援があったからだ。安倍氏が決選投票に持ち込んで逆転勝利を目指すのと同様に、安倍氏の政敵である二階氏もまた一回目の投票で河野氏が勝利を決め、二階派が埋没することを恐れたのである。決選投票に持ち込めば、二階派が河野氏につくか、岸田氏または高市氏につくかで勝敗を左右することができるかもしれないのだ。

二階氏ほどの策士であれば、告示日前に河野陣営に対し「野田氏が出馬したら河野氏の勝利は厳しくなるぞ。二階派の処遇を約束すれば、野田氏に推薦人を貸すのをとりやめ、出馬を押さえ込んでやる」と取り引きを持ちかけた可能性は高い。結果的に野田氏が二階派の支援を受けて出馬にこぎつけたところをみると、二階氏と河野陣営の水面下の交渉は合意に至らなかったのだろう(激しく決裂した可能性もある)。決選投票で二階氏と河野陣営の取り引きが整う可能性は決して高くない。むしろ、安倍氏や麻生氏と二階氏が「河野阻止」という一点で手を握り、岸田氏または高市氏を勝たせる可能性が高いのではないか。

つまり、高市氏は岸田氏をしのいで2位にさえ食い込めば、決選投票で河野氏を逆転し、そのまま「初の女性首相」の座をつかむ可能性が十分にあるのだ。

当初は泡沫扱いされた高市氏が一挙に勝利をつかむというシナリオは、2016年の米共和党予備選で異端児扱いされていたトランプ氏があれよあれよという間に勝利したケースと瓜二つである。両者に共通するのは「極端に偏った支持層」の「熱狂的な支持」を政治力の源泉にしている点だ。

二大政党制においては、左右どちらかに偏ると中道勢力の警戒感を招いて勝利できないというのがこれまでの常識だった。日本で2009年衆院選で政権交代を実現した民主党は、外交安保政策を中心に「自民党との違い」をなるべく減らし、「政策はまったく同じでも与野党が入れ替わることで政治は浄化する」とアピールして、政権交代への警戒感を薄めることで支持拡大に成功した。二大政党がともに中道に歩み寄り、政策が似通ってくるのが二大政党制の特徴といわれてきた。

現在の立憲民主党の枝野幸男代表の政治姿勢は、かつて政権交代を実現させた「与野党接近戦」の成功体験に基づくものである。共産党との連携につねに慎重なのは、「左に偏っている」と思われることを極度に恐れているからだ。

しかし、現実に起きていることはどうか。自民党との対立点を極力減らす枝野氏の政治姿勢は立憲民主党を埋没させ、立憲民主党の支持率は一向に伸びない。むしろ野党支持層の間で「自民党との激突」を抱げる共産党へのシンパシーが高まっている。

安倍氏の政治姿勢もそうだ。安倍氏は日本史上最長となる7年8ヶ月の政権運営のなかで、数々の疑惑によって世論の批判を浴びるたびに、自らの岩盤支持層であるネトウヨや極右言論人らを沸かせるテーマを打ち出した。それは憲法改正論であったり、対韓国強硬外交であったり、朝日新聞叩きであったりした。「中道」に歩み寄ることよりも「右」へ大きくシフトして強固な支持層を結束させて盛り返してきたのである。

これは米国のトランプ氏の政治手法とも重なる。政権危機になるほど強固な支持基盤に訴える排外主義的な政策を打ち出してきたのだ。

私は「中道に歩み寄ることが二大政党政治を制する秘訣」という政界の常識はもはや崩れたとみている。

インターネット時代が本格到来し、有権者は「わかりやすさ」「速さ」を何よりも求めている。価値観が多様化するなかで多くの有権者に共通した関心事が極端に少なくなった結果、世論は入り組んだ議論に耐えられなくなっている。そうしたなかで「中道」は「埋没」していくのだ。二者択一の「よりマシ論」で消極的支持を集める立憲民主党の政治手法はネット世論を動かす原動力になり得ず、政権交代に不可欠な投票率を押し上げることもできない。

緩やかな支持層を幅広く獲得するというのは幻想になりつつある。反対勢力の批判をかえりみず、熱狂的な岩盤支持層をまずは固め、その熱量によってネット上の世論形成を主導し、中間層をじわじわ引き寄せていくーーその是非はともかく、ネット時代の政治闘争の勝利の方程式は大きく変化したのではないか。自民党総裁選の「高市現象」はその図式にぴったりはまっている気がしてならない。

この政治手法は社会の分断を招くという大きな問題をはらんでいる。一方で、偏っていることを恐れず強固な支持基盤をまずは形成することが不可欠という現実を真正面から受け止めるしかない。熱狂的な支持層の圧倒的なSNSでの活動量こそ、インターネット時代の政治闘争の主導権を握る秘訣だ。

これを野党共闘に置き換えると、「強固な支持層」にあたるのは共産党支持層ではないか(れいわ新選組も山本太郎氏のカリスマ性からしてそれに値しうる)。野党共闘のリーダーは与党と対決するにあたり、決して揺らぐことのない共産党支持層を大切にし、そこを固めたうえで中間層をじわじわ引き寄せていくーーこれこそ、トランプ氏や安倍氏ら右派に対抗するネット時代型の政治闘争のあり方ではないか。米民主党のバイデン氏がトランプ氏に競り勝てたのも、熱狂的な左派支持層を持つサンダース氏の支援があってのことだった。

そうだとすれば、中間層が離れていくことを恐れて共産党との連携に及び腰な枝野氏の政治感覚は極めて時代遅れということになる。立憲民主党の支持率が伸び悩み、いつまでも安倍自民党に負け続ける最大の理由は、熱狂的な支持層の不在にあるのではなかろうか。

今回の考察が野党共闘のあり方に一石を投じることになれば幸いだ。

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