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上川陽子外相か、高市早苗経済安保相か、それとも小池百合子東京都知事か?「ポスト岸田は初の女性首相」で裏金批判をかわす機運が自民党内に広がる

岸田文雄首相が今国会で解散総選挙を断行できなければ、9月の自民党総裁選に出馬できず、退陣の流れが強まる。岸田首相を支えてきた麻生太郎副総裁も、非主流派に甘んじてきた菅義偉前首相も、岸田再選を望んでおらず、岸田首相の解散権を縛るという点では利害が一致している格好だ。

一方、ポスト岸田の絶対的本命は不在だ。国民的人気でトップを走る石破茂元幹事長は党内基盤が弱いうえ、裏金事件が発覚した後にメディア出演を繰り返して党内でひんしゅくを買った。かつて人気トップだった河野太郎デジタル相はマイナンバーカード問題で失速。小泉進次郎元環境相も「まだはやい」との評が大勢だ。

ポスト岸田への意欲を隠してこなかった茂木敏充幹事長は、派閥解散ドミノに逆らって茂木派存続を打ち出したものの、小渕優子選対委員長ら離脱者が相次ぎ、求心力は大きく低下している。麻生氏はこれまで茂木氏を担ぐ姿勢をみせていたが、茂木氏では勝ちきれないという判断に傾いているようだ。

自民党内で広がっているのは、初の女性候補を誕生させ、裏金批判をかわそうという機運である。最有力候補に急浮上しているのは上川陽子外相だ。

上川氏は東大、ハーバード大という煌びやかな学歴を持ち、英語も堪能な国際派である。これまで知名度ほとんどなく、清新なイメージあることがかえって期待感を高めている。「あまり知られていない」ことが「自民党は変わった」とアピールするには都合がいい。

衆院静岡1区選出で71歳。「新しい顔」というイメージはあるが、岸田首相よりも年上である。これまで岸田派に所属していたが、派閥内でも目立つ存在ではなかった。党内基盤も派閥内基盤もないに等しい。

彼女が当選1回の時、私は宏池会(現岸田派)の番記者だったが、自民党の慣行や文化にまったく精通しておらず、右も左もわからないというあり様だった。とにかく上司に忠実に動いていたという印象がある。

そんな上川氏を引き上げたのは、菅前首相だ。安倍内閣と菅内閣で計3回、法相に抜擢した。彼女にとって初の表舞台だったといってよい。

上川氏はそこでオウム真理教の麻原彰晃死刑囚らの死刑を執行したことで有名になった。さらに検察人事に介入して「官邸の守護神」と呼ばれた黒川弘務検事長を検事総長に押し上げようとする菅氏の意向に沿って、黒川氏とは同期のライバルであった林真琴氏を左遷する人事を断行した。いずれも「官邸に忠実な大臣」に徹した結果であろう。

その上川氏が晴れ舞台に躍り出たのは、昨年秋の内閣改造人事である。

岸田首相は岸田派ナンバー2の林芳正外相が派手な外交を展開するのが気に食わなかった。自らを脅かす存在になりつつあるとして警戒感を強めたのである。そこで林外相を交代させ、後任に岸田派で目立たない存在だった上川氏を起用したのだ。

上川氏はそれまで外交経験がほとんどなかった。彼女なら政治基盤もなく、岸田首相のいいなりになる。その結果として岸田首相が外交を独占できると考えたのである。

菅氏はこれを受けて、上川氏をポスト岸田のカードとして考え始めた。それまでは石破茂元幹事長を一番手と考えていたが、裏金事件が発覚した後、石破氏がはしゃぎ過ぎて党内で不評を買うと、麻生氏が担ぐ茂木氏には上川氏の方が勝ちやすいと踏んだのである。

一方、麻生氏は菅氏が上川氏を担げば茂木氏では勝てないと考えた。そこで上川氏はポスト岸田の有力候補だと吹聴しはじめ、ついには講演で「このおばさん」呼ばわりする失言をあえて放って話題をつくり、上川氏の名を広めたのである。

この後、上川氏の知名度は飛躍的にあがり、世論調査の「次の首相」では高市早苗氏を抜いて女性ではトップに立った。石破氏に続く第二位という世論調査も出始めたのである。

菅氏にすれば、上川氏を麻生氏にかすめ取られたかたちとなった。麻生氏が推す上川氏には乗れない。

そこで浮上しているのは、犬猿の仲である小池百合子東京都知事を国政復帰させ、自民党に復党させて総裁選に担ぎ出す二階俊博元幹事長の極秘プランに乗る道だ。

菅氏は安倍政権以来、小池知事と衝突を繰り返してきた。しかし、麻生氏がキングメーカーとして君臨することを防ぐには、小池知事と手を組むほうがマシである。安倍派5人衆のなかで菅氏が連携してきた萩生田光一前政調会長が地元・八王子市長選などで小池知事との連携を深めていることも考慮したに違いない。

小池知事が電撃辞任して4月28日投開票の衆院東京15区補選に出馬すれば、当選は確実だ。国政に復帰した後、二階氏や萩生田氏の後押しで自民党復党を果たせば、いきなりポスト岸田候補に躍り出る。

もちろん麻生氏らは小池復党に反発することが予想され、そう簡単に事は運ばない。小池知事が本当に都知事を辞任するかどうかも見通せない。とはいえ上川待望論に対抗するカードとして、小池知事を用意しておくことは政治的には十分に意味がある。

小池氏は現在、上川氏と同じ71歳。上川氏よりはるかに政治キャリアは長く、陽の当たる道を歩いてきた。上川氏が初の女性首相候補に急浮上したことに、激しい対抗心を燃やしていることは想像できる。国政復帰の可能性は十分にあるだろう。

高市早苗氏も総裁選出馬に意欲をみせる。安倍派解散で5人衆の重しがなくなり、無派閥の高市氏にとっては推薦人20人を確保しやすくなった。総裁選出馬の可能性は極めて高い。

野田聖子氏も出馬に意欲をみせるが、こちらは推薦人の確保に苦労しそうだ。

一方、岸田首相が退陣した場合、総裁選出馬の可能性があるのは、石破氏と茂木氏くらいである(茂木氏は出馬できない可能性もある)。女性候補が男性候補よりも多い総裁選になる可能性はかなり高い。

裏金批判を初の女性首相ブームでかわそうという機運が自民党内に広がっていることを踏まえると、女性首相誕生はかなり現実味を帯びてきたといえるのではないか。

そこに待ったをかけるとしたら、一番手は岸田首相であろう。9月総裁選前に衆院解散・総選挙を断行して勝利すれば、自民党内からは「選挙の顔」を期待した「初の女性首相」への待望論は急速にしぼみ、上川氏や小池氏の擁立論も消えていくのではないか。

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