総選挙で国民民主党が躍進し、自公与党が過半数割れした結果、年末の予算編成・税制改正の最大の焦点に「年収103万円の壁」の引き上げが浮上している。
国民民主党は所得税がかからない「年収103万円」の水準を「年収178万円」まで引き上げることを総選挙の公約に掲げた。
自公与党は過半数割れを受けて国民民主党の賛成を得て予算案や法律案を成立させる方針だ。国民民主党の目玉公約である「103万円の壁の撤廃」に抵抗しつつも、国民民主党の賛成なしには予算案を成立させることができないため、どこまで引き上げるかが焦点になっている。
この問題は、自公与党と国民民主党の政策協議の初戦といってよい。国民民主党が今後、どこまで政策を実現できるのかを占う重要な交渉となる。
103万円は、所得税の非課税枠だ。103万円を超えれば所得税がかかるというだけではなく、扶養家族から外れるため、世帯主の所得税負担も増える。そこで所得が103万円を超えないように労働時間を制限する「働き控え」が広がっている。
103万円を引き上げれば、手取りが増えるばかりか、労働力不足の解消にもつながるというのが、国民民主党の主張だ。
だが、「103万円の壁」には、実はもっと本質的な問題がある。
そもそも103万円という数字は「これだけお金があれば最低限の暮らしをおくることができる」という基準で設定されたものだ。だからこそ、この金額までは所得税をかけないというわけである。
つまり、日本政府は「103万円あれば、憲法が生存権として保障する『最低限度の生活』をおくることができる」と判断しているわけだ。この金額は欧米諸国よりはるかに少ない。
しかも103万円は1995年からずっと据え置かれてきた まさに「失われた30年」と重なるのだ。
しかし、これで本当に最低限度の生活が送れるのか。月に直せば8万〜9万円である。
物価高で国民生活は困窮している。経済対策・景気対策という前に、生存権を保障するためにも103万円の引き上げは喫緊の課題だ。放置すれば憲法違反の疑いさえある。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、議席を4倍に増やして躍進した総選挙の直後、103万円を178万円に引き上げる目玉公約について「100%これをのまないと1ミリでも変えたらダメだという気はない。交渉ですから」と柔軟な姿勢を示していたが、不倫スキャンダル発覚後は「譲るつもりは全くない」「必死の交渉が始まっていく」と態度を硬化させた。
不倫報道を認めて謝罪する一方、公約実現のために代表を続投すると説明した以上、「103万円の壁」で妥協は許されなくなったのだろう。自公与党との協議は難航も予想される。
財務省は「税収が7〜8兆円減る」という反対論を財界やマスコミ界に根回しし、すこしでも引き上げ幅を抑えることに懸命だ。玉木代表の不倫スキャンダルについて「財務省に嵌められた」との声もネット上では飛び交ってポリ、財務省vs国民民主党(玉木代表)の対決構図も浮かび上がっている。
鍵を握るのは、公明党だ。
総選挙で惨敗して石井啓一氏から斉藤鉄夫氏へ代表が交代。親密な関係にあった自民党の二階俊博元幹事長は政界引退し、菅義偉元首相も体力面の不安から影響力が低下し、自公関係に軋みが生じている。
公明党は国民民主党と連携を強化して政権内での影響力回復を目指す。そこで「103万円の壁」問題でも国民民主党と歩調をあわせて自民党に実現を迫る方針だ。
とはいえ、財務省も公明党に根回しを進めている。103万円を引き上げるとしても、財源論はどうするのかという立場を公明党は捨てていない。
だが、ここは単なる景気対策としてではなく、憲法が保障する「最低限度の生活」(生存権)を守るという立場から、財源論にとらわれることなく、早急に103万円の大幅引き上げを主張すべきであろう。