国民民主党が求めている「103万円の壁」(所得税の非課税枠)の引き上げに対して、自民党と立憲民主党の首脳陣から年末年始に異論が相次いだ。
昨年10月の総選挙で自公与党が過半数割れし、減税を掲げる国民民主党が躍進した当初は、自公与党が国民民主党に接近した。しかし、自公与党は年末の予算編成で国民民主党が求める「178万円」への引き上げを拒んで「123万円」にとどめ、自公国3党協議は決裂した。
これを受けて逆に自民・立憲の二大政党による国民民主党外しがじわりと進んでいる。財政収支均衡を最重視する財務省の政界対策が水面下で進んでいるのだろう。
石破茂首相は年末に民放各社のテレビ番組に出演し、「所得税の控除を増やす分、税金が減っていく。それをどう補填するか」「次の時代に借金送りするわけにはいかない」などと慎重論を繰り返した。
自公国3党で「178万円を目指す」とする幹事長合意を結んだ当事者である自民党の森山裕幹事長も1月8日の講演で「財源の裏付けのない話はしてはいけない。国がおかしくなる」と一転し、国民民主党を突き放した。
7月の参院選にむけて国民民主党に連携を呼びかけている立憲民主党の野田佳彦代表も1月6日の党本部での仕事始めで「減税だけ言ってればウケはいいが、将来世代にプラスにならない」と慎重論を述べ、「現実的な路線をとることが将来の政権交代につながる」とも強調した。
自民・立憲の二大政党の首脳陣が1月24日からの通常国会に先立ち、国民民主党が求める所得税減税への慎重論で平仄をあわせた格好だ。国民民主党は通常国会で新年度当初予算の修正を迫る方針だが、自民・立憲の二大政党が手を握って国民民主党を抑え込む構図が出来つつある。
石破首相も森山幹事長も野田代表も、財政収支均衡を最重視する緊縮財政派だ。参院選後の増税大連立を視野に通常国会でも財政政策では歩調をあわせたといえる。
国民民主党は立憲民主党の支持率を追い抜いて勢いづいている。野田代表としては国民民主党の勢いを止めるためにも103万円の壁の引き上げで満額回答を得ることを阻止したいのだろう。
これに対し、国民民主党はあくまでも178万円への引き上げを目指し、2月末に予定される衆院採決に向けて予算案修正を求めていく方針だ。
しかし通常国会に先立って自民・立憲の首脳陣が慎重論で一致した状況では、修正協議の難航は必至だ。衆院予算審議を仕切る立憲の安住淳予算委員長も財務相経験者で財政収支均衡論者である。国民民主党外しで外堀は埋まりつつある。
自公与党はおそらく、123万円から小幅引き上げを提示して国民民主党を揺さぶってくるだろう。玉木雄一郎代表は123万円では減税効果はほとんどなく、178万円にできるだけ近づける姿勢を示しているが、自公与党はあえて玉木代表が乗りにくい小幅引き上げを提示し、それを拒否すれば123万円のまま予算案を採決すると迫るだろう。国民民主党が賛成しなくても教育無償化の協議会設置で合意した日本維新の会の賛成を得られれば可決・成立は可能だからだ。
国民民主党は厳しい立場となった。自公与党に譲歩して中途半端な内容で賛成すれば、減税を期待する支持層が離反して7月の参院選で伸び悩む。さりとて自公与党に歩み寄らなければ、123万円のまま予算案は成立して減税はほぼ実現しない。どちらをとればよいのか、悩ましいところだ。
自民と立憲の首脳陣の間で「参院選後の増税大連立」の機運が醸成されつつあるなかで、国民民主党はいずれ切り捨てられる可能性が高い。そもそも緊縮財政派の自民・立憲と、積極財政派の玉木代表は、経済政策の基本姿勢が異なっている。
ここは自公与党と決裂し、積極財政・減税派の連携を軸とした政界再編を展望するほうが政策実現の近道ではないか。具体的には、増税大連立に対抗する勢力(立憲民主党・小沢一郎氏、れいわ新選組・山本太郎代表、日本保守党・河村たかし氏ら)と増税反対の機運を盛り上げ、増税か減税かを政界の対立軸につくりあげていくことが、減税実現にはもっとも効果的であろう。