創業者ジャニー喜多川氏による性加害問題に蓋をしてきたジャニーズ事務所のタレントを広告に起用してきた企業や、番組に出演させてきたテレビ局の社会的責任が問われているが、もうひとつ見逃せない問題がある。ジャニーズ事務所と政治の密接な関係だ。
とりわけ憲政史上最長の安倍政権(2012年〜2020年)とジャニーズ事務所は濃密な関係だった。安倍政権はジャニーズのタレントの人気を政治利用し、ジャニーズ事務所は国家権力の威光を得ていたといっていい。
安倍氏とジャニーズの関係はざっと振り返るだけでも以下のような具合である。
・2019年9月に東京ドームで開催された故ジャニー喜多川氏のお別れ会で、安倍晋三首相の弔辞が代読された。「ジャニーさんへのエンターテインメントへの熱い思い、託したバトンは、必ずやジュリー(藤島景子)さん、滝沢(秀明)さんをはじめ、次の時代を担うジャニーズのみなさまへと、しっかりと受け継がれていくと私は確信しております」という内容だった。
・2019年11月には東京ドームであった嵐のコンサートを訪れ、ステージ裏でメンバーと面会した。
・2018年末に福島復興を支援してきたTOKIOのメンバーと首相官邸で懇談し、2019年5月にはピザ屋で会食して親密さをアピールした。
・2018年6月のG20大阪サミットの開幕前日には、関ジャニ∞・村上信五のインタビューを受けた。
・2020年元日にはラジオ新春番組でV6の岡田准一と対談した。
安倍氏はジャニーズのタレントと会うたびにインスタグラムなどで紹介し、好感度アップを図ってきたのだ。
一方、ジャニーズ事務所も「政治」へ接近した。桜井翔が日本テレビ系「news zero」のキャスターに、小山慶一郎が日テレ系「news every.」のキャスターに、国分太一がTBS系「ビビット」のMCに、東山紀之がテレビ朝日系「サンデーLIVE!!」に、中丸雄一が日テレ系「シューイチ」に出演。政治問題や社会問題についてコメントを重ね、世論形成に大きな影響力を持ち始めたのである。
ジャニー喜多川氏による性加害問題は2004年時点で週刊文春との裁判で真実だと認められていた。マスコミはジャニーズ事務所の影響力に怯えて報道を控えてきたが、政界、官界、財界では誰もが知る「常識」だった。それを承知で安倍氏はジャニーズ事務所と密接な関係を重ね、所属タレントと親密さをアピールして、政権浮揚につなげてきたのである。
安倍氏の政治責任に加え、それを追及してこなかったマスコミ各社の報道責任が問われる。安倍政権の長期化の背景にジャニーズ事務所を政治利用した世論誘導があったことは、政治史的にもしっかり検証されなければならない。
内閣改造後、政府内からはジャニーズ事務所との関係を見直す動きは出始めた。
武見敬三厚生労働相は記者会見で、厚労省広報などでジャニーズ事務所のタレントの起用について実態調査する考えを示したうえ、「結果が出てから適切に対応を検討する」と述べた。農林水産省は、農業情報を発信する「ノウフクアンバサダー」に任命したTOKIOの城島茂の活動を当面見合わせると発表した。当然の動きだろう。
重要なのは、これらの見合わせを急場しのぎの対応策に終わらせないことだ。さらには、政府がジャニーズ事務所のタレントを起用してきた経緯に不透明な経緯がなかったのか検証することも必要である。そのような総括なしにタレント起用を再開することは許されない。
ジャニーズ事務所と安倍政権の深い関係について、YouTubeの「5分動画」で解説しました。ぜひ。