石破政権の対応に対し、旧安倍派からの不満が高まっている。背景には、旧安倍派の会計責任者である松本氏の参考人招致を自民党が容認したこと、高校無償化をめぐる日本維新の会への譲歩、さらには選択的夫婦別姓に対する政権の姿勢がある。こうした動きが今後の政局にどのような影響を与えるのか注目される。
■旧安倍派会計責任者の参考人招致
衆院予算委員会は、旧安倍派の会計責任者である松本氏の参考人招致を野党の賛成多数で可決した。全会一致の原則が崩れたのは実に51年ぶりのことであり、自民党は「数の力による暴挙」と反発した。
しかし、松本氏自身は当初、出席を拒否。参考人招致には強制力がないため、参考人招致は議決されたものの開催できない状況が続いていた。これを解消するには、強制力のある証人喚問を行うほかない。
こうした中、森山裕幹事長が松本氏を説得し、最終的に出席する方針へ転換したと報じられた。証人喚問に発展することを避けるため、参考人招致のみにとどめる条件闘争があったとみられる。
松本氏は非公開の国会外聴取なら受け入れる意向を自民党を通じて示し、これを立憲民主党の安住淳衆院予算委員長が了承した。
この背景には、盟友関係にある森山氏と安住氏の裏取引があったとみられる。ふたりは当初から①証人喚問は避ける②非公開の参考人招致は行うーーという密約を交わしていたのではないか。予算審議冒頭から②が実現すれば、それでは不十分だとして①へ発展する恐れがあるため、冒頭では全面拒否し、予算審議終盤で②のみ実現させて予算案採決へ流れ込むという出来レースだったと私はみている。
しかし、旧安倍派内部では「裏金問題を蒸し返し、安倍派を弱体化させる狙いだ」との不信が充満。特に萩生田光一元政調会長は、裏金問題を受けて衆院選で自民党公認を得られず無所属で当選してきた経緯があり、元執行部への怨念を募らせている。
■維新の要求受け、高校無償化で大幅譲歩
石破政権は、日本維新の会が求める「所得制限なしの高校無償化」を受け入れる方針に転じた。
政府は当初、一定の所得制限を維持する方向で調整を進めていたが、少数与党である国会で予算案の可決・審議には維新の協力が不可欠だとして大幅に譲歩した。
所得税減税と引き換えに予算案賛成をめざしていた国民民主党よりも、高校無償化を求める維新を優先させたのである。
この決定に対し、旧安倍派は強く反発している。高校をはじめとする私学助成は、旧安倍派が影響力を持つ分野だったのに、高校無償化の決定課程で蚊帳の外に置かれたからだ。
文部科学省は、旧安倍派の牙城だった。森喜朗元首相以下、裏金事件が直撃した下村博文氏や萩生田氏ら文科相を歴任した大物文教族議員がひしめいていた。文科省が所管する私立学校、幼稚園、宗教団体、スポーツなどの業界は旧安倍派の強力な応援団だった。政治資金でも選挙でも強くサポートしてきたのである。
だが、安倍派は裏金問題で壊滅し、政治的影響力が低下。それにつけ込み、森山幹事長ら自民党執行部や前原誠司共同代表ら維新執行部が私学利権を奪い取りに来ているように旧安倍派には映るのだろう。
安倍派関係者は「石破政権は安倍派の影響力を削ぐことを目的にしている」と警戒を強めている。
■選択的夫婦別姓、石破政権の判断に注目
さらに、今国会後半の焦点となるのが選択的夫婦別姓の導入だ。
主要野党や公明党は賛成の立場を取る一方、自民党内には反対論が広がっている。昨年9月の総裁選の際に小泉進次郎氏の失速を招いた要因の一つともなり、石破首相は総裁選時の前向き姿勢をトーンダウンさせた。自民党内で最も強硬に反対しているのが旧安倍派だ。
これに対し、公明党の斉藤鉄夫代表は「連立離脱も辞さない」と強硬姿勢を示しており、政局のど真ん中のテーマに浮上してきた。
石破政権は少数与党であり、野党や公明党の協力なしに国会運営を進めることは困難だ。仮に石破政権が賛成に転じた場合、旧安倍派や麻生太郎元首相ら反主流派は猛反発し、「石破おろし」の動きが一気に加速する可能性がある。
■今後の展望
旧安倍派は昨年10月の衆院選で中堅・若手議員が大量に落選し、かつてのような影響力を維持するのが難しくなっている。とはいえ、萩生田氏ら同派閥の一部議員は依然として影響力を持ち、総裁選の決選投票で敗れた高市早苗氏らと連携して今後の政局のカギを握る存在となっている。
石破政権が野党や公明党との協力を強める一方で、旧安倍派の反発が激化すれば、政局は大きく動く。選択的夫婦別姓をめぐる判断次第では、石破おろしの動きが本格化し、政権の存続に影響を与える可能性もある。
石破首相が選択的夫婦別姓の法制化と引き換えに退陣するというシナリオも十分にあるだろう。今後の自民党内の動向が注視される。