政治を斬る!

朝日新聞政治部記者が蓮舫バッシングに加担!? 岸田首相や菅前首相の番記者歴を自らアピールするその素顔は?SNS投稿よりも深刻な政治取材体制の内幕

朝日新聞政治部の記者がSNSに都知事選で惨敗した蓮舫氏をののしる投稿をして謝罪した。

これは本当に朝日新聞政治部の記者か、朝日新聞政治部はどうなっているのか。朝日新聞政治部のデスクを務め、『朝日新聞政治部』という本でその内情を包み隠さず明かした私のもとへは問い合わせが殺到している。
今日はその疑問に答えたい。記者の投稿内容は問題外だが、実はもっと深刻な問題が背景にあることもお伝えしたい。

この記者をここではK記者と呼ぶ。本人は実名で投稿しており、私も実名報道するかどうか迷った。しかし部長やデスクなど管理職ではないので、匿名としたい。
このK記者はたしかに朝日新聞政治部に在籍している。私もよく知っている。一緒に仕事をしたこともある。朝日新聞政治部では珍しく「極めて軽いノリの記者」だ。「お調子者」といっていいかもしれない。

その分、政治家に溶け込むのは得意なようだ。彼はSNSのプロフィール欄で「菅前総理や岸田総理の番記者を歴任し、10年以上前から取材しています」とアピールしている。いまも岸田首相に電話で取材しているようだ。

まずは経緯を整理したい。問題の投稿は、都知事選で惨敗した蓮舫氏の投稿に対し、K記者が投げかけたものである。

蓮舫氏は、都知事選で小池百合子氏を支持した連合の芳野会長が「蓮舫氏を共産が支援したことで票が逃げた」と発言したことに対し、「現職に挑戦した私の敗因を、現職を支持した貴女が評論ですか」と批判。自らは若者の雇用環境改善を訴えた、本来は労働者を守る連合が要求する内容だと批判したで、「組合離れはこういうトップの姿勢にあるかもしれませんね」と揶揄した。
この蓮舫氏の主張には賛否両論あるだろう。私は、連合が大企業と一体化して非正規労働者に寄り添っていないことが労組離れと大きな要因であるという主張に賛同する。ただし、都知事選で惨敗した蓮舫氏が今の時点でこのような批判をするのは、支持拡大を追求すべき政治家としてはあまり利口ではないとも思う。

それはさておき、今回の本題は、K記者の投稿だ。

私のような独立したジャーナリストに限らず、新聞社の政治部記者が自分の論評を発信することに、私は賛成である。ただし、所属機関が「客観中立報道」の原則を掲げている以上、その発信の表現の仕方は慎重でなければならない。まして社名を明示し、所属部門や取材歴を明かして発信する場合は、所属機関の報道内容の信憑性に大きくかかわることを自覚する必要がある。

今回でいうと、K記者は朝日新聞政治部に所属し、自ら岸田首相を取材してきたことを明かしている。つまり朝日新聞政治部はK記者の情報に基づいて記事を作成しており、K記者への評価は朝日新聞の政治記事の信憑性を左右することを覚悟しなければならない。

蓮舫氏の投稿に対し、K記者は次のように投稿した。

「ザ蓮舫さん、という感じですね。支持してもしなくても評論するのは自由でしょう。しかも共産べったりなんて事実じゃん(中略)自分中心主義か本当に恐ろしい」

惨敗した蓮舫氏を見下す表現である。蓮舫バッシングが吹き荒れるなかで「勝ち馬に乗れ」といわんばかりに「敗者を容赦なくたたきのめす」姿勢と受け取られても仕方がない。

K記者自身が「岸田総理を10年以上取材している」とアピールしていることが、さらに問題を深刻化させている。「権力者と一体化して野党を叩く、敗者を叩く朝日新聞記者」というイメージが膨らんでくるからだ。

この投稿は、朝日新聞の政治報道に対する信頼を根底から壊したといえるだろう。

しかし、疑念はそればかりではない。

なぜこのような軽率な記者が、朝日新聞政治部に所属し、岸田首相を取材しているのか?

ここが最大の問題だ。

朝日新聞政治部には、岸田首相に直接電話して取材できる記者はほんのわずかしかいない。K記者はその貴重な一人なのだ。

朝日新聞政治部のなかには、K記者の軽いノリからして、彼の情報に依拠していいのかという疑問もある。岸田首相の世論操作に乗せられているのではないかという懸念だ。

私も政治部デスクを務めたが、この見極めこそがデスクの最大の責任だ。無能なデスクはその見極めができず、権力者の世論操作に騙される。いまの朝日新聞政治部は、K記者の取材を重視し、日々の政治記事をつくっているようだ。だからこそ、K記者を第一線の取材から外せないのだろう。

しかし、権力者にすれば、このような軽いノリの記者ほど、便利だ。自分に有利な情報を伝えれば、さして吟味することなく、そのまま垂れ流してくれる。すこし持ち上げて大切に接すれば、あっという間に取り込める。これほど使い勝手の良い番記者はいない。

今回のK記者の投稿で、彼がいかに脇が甘く、権力者の目線で政治を眺め、それが悪いという自覚に欠け、逆にそれをひけらかす記者であることが可視化された。

このような記者を政治取材の一線に置き続ければ、今後の朝日新聞の政治報道への信頼はさらに崩れるだろう。今まさに読んでいる朝日新聞の政治記事は、K記者が岸田首相から聞かされた話をもとにつくられているかもしれない。そう思うだけで、その記事を読む気がしなくなるのではないか。

朝日新聞の坂尻顕吾編集局長は、私の一期上の先輩、松田恭平政治部長は私の一期下の後輩だ。どちらも長く政治取材で苦楽をともにしてきた仲間。もちろんK記者のような軽率な記者ではない。K記者を政治取材の第一線を置き続ければ、朝日新聞の政治報道への信頼は根底から崩れることを、ふたりとも重々理解しているだろう。

これは単に、不用意な投稿を謝罪して終了という簡単な問題ではない。政治取材のあり方そのものが問われている。

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