今夏に予定される参院選。表向きは「与党 vs 野党」の構図に見えるこの選挙、しかしその裏では、もっと複雑で根深い戦いが進行している。
実は、真の対決構図は「立憲民主党 vs 国民民主党」なのだ。さらにいえば、この両党の対立の背後には、自民党の麻生太郎元総理の存在が色濃く影を落としている。
昨年の衆院選では、自公連立政権が過半数割れという歴史的事態に直面した。だが、野党による政権交代は実現しなかった。それは、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会という3党の連携がままならなかったからだ。
表向きは政権交代を目指す姿勢を取りながら、実際にはそれぞれが自公政権への連立入りを虎視眈々と狙っていた――そうした政局の現実が露呈した形である。
3党のうちいずれかが自公連立に加われば、与党は過半数を回復する。だからこそ、互いに牽制し合い、敵対的にならざるを得ない。この夏の参院選は、政権批判票を奪い合う戦いであると同時に、「誰が連立入りを果たすか」を競う政争でもある。
とりわけ注目されるのは、立憲の野田佳彦元首相と国民の玉木雄一郎代表という、ポスト岸田を睨んだ「次の総理候補」同士の争いだ。彼らが率いる2党が、単なる議席争いではなく、将来の総理の座を巡って真剣勝負を繰り広げているのだ。
マスコミがこの視点を報じないために、選挙の本当の構図が有権者に伝わらない。
とりわけ1人区では、野党の候補者一本化がほとんど進んでいない。全国32の1人区で、候補者調整ができなければ、与党に漁夫の利を与えるだけだが、それでも各党は独自候補の擁立に動く。裏を返せば、それほどまでに「選挙後の政権入り」を意識しているということだ。
さらに視点を広げてみると、立憲民主党は自民党の主流派(増税派)との大連立を模索している。石破茂元幹事長、森山裕幹事長、林芳正官房長官ら、自民党の現主流派と近い関係にある。
一方、国民民主党はこれと明確に一線を画し、自民党の非主流派(減税派)との連携を模索している。麻生太郎元総理、茂木敏充前幹事長らとの水面下の関係構築が進んでいるとされる。
この「与野党混成チーム」の構図を理解すれば、参院選はもはや「与党 vs 野党」という単純な対立ではないことがよくわかる。むしろ、「自民主流派・立憲チーム vs 自民反主流派・国民チーム」という、入り組んだ対立軸が浮かび上がってくる。
国民民主党の戦略も、これを裏付けている。彼らが独自候補の擁立を進めているのは、山梨、富山、福井、滋賀、奈良、香川、山口、長崎の8県。このうち福井、滋賀、奈良の3県では立憲も候補者擁立を譲らず、真正面からの激突となる。他の5県でも、立憲は候補者擁立が難航し、国民に事実上譲る形になっている。
また、国民民主党が立憲の候補擁立済みの県に対して、今からでも独自候補を立てようとする動きもある。岩手がその典型だ。
ここまでくると、国民の狙いは「勝利」ではなく、「立憲の敗北」にあることは明らかだ。立憲が議席を減らせば、参院選後に野党第一党の座を奪い、政界再編の主導権を握ることができる。玉木・榛葉体制の最大目標は、ここにある。
さらに深読みすれば、国民民主党の動きには、麻生太郎氏への明確な配慮が見られる。
たとえば青森と栃木。いずれも自民現職と立憲新人が激突する構図だが、自民現職はともに麻生派。国民民主党は青森で自主投票、栃木ではいまだに独自候補擁立を模索している。麻生派の選挙を乱さぬよう、選挙区での対応を慎重に調整しているのだ。
一方、国民民主党が候補者を立てた8県の自民現職には麻生派はいない。旧岸田派や旧安倍派、あるいは茂木派の中でも麻生氏と距離がある議員ばかりである。ここにも、麻生太郎氏に近い自民議員を刺激しないという戦略が透けて見える。
参院選の裏側には、「政党間の対立」ではなく、「派閥間の連携と抗争」がある。有権者はこの複雑な構図を冷静に見極め、「誰がどのチームに属しているのか」を理解した上で投票行動をとる必要があるだろう。