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バイデンの狙いは「ウクライナ停戦」より「プーチンの転覆」〜マイケル・ムーアの米メディア批判

米国の映画監督マイケル・ムーアがウクライナ戦争をめぐる欧米メディアのプロパガンダ報道を批判し、「私たち米国民は、私たちを戦争に導こうとする他の米国人(政治家、評論家、元将軍、より大きな利益を求める企業の親玉たち)に操られていることを明確にしなければならない」と訴えている。

サメタイ読者のヨコヤマミノルさんがコメント欄で、ムーアの発言を伝える長周新聞の記事を紹介してくれたので、ここで詳細をみてみよう。

ムーアは「ゼレンスキーの演説は強く感情的なものになるだろうが、その背後に私の知っている者たちがいる。私たちを戦争に引き込もうとしている奴らがいる。政治家、マスメディア、戦争で何千万、何億ドルともうけようとする軍需企業だ」と指摘。「われわれは戦争しなければならないという内側からの誘惑に対して抵抗しなければならない」と米国民に呼びかけている。

そして「米国は第二次世界大戦後の75年間に世界で暴虐の限りを尽くしてきた」と振り返り、朝鮮、ベトナム、カンボジア、ラオス、中近東諸国、チリ、パナマ、ニカラグア、キューバの名を挙げた。さらに「第一次イラク戦争とそれに続くグロテスクなイラク戦争、アフガニスタン戦争など数えたらきりがない。イラクで、アフガニスタンで、100万人もの人々を殺し、多くの米兵が死んだ。その陰には息子を失った親、夫を失った妻、父親を失った子どもたちがいる。もはや、米国人は戦争することは許されない」と主張している。

ムーアの批判は欧米メディアへ向かう。「私は米国のテレビがどんな放送を耳や目に押し込んでいるかを確認するとき以外はスイッチを切っている。テレビは毎日、毎日、悲しいニュースばかり流している。道路の死体や子どもたちを見せて、ひどいひどいと刷り込むことであなたの心をむしばんでいく。悲しければ、悲しいほど、大衆洗脳と戦争動員プロパガンダ効果がある」と指摘。「私があなた方にお願いしたいことは抵抗だ。プーチンに対してではない。政治家とマスメディアと戦争産業集団が仕組んだ大衆プロパガンダに対してだ」と訴える。

ゼレンスキーがロシアとの停戦を主張する一方で、米国の参戦を促していることにも疑念の目を向け、「私たち米国人は、たとえウクライナ人のためであっても、戦争に参加してはいけない。私は米国が関与するいかなる形の戦争にも反対だ」と述べている。

さらに興味深いのはロシア国内でプーチン失脚を狙う動きがあると指摘していることだ。「高給を稼いでいるロシア政府の陸軍大将、高級官僚」がプーチンを失脚させて「資本主義ロシアでの裕福な盗人生活をとり戻せることができると考えているのではないか」とし、「報道機関は真実を伝え、実際に起こっている政治の話、なにがおこなわれているかを伝えてほしい。プーチンを排除するために、ロシア人と一緒になにを計画しているのか、彼らの軍隊はなにをしているのか。それが本当のレポートになるのではないか」と結んでいる。

ムーアの訴えにつづいて飛び込んできたニュースは、米国のバイデン大統領のワルシャワでの演説だった。バイデンはロシアのプーチン大統領を「独裁者」と呼んで厳しく批判したうえ、「この男は権力の座にいられない」と述べたのだ。

この発言は、バイデン政権がプーチン体制の崩壊を期待しているということにとどまらず、プーチン体制の転覆を狙ってロシア国内政局に水面下で介入しているとの想像をかきたてる。さらにはウクライナのゼレンスキー政権に大量の武器を支援して戦争を後方支援していることも、欧米や日韓などと連携してロシアの経済制裁を強めていることも、一刻も早い停戦合意を実現させるためではなく、ウクライナ戦争を好機ととらえてプーチン政権を転覆させることに真の狙いがあるとの疑念を抱かせる。

マイケル・ムーアが指摘するように、ロシアの一部の陸軍大将や高級官僚がプーチンを失脚させて巨大な利権を得ようとしており、バイデン政権がそれら一部勢力と連携して資源大国・ロシアで新たな利権構造を構築しようとしているという見立てに、バイデンの発言はさらなる根拠を与えたように思える。

バイデン発言が一斉に報道されると、米ホワイトハウス関係者は「プーチンによる他国への力の行使が許されるべきではない、というのが大統領の発言の趣旨だった。体制転換について語ったものではない」と釈明に追われたが、いったん露呈した「バイデンの本音」を覆い隠すことはもはや不可能であろう。

バイデンはオバマ政権の副大統領時代からウクライナを何度も訪問し、ウクライナに親欧米政権を樹立してロシアとの緊張関係を高める動きを加速させてきた。バイデンの息子ハンターはオバマ政権時代に不正疑惑のあるウクライナのガス企業の幹部を務めており、米大統領選前には米議会で疑惑追及の動きが強まった。バイデンとウクライナ政府の間には濃密な関係がある。

ところが、欧米メディアはバイデンがトランプと一騎討ちになる大統領選の構図が固まると「トランプ憎し」の立場からバイデンの疑惑追及を控えるようになった。今回のウクライナ戦争でもバイデンとウクライナ政府の濃密な歴史や息子ハンターの不正疑惑を踏まえてバイデン政権のウクライナ戦争への対応を批判的に分析する報道はほとんどない。逆にバイデン政権と歩調をあわせ「プーチン=悪、ゼレンスキー=正義」のプロパガンダ報道を繰り広げている。

ムーアはこのような欧米メディアの報道姿勢を「プロパガンダ」として強く批判したといえる。欧米メディアは日本マスコミよりは自由で公正であるが、いざ戦争になると自公政権寄りの「プロパガンダ」を垂れ流す傾向があることは米国戦争史をみれば明らかであり、欧米メディアを信奉する日本マスコミの報道には注意が必要だ。100%正しい報道など存在しないというメディアリテラシーが絶対に必要である。

バイデンが目論む「プーチン体制の転覆」は、プーチンが目論む「ゼレンスキー体制の転覆」とさしてかわりはない。要するに大国は小国の国内政局に水面下で介入し、自国に有利な政権を樹立させようとするものだ。

戦後日本の自民党政権も、日本の社会主義化を恐る米国によって支えられてきた。東西冷戦崩壊後、自民党は単独政権を担う力を失ったが、米国は野党(主に民主党)への政界工作を強め、前原誠司氏や長島昭久氏ら親米派議員を後押ししてきた。政権交代が実現しても反米政権が誕生することを防ぐ狙いがあった。

このような他国の政局への介入は非軍事的に進められるとは限らない。米国は各地の紛争に軍事的に介入し、常に親米政権が誕生するように工作を重ねてきた。これはロシアも同じだ。小国はつねに大国の国益に翻弄されるのである。だからこそ、大国の軍事的介入を防がなければならない。ウクライナは欧米とロシアの双方から武器がなだれ込み、欧米vsロシアの主戦場と化し、ウクライナ国民の命を危険にさらしてしまった。これはウクライナ外交の失敗である。

バイデンはウクライナ戦争を機に今度はロシアのプーチン体制の転覆を視野に入れている。そのために米軍は投入せず、ウクライナ国民を盾にして戦争を継続させ、経済制裁を長引かせ、プーチン体制を弱体化させるという狙いが透けて見えてくる。「プーチン=悪」の善悪二元論に染まった欧米社会はこれを歓迎するだろう。

だが、プーチン体制が崩壊した場合、バイデンが狙う「新たな利権構造」は出来上がるかもしれないが、それが和平をもたらすかは不明だ。

核兵器を保有するロシアにプーチンに代わってどんな指導者が誕生するかは見通せない。新しい指導者が平和主義で民主的な政治家とは限らない。プーチン以上に好戦的で、あるいは非常に愚かで、感情にまかせて核ミサイルのボタンを押すかもしれないのだ。

さらにプーチンのようにロシア国内を完全掌握する指導者が誕生せず、ロシアが群雄割拠の状態になる可能性もある。その場合、核ミサイルのボタンは誰が管理するのか。ますます世界の平和は危機にさらされるかもしれない。

少なくとも「プーチンさえ倒れれば戦争は終わり平和が訪れる」と信じるのは危険だ。プーチン体制の転覆とウクライナ戦争の一刻も早い停戦実現は、必ずしも一致しない。むしろロシア国内の不安定化は停戦合意を妨げる恐れもある。

だからこそ、いまはプーチンとゼレンスキーとバイデンの3者による停戦協議が最重要なのだ。そのためには3者を橋渡しする仲介者が不可欠であり、一刻も早い停戦合意をめざす外交努力を尽くすべきなのである。

いま問うべきは、バイデンが一刻も早い停戦合意を本気でめざしているかどうかである。そこを追及しないメディアの戦争報道は信用しないほうがいい。

トランプやプーチンの政治を私は肯定しない。しかし、バイデンは「反トランプ」「反プーチン」という「悪」を作り出すことでかろうじて政治的求心力を維持しており、欧米メディアも「反トランプ」「反プーチン」という正義を掲げてバイデンの「利権」に目を塞いでいるという点は、私たち日本の立場からは客観的に理解しておいたほうがいい。「バイデンがゼレンスキーを盾にしてウクライナの人々に犠牲を強いながら推し進めるプーチンとの戦争」に安易に手を貸すことの愚かさが見えてくるのではないだろうか。

平和憲法を擁する日本が行うべきは、戦争当事者の一方に肩入れすることではない。プーチンともゼレンスキーとも一線を画し、あくまでも戦争に巻き込まれたウクライナの人々に寄り添い、彼らの命を救うための人道支援に全力を尽くし、さらには一刻も早い停戦合意の実現に向けて中立的な立場から外交努力を続けることである。バイデン政権に追従してゼレンスキー政権に一方的に肩入れしても、軍需産業やエネルギー産業をはじめとする「新たな利権」の構築に力を貸し、日本はその利権にありつけないまま、逆にロシアから敵視されて戦争に巻き込まれるリスクを高めるだけだ。

憲法9条は、国家権力が安易に戦争に加担して国民の命を危険にさらすことを予期し、それを防ぐために、愚かな権力者たちの手足を縛っているのである。なんとリアリズムに満ちた条文であろう。