政治を斬る!

高市政権「物価高対策」が示した限界——政官業癒着の壁

高市政権が最優先課題に掲げる物価高対策のメニューが出揃った。ガソリン税減税、電気・ガス代の補助、そして商品券や「おコメ券」。だが、その多くは既視感のある政策ばかりで、国民が本当に求めている消費税減税や現金給付は今回も見送られた。高市政権は自民党政治の利権構造を変えられるのか。最初の試金石は、すでに険しい出だしとなった。


ガソリン税減税——“半世紀の暫定措置”がようやく終わるだけ

柱となるガソリン税減税では、リッター25.1円の暫定税率が年末で廃止される。1世帯あたり年間430リットルの消費を前提にすると1万800円の軽減だ。既存の10円補助との差し引きで、実際の家計のメリットは年間6500円ほど。即効性はあるが、恩恵は車保有者に偏り、温暖化対策の観点からも賛否が分かれる。

さらに、この減税は高市政権の“手柄”とは言い難い。昨年、自公が選挙で過半数を割り込み、国民民主党が暫定税率廃止を与党に飲ませたことで動き始めたものだ。それでも石破政権はダラダラと引き延ばしてきたが、高市政権の誕生でようやく実現に至った格好である。

そもそも暫定税率は1974年に導入された「2年限定の時限措置」だった。それが51年も続いたこと自体が自民党政治の怠慢であり、今回の廃止は本来“当然の後片付け”にすぎない。


電気・ガス補助——家計より「業界」が潤う仕組み

電気・ガス代の補助も目玉とされるが、これは過去の延長だ。石破政権時代の1カ月1000円程度の値下げ支援を引き上げ、月2000円超を想定している。ただし、この補助はあくまで電力・ガス会社への支払いを通じて料金を下げる仕組み。一般家庭に現金が直接届くわけではない。

ここに、自民党政治の構造的問題がある。補助は業界を潤し、政治家は献金や選挙支援を得て、官僚は天下りで報われる。一方、国民へ直接給付しても政治的な見返りはない。だから現金給付は極力避けられる。高市政権もこの枠組みを変えられず、政官業癒着が温存される形となった。


商品券と「おコメ券」——“利権を守るための支援”という本末転倒

三つ目は商品券だ。自治体に予算を配り、地域の事情に応じてプレミアム商品券やおコメ券を発行してもらう仕組みである。一見、消費者支援に見えるが、使い道が限定され、特定の業界・商店街が恩恵を受けやすいのが特徴だ。ここにも政治家・官僚と業界の癒着構造が透けて見える。

象徴的なのは「おコメ券」である。石破政権が進めた「コメ増産による米価引き下げ」を高市政権は撤回し、従来の生産抑制へ逆戻りした。米価を維持する政策を続けつつ、消費者にはおコメ券を配って負担を和らげるという“つじつま合わせ”である。

本来なら、増産で米価を下げ、その分農家の所得を直接補填すればよい。しかしそれではJAが潤わない。自民党はまず支援団体の利益を考え、その次に国民を置く――その政治の実像がここにも表れている。


消費税減税・現金給付の封印——利権構造を壊せない壁

結局、高市政権の物価高対策には「大胆さ」が欠けた。最大の理由は、総裁選で麻生副総裁の支援を得るため、高市氏自身が掲げてきた消費税減税を早々に封印してしまったことだ。さらに、国民への現金一律給付という直接支援にも踏み込まなかった。

確かに今回の補正予算は石破政権が仕込んだ内容がベースであり、いきなり抜本改革を行うのは難しい。しかし、高市政権が政官業癒着の構造に切り込む姿勢を見せなければ、日本経済は変わらない。

物価高の根本原因は円安である。ガソリンや電気代を補助しても、円安が続けば物価上昇は止まらない。円を強くするには、日本経済に新陳代謝を促し、海外からの投資を呼び込めるような構造改革が不可欠だ。だが、それを妨げているのこそ、自民党政治を長年支えてきた利権ネットワークである。

今回の物価高対策は、この負のスパイラルを断ち切るものではなかった。むしろ従来の構造を温存しつつ、業界支援を積み増す形になっている。

高市政権は発足直後であり、年末の予算編成が本格的な「政権の本心」を示すだろう。日本経済の底力を引き上げるために必要なのは、本当の意味で国民生活に寄り添う政策と、利権構造からの脱却である。今回の対策は、その入り口にすら立っていない――そう言わざるを得ない。