いま、永田町の権力闘争が、千葉に凝縮している。
自民党、立憲民主党、そして勢いに乗る国民民主党が、激しくぶつかり合う千葉選挙区。
当選枠はわずか3。これまでの「自民2・立憲1」という指定席に、国民民主党が殴り込みをかけたことで、情勢は大きく揺れ動いている。
落選するのは誰か、勝ち抜くのはどこか。
この「千葉ショック」が、参院選後の政界再編の引き金になるかもしれない。
今回は、千葉決戦の構図を大胆に読み解いてみよう。
自民・石井──参院のニューボスへ
まず注目すべきは、自民現職の石井準一氏だ。
現在、参院国会対策委員長を務める石井氏は、参院自民党の「ドン」としての地位を固めつつある。
6年前の参院選では69万票を獲得し、堂々のトップ当選。
同じ自民現職の豊田俊郎氏を、なんと25万票以上も引き離した。
石井氏の躍進の背景には、参院自民党内の権力構図の変化がある。
長らく参院を支配してきたのは旧安倍派の世耕弘成幹事長だったが、安倍晋三元首相の死去と裏金事件による派閥壊滅で、世耕氏は離党に追い込まれた。
この空白を突いて、石井氏が台頭したのである。
裏金事件では、世耕氏だけが参院予算委員会に参考人招致された。
これは石井氏による「世耕潰し」だったと見る向きも多い。
かつて浜田幸一氏の秘書として11年間、住み込みで仕えた叩き上げの石井氏。
負け戦と知りながら、石破茂氏の自民党総裁選に推薦人として名を連ねた気骨も持つ。
旧派閥を飛び出し、派閥解消の波に乗った石井氏は、今や石破政権を支える一角となった。
今回の参院選でも、その地盤は盤石だろう。
自民・豊田──反主流派の苦戦
一方、苦しい戦いを強いられているのが、同じ自民現職の豊田俊郎氏だ。
6年前の参院選では、ギリギリ3位で滑り込んだものの、2位の長浜博行氏(立憲)には20万票もの大差をつけられた。
4位の共産党候補にも、わずか8万票差だった。
今回、最も議席を奪われるリスクが高いのは、この豊田氏である。
豊田氏は麻生派所属。
現在の主流である石破政権にとっては「反主流派」の立場にある。
もともとは八千代市長から国政へ転身したが、地盤の八千代市も、いまや反主流派色の濃い小林鷹之氏(千葉2区選出)の影響下にある。
麻生太郎氏や小林氏にとっては、豊田氏を死守することが政局の布石だ。
しかし石井氏が当選し、豊田氏が落選すれば、それは千葉における自民主流派の勝利、反主流派の敗北を意味する。
千葉は、党内抗争の縮図とも言える選挙区になった。
立憲──野田の地元で意地を見せるか
千葉は、立憲民主党代表・野田佳彦氏の地元でもある。
現職の長浜博行氏は、野田政権時代に官房副長官、環境大臣を務めた側近中の側近。
ここで負けるわけにはいかない。
昨年の衆院選では、千葉県14選挙区のうち、自民と立憲が7勝7敗の五分。
立憲は千葉では一定の地力を持っている。
6年前の参院選でも、長浜氏は石井氏とトップを争い、2位当選を果たした。
今回も、国民民主党の参戦で多少の影響はあるにせよ、当選圏内にとどまる可能性は高い。
ただし、もし国民民主党に抜かれれば、野田代表の威信に大きな傷がつく。
参院選後の野党再編でも、立憲が野党第一党の地位を失えば、「自民・立憲による増税大連立」構想が揺らぐ。
野田氏にとって、千葉は絶対に落とせない地盤なのである。
国民民主党──減税旋風なるか
そして、今もっとも注目すべきが、国民民主党の動きだ。
千葉は、現役世代のサラリーマン層が多い都市型選挙区。
減税を掲げる国民民主党にとって、相性がいい。
擁立したのは、元NHK記者の小林さやか氏(41歳)。
東大卒、医療・介護問題を取材してきた社会派記者出身だ。
国民民主党は、東京選挙区にも元NHKアナウンサーの牛田茉友氏を擁立。
首都圏での同時躍進を狙っている。
とはいえ、国民民主党千葉県連ではパワハラ問題が発覚し、地方議員4人が集団離党するトラブルも起きている。
急成長に伴う「内紛リスク」をどう乗り越えるかがカギだ。
国民民主党が千葉で議席を奪えば、立憲との野党第一党争いに弾みがつく。
さらには、自公国による「減税型連立政権」構想にも現実味が増す。
玉木雄一郎代表にとって、千葉は実は最重要の選挙区と言えるかもしれない。
参院選後、政界はどう動くか
現時点で、落選の可能性が最も高いのは自民麻生派の豊田俊郎氏だ。
ただし、選挙戦最大の焦点は、自民2議席目よりも「立憲vs国民」の順位争いにある。
ここで国民が立憲を上回れば、参院選後の政界再編──
すなわち「自民・立憲による増税大連立」か、
「自民・国民による減税型連立」か──
その行方を大きく左右することになるだろう。
千葉ショックが、日本の政治を揺さぶる。