中国が日本への渡航自粛に踏み切った。表向きは「日本にいる中国国民の安全確保」だが、実態は高市総理の“台湾有事”発言に対する露骨な報復だ。インバウンドを人質にとり、発言の撤回を迫る――高市政権の出鼻を挫き、その外交手段を封じ込めようという思惑が透けて見える。
もっとも日本国内では、オーバーツーリズムが緩和されるとして歓迎する声すら上がっている。しかし今回の問題は観光の話では終わらない。日本経済全体への影響、そして高市政権の命運を左右する「対中政策の根幹」に直結する深刻な外交問題である。
■「戦略的互恵関係」から始まった高市外交
高市総理は、首相就任後、安倍政権以来の「戦略的互恵関係」を推進する立場を明確にしてきた。靖国参拝を明言せず、対中強硬姿勢をじわりと修正したのも、右派支持だけでは総裁選に勝てない現実を見据えた判断だった。
韓国で習近平国家主席と首脳会談を行い、互いの違いを認めつつ、対立より実利を優先する「戦略的互恵関係」、つまりは“成熟した大人の関係”を再確認した。表情こそ硬かったが、両者は握手を交わし、「ケンカはしない」という最低限の合意を形にしたのだ。
市場はこれを好感し、株価は史上最高値の5万円を突破。世論も最も求める政策として「物価高対策」を挙げ、高市政権に経済運営の安定を期待していた。
高市政権の大方針は一つだった。
「多少右派の不満を買っても、まずは日中関係を安定させて日本経済を立て直す」
中国側も警戒しながらも、この路線を当面は容認する姿勢を示していた。
■予算委員会で突如崩れた均衡
流れが変わったのは11月7日の衆院予算委員会である。
立憲民主党・岡田克也元外相が、存立危機事態の具体的ケースについて、台湾を想定しながら理詰めで事細かく質問した。これに対し高市総理は、
「中国が戦艦を使って武力行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうる」
と明言してしまった。
歴代総理が決して口にしなかった“レッドライン”を、高市総理は真正面から答えてしまったのだ。
中国が即座に反応したのは当然だ。中国政府にとって台湾は「国内問題」であり、他国が干渉すること自体が“越えてはならないライン”である。だからこそ安倍政権を含む歴代政権は、どれほど聞かれても曖昧に答え、“誤魔化し”で危機管理してきた。
岡田氏は、高市氏がそれをできるかどうかを試したのかもしれない。あるいは、中国の反発を誘う罠だった可能性すらある。いずれにせよ、高市総理はその罠に足を踏み入れてしまった。
翌日には中国の総領事がXで「その首を一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と過激投稿。中国外務省も日本大使を深夜に呼びつけ「発言撤回」を要求し、事態は完全に“外交戦争”に突入した。
そして14日、中国は日本への渡航自粛を発表。「次は輸入禁止だぞ」という無言の圧力を加え、高市政権を追い詰めにかかった。
■中国の狙いは「高市政権の手足を縛る」こと
中国政府の憤りは、単なる感情では説明できない。
高市政権は支持率82%という歴史的高スタートを切った。今解散すれば圧勝し、長期政権になる可能性が高い。
だからこそ、中国から見れば“芽が小さいうちに摘んでおく”必要がある。台湾問題を蒸し返されたうえ、“習近平主席の顔に泥を塗られた”形になれば、なおさらだ。
今回の対日強硬姿勢は、
「もう二度と台湾問題に口出しするな」
という強烈なメッセージであり、高市外交の行動範囲を制限するための戦略的圧力とみるべきだ。
日本政府は「従来の政府見解に沿う」と説明するが、問題は内容ではなく“総理が公の場で明言したこと”にある。だからこそ中国は引かない。
■進むも地獄、退くも地獄――高市政権の苦境
日本としては、見解を撤回することは不可能だ。「存立危機事態になりうるか」と問われれば、理屈の上では「なりうる」と答えるしかない。だから歴代総理は曖昧にしてきたのである。
しかし今さら軌道修正すれば、高市政権を支えてきた右派が一気に離反し、政権基盤は揺らぐ。
かといって強硬姿勢を貫けば、中国は経済制裁を強め、日中関係は泥沼化する。
高市政権は完全に板挟みに陥った。
頼みの綱はトランプ大統領との蜜月関係だが、中国総領事の暴言にも批判を避け、「多くの同盟国も友人とは言えない」とまで言い放った。高市総理を守る姿勢は見せず、日本側の期待は肩透かしを食った形だ。
■高市政権は“防戦一方”へ
現在の構図は明確である。
・中国は「発言撤回」か「実質的な譲歩」を迫り、日本に圧力をかけ続ける。
・日本政府は反論しつつも実質的な対抗策を持たず、時間稼ぎ以外の選択肢がない。
・与野党も経済リスクを恐れ、この問題に触れなくなった。
結局、高市政権はしばらくのあいだ、中国からの逆襲への対応に追われ、防戦一方の政権運営を強いられる可能性が高い。
外交とは、時としてたった一つの発言が国の命運を左右する――今回の問題は、その典型例と言えるだろう。