政治を斬る!

岸田首相が突然表明した「岸田派解散」は、自らの今春退陣を迫るキングメーカーの麻生氏に反旗を翻した「岸田の乱」「総理のクーデター」だ!

岸田文雄首相が自民党の老舗派閥・宏池会(岸田派)の解散を表明した。続いて二階派、安倍派も解散を決定し、自民党は大揺れだ。裏金事件で立件された3派閥が一斉に解散する異例の事態である。

東京地検特捜部は安倍派と二階派を強制捜査してきたが、土壇場で岸田派も立件する方針に転じ、1月19日に3派の会計責任者らを在宅ないし略式で起訴した。

岸田首相は直前まで岸田派も立件されることを察知できなかったようである。起訴前日に慌てて岸田派解散を表明し、自らへの批判をかわす狙いがまずはあったのであろう。

だが、考えてみると、これはおかしな話だ。

岸田首相は、岸田派を含む5派閥が刑事告発され、特捜部が捜査に着手したと報じられた昨年末、真っ先に派閥を離脱して会長も退任すると表明した。岸田派の裏金づくりは岸田会長時代のこととはいえ、現時点で派閥会長でも派閥メンバーでもない岸田首相がトップダウンで派閥解散を打ち出すのは、派閥離脱と会長退任が「偽装」であったことを自ら認めているようなものである。

そんな岸田首相が打ち上げた「派閥解散」を額面通りに受け止めることはできない。その目的は「政治の信頼回復」にあるのではなく、自らの政権延命策とみて間違いない。「派閥解散」によって「政権維持」を図ったというわけだ。

岸田首相の「岸田派解散」にはさらに政治的意図が隠されている。岸田政権の生みの親であり、安倍晋三元首相が急逝した後は自民党唯一のキングメーカーとなった麻生太郎副総裁との決別だ。

検察当局の裏金捜査はそもそも、麻生氏の意向に沿った「国策捜査」であると私は指摘してきた。

しんぶん赤旗のスクープを受けて大学教授が刑事告発したのは、安倍・麻生・茂木・岸田・二階の5派罰だった。ところが検察当局は当初から麻生派と茂木派を捜査対象から外し、安倍氏を失って落ち目の最大派閥・安倍派と非主流派の二階派だけを家宅捜索して強制捜査したのである。

さらに岸田派は「捜査対象」としてマスコミにリークしつつ、強制捜査の対象からは外す「宙ぶらりん」とした。最終的に立件しても立件しなくてもいいような状況で捜査を進めたのである。

この経緯をみるだけで、今回の検察捜査が極めて政治的思惑を帯びたものであることがわかるだろう。

麻生氏は、内閣支持率が1桁台に落ち込んだ岸田首相では今年9月の自民党総裁選に勝てないと見切り、茂木敏充幹事長を後継首相に据えて、麻生・茂木・岸田の主流3派体制を維持する構想を描いてきた。

最大の政敵である菅義偉前首相は世論調査の「次の首相」のトップに返り咲いた石破茂元幹事長を対抗馬に担ぐ準備を進めている。岸田首相が9月の総裁任期満了まで続けると、9月に党員も参加する正規の総裁選を実施することになり、石破氏に有利だ。そこで岸田首相に今春の訪米と予算成立を花道に電撃辞任してもらい、党員が参加しないかたちで行う緊急の総裁選を実施し、派閥の多数派工作で茂木氏の勝利を果たそうという筋書きだった。

最大派閥の安倍派と非主流派の二階派を狙い撃ちした検察の「国策捜査」はまさに麻生氏の意向に沿ったものといっていい。実際に安倍派は壊滅的な打撃を受け、総裁選に向けて解体・分裂が予想された。この時点で主流3派が優勢にする政治目的は達成されたため、安倍派幹部を立件する必要はなくなったのである。むしろ安倍派幹部らに貸しをつくったほうが、総裁選で主流3派に屈服させるには都合が良かった。

ところが、麻生構想に立ちはだかったのは、岸田首相本人だったのである。岸田首相は今春退陣を受け入れなかったのだ。

検察当局が土壇場で岸田派立件に舵を切ったのも、麻生氏の意向に沿ったものであろう。岸田首相に引導を渡して今春退陣を迫ることに最大の狙いがあったといっていい。

岸田首相の「岸田派解散」表明は、追い詰められた結果、捨て身の逆襲に出たものだ。今春退陣を迫ってくるキングメーカーの麻生氏に反旗を翻した「岸田の乱」「総理のクーデター」といっていい。

非主流派の二階俊博元幹事長が岸田派に続いて「二階派解散」を決定したのは、「岸田の乱」に便乗して、裏金事件の捜査対象から外れた麻生派・茂木派にも解散を迫る逆襲とみて間違いない。

岸田派、二階派に続いて安倍派も解散を正式に決定し、派閥解消の機運は一気に高まった。無派閥の立場を利用して「派閥解消」を訴えてきた菅氏にとって願ってもない展開となったのである。

安倍派、岸田派、二階派が解散し、「派閥解消」が総裁選最大の争点に浮上すれば、派閥会長である麻生氏と茂木氏は窮地に追い込まれる。菅氏が総裁選擁立を狙う石破氏は現在は無派閥だ。派閥が流動化し、派閥の縛りが弱くなれば、一気に石破政権誕生の流れが強まる可能性は高い。菅氏は政権中枢から麻生氏を追い出し、自らが復権できる。

菅氏は二階氏と非主流派として岸田政権を批判してきた。そこへ最大派閥・安倍派が崩壊し、さらには麻生氏と対立した岸田首相も引き込むことで、「麻生・茂木包囲網」をつくることに成功しつつあるともいえる。

とはいえ、岸田首相が菅氏や二階氏と完全に手を握ったとはいえない。現時点では、麻生氏と菅氏を天秤にかけることで自らの政権を少しでも延命させる狙いだろう。

自民党は、麻生・茂木vs菅・二階vs岸田の三つ巴の主導権争いに突入した。リーダーを失って彷徨う安倍派は草刈り場となろう。

そもそも派閥は総理・総裁を目指す者が「カネ・人事・選挙」を支援することで仲間を集めた集団である。権力闘争が続く限り、名前や姿を変えながら「派閥」は存続し続けるのは間違いない。

自民党は1989年のリクルート事件で派閥解消を打ち出したが、派閥は存続し続けた。野党に転落した最中の1994年には宏池会は「旧宮沢派」、清和会は「旧三塚派」と呼ばれるようになったが、与党に復帰した後は派閥も復活した。

今回の「派閥解消ドミノ」も政治改革の動きとしてみるのではなく、自民党内の壮絶な権力闘争の一貫と捉えたほうがよい。今の派閥力学を保持したい者が「派閥解消」に反対し、今の派閥勢力図を塗り替えることを目指す者たちが「派閥解消」を訴えているのだ。

元旦の能登半島を襲った地震への対応が目下最大の政治課題のはずである。それをそっちのけで、自民党が党内権力闘争に明け暮れていることに、現在の日本政界の最大の危機がみてとれる。


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