各党の実力をはかるバロメーターが比例代表の得票だ。今回の総選挙では自民、維新、公明、共産が大きく得票を減らした。全体で50議席を増やした立憲民主党も、実は比例票は惨敗した前回総選挙と横ばいだった。
大躍進したのは、国民民主党とれいわ新選組である。初参戦の参政党と日本保守党が議席を獲得した。
二大政党と組織政党が敬遠され、新興勢力が台頭し、政界地図を塗り替えつつある。それが今回の総選挙の比例得票から見える風景だ。
🔸自民党
比例票は1458万票。前回は1991万票で533万票減(26・8%減)だ。大惨敗である。
敗因は、裏金批判と石破茂首相への落胆だろう。総選挙直後の読売新聞の世論調査では、内閣支持率は34%だった。解散前の51%から大幅ダウンだ。総選挙を通いて石破首相への評価がいかに下がったかがわかる。
自民党は不人気の岸田文雄首相を総裁選で交代させ、裏金批判をかわす狙いだったが、まったく当てが外れたといっていい。岸田内閣の9月支持率は25%だった。石破内閣に変えてもご祝儀相場はほとんどなかったのだ。
🔸立憲民主党
比例票は1156万票。大惨敗して枝野幸男氏が代表辞任に追い込まれた前回は1149万票だった。自民党に裏金批判が吹き荒れる総選挙で、たった7万票しか増えなかったのだ。
立憲は全体では50議席を増やした。その多くは、小選挙区で競り勝ったものだ。
つまり、有権者は裏金自民党の候補を落選させるため、ひとりしか当選しない小選挙区では、立憲支持でなくても立憲候補に投票した。しかし立憲に期待しているわけでもないので、比例代表では立憲以外の野党に投票したという構図が浮かんでくる。
🔸公明党
公明党は創価学会の池田大作名誉会長が亡くなって初の国政選挙だった。2009年総選挙で大惨敗し下野した時から15年間も党運営を主導してきた山口那津男氏から石井啓一氏に代表が交代した直後の国政選挙でもあった。
結果は大惨敗。全国の比例票は596万票にとどまった。ピークの2005年は898万票。前回は711万票まで減らしていたが、坂道を転げ落ちるような減少ぶりである。
創価学会の高齢化で組織力が低下していることにくわえ、自民党の裏金議員の多くを推薦し、自民党が非公認にした議員の一部も推薦して反発を浴びた。自公連立から四半世紀。自民との一体化が進んだ矛盾が一気に噴き出したといっていい。
石井代表も埼玉14区で落選し、代表を辞任する。斉藤鉄夫国交相を新代表として再建をはかるが、党勢回復のメドは簡単には立ちそうにない。
🔸共産党
共産党は初の女性委員長となった田村智子氏を前面に掲げる選挙戦となった。
自民党の裏金問題を最初にスクープしたのは「赤旗」だったし、総選挙最終盤で非公認議員に公認料2000万円が支給されていたことを暴いたのも赤旗だった。自公惨敗の最大の立役者は共産党といってよい。
しかし、議席増にはつながらなかった。10議席を二つ減らして8議席となり、れいわ新選組にも追い抜かれた。
比例票は336万票。前回は416万票から80万票の減少である。
志位和夫前委員長が主導した歴史的な決断「野党共闘」は崩壊し、立憲民主党との候補一本化は進まなかった。党員除名問題で無党派層には「こわい政党」「とっくきにくい政党」のイメージが広がり、党勢拡大を阻んだ。
そして支持層の高齢化は深刻だ。総選挙後に80代が運転する共産党の宣伝カーが東武東上線の踏切で電車に衝突する事故が発生。共産支持層を高齢者が支える現状が浮き彫りになった。
🔸日本維新の会
比例票は510万票。前回は805万票から295万票減らす大幅ダウンである。大阪万博や兵庫県知事問題への批判が響いた。
本拠地・大阪では19選挙区全勝し、しぶとさをみせた。しかし比例では惨敗し、国民民主党に抜かれた。東京では音喜多駿政調会長が落選。全国政党への脱皮は険しく、野党第一党を奪う戦略は完全に崩壊したといっていい。馬場伸幸代表の進退問題も浮上し、党内は大混乱である。
自公与党は大躍進した国民民主党の抱き込みに躍起で、維新の居場所はなくなりつつある。
🔸国民民主党
比例票は617万票。前回259万票から357万票も増やした。2・4倍の大躍進だ。
自民も立憲もイヤ、維新はダメという無党派層を引き寄せたといっていい。
もともとは旧同盟系の労組が強力な支持母体だった。しかし玉木雄一郎代表がユーチューブでの発信に力を入れ、若者層に支持を拡大。党首力が大幅議席増を生んだといっていい。
🔸れいわ新選組
比例票は380万票。前回は221万票から158万票増やした。1・7倍だ。ついに共産党を抜いた。国民民主党と並んで今回の総選挙の勝者といっていい。
前回総選挙の野党共闘から離脱し、自民とも立憲とも距離を置く独自路線が奏功した。れいわの躍進も二大政党政治への強烈な批判と言えるだろう。
🔸参政党と日本保守党
総選挙初参加の参政党は187万票、日本保守党は114万票。ともに議席を獲得し、新興勢力として第一歩を踏み出した。既存政党批判、とりわけ二大政党への批判が高まっていることを映し出している。
来年夏には参院選がある。参院選は比例の割合が高く、総選挙よりも民意の多様性が反映されやすい。二大政党とは一線を画する国民民主党やれいわにくわえ、参政党や日本保守党など新興勢力がさらに躍進する可能性もある。