政治を斬る!

岸田首相が長男秘書官をかばう姿を際立たせた荒井首相秘書官の更迭劇!官邸チームの求心力低下は必至〜オフレコ取材中の失言についても考察

荒井勝喜首相秘書官(事務、経産省出身)が2月3日夜、首相官邸で番記者らのオフレコ取材に対し、LGBTQなど性的少数者や同性婚のあり方について「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と差別発言をした。毎日新聞など一部メディアがこれを報じてSNSで批判が高まり、岸田文雄首相は4日、荒井氏の更迭に踏み切った。

岸田首相が1日の衆院予算委員会で同性婚の法制化について「社会が変わっていく問題だ」と慎重姿勢を示したことについて、官邸記者クラブ所属の首相番記者らが荒井氏を囲んでオフレコで話を聞く場面でこの発言は飛び出したようである。

荒井氏は同性婚の法制化について「社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」「人権や価値観は尊重するが、同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」とも述べたと報道されている。

この発言は人権軽視の差別発言だ。関係者を深く傷つけるばかりか、首相秘書官の発言として海外で報道されれば日本政府の人権感覚の欠如をさらけだし、国際的名誉を毀損する。「秘書官室みんな」がそのような人権感覚だとしたら、なおさらだ。即刻更迭は当然であろう。

岸田首相は5月に地元・広島で開催するG7サミットのホスト役に並々ならぬ意欲を示しており、一刻も早く荒井氏を更迭しなければG7サミット議長国としての威信に傷がつくと慌てふためいたに違いない。

一方で、荒井秘書官自らが「秘書官室もみんな反対する」と漏らしたように、首相周辺が同じような人権感覚を持っている疑念は拭えない。この国の政権中枢の人権感覚が大きな政治問題として浮上してきた。

それに加えて、あと二つ、見逃せない論点があるので考察を進めたい。

①「岸田降ろし」へ長男がターゲットに

ひとつは「岸田降ろし」政局への影響だ。

岸田首相は昨年10月、長男翔太郎氏を首相秘書官(政務)に起用し「縁故人事」と猛烈な批判を浴びた。この長男はその後、テレビ局の女性記者に情報をリークしているなどと報道され「岸田批判」のターゲットとなっていたのだが、年明け早々、岸田首相の欧米5カ国訪問に同行し、パリやロンドンで公用車を使って観光・ショッピングをしていたことが発覚し、世論の批判はヒートアップ。岸田首相は長男の行動を「公務」としてかばったことで、「身内に甘い岸田首相」は今国会の大きな焦点に浮上している。

そこで荒井秘書官の差別発言が飛び出した。岸田首相がただちに更迭したのは当然としても、自らの息子の「公私混同」は大目にみながら、荒井秘書官はただちに切り捨てるという正反対の対応は、「身内に甘い岸田首相」の姿をさらに印象づけるだろう。

そもそも政権発足一年のタイミングで長男を秘書官に起用したことは、当初からの秘書官チームなど官邸スタッフには不評だった。そのうえに「息子に甘く、他の秘書官に厳しい」対応は、岸田首相への忠誠心をますます失わせていくだろう。政権が瓦解するときは、身近なところから崩れていくものだ。

荒井秘書官の更迭は、長男秘書官の擁護を際立たせ、岸田政権をますます窮地に追いやっていく。野党もマスコミも翔太郎氏への批判をますます強め、「身内に甘い岸田首相」をターゲットに攻め立てるのは間違いない。岸田首相が息子をかばうほど泥沼化していくだろう。

長男翔太郎氏は政権のアキレス腱から時限爆弾へ、ますます危ない存在となってきた。

②オフレコ取材でも看過できない失言は報道できる!

もうひとつは「オフレコ取材」のあり方である。

オフレコ取材とは、記者が取材相手の氏名を明かさない約束で話を聞く取材手法である。公式には発言できない本音や背景事情などを知るために有効な取材手法である一方、発言者が嘘をついたりミスリードしたりしても責任を問えないため世論操作に使われることも多い。極めて注意深く対応しなければならない取材手法である。

しかし政治取材の現場では記者会見やインタビューなどの「オンレコ取材」より「オフレコ取材」がまかり通っている。とくに首相秘書官は官邸中枢の情報に接しながら国会や記者会見など表舞台には立たない「裏方」であり、日々の取材は原則「オフレコ」だ。

官邸クラブに常駐する新聞社・通信社・テレビ局各社は首相秘書官に番記者をはりつけ、毎日オフレコ取材を続けている。そこから岸田首相の本音を知り、政治日程を知る。もちろん首相秘書官は都合の悪い情報を伏せたり誤魔化したりするのだが、最低ラインの情報を得るためにも日々接触していなければ、他社との取材競争に出遅れてしまうというわけだ。

荒井秘書官もよく見知った番記者たちへの「仲間意識」と「オフレコ」だという油断からガードが甘くなり、差別発言を口走ったのだろう。そこに今回の問題の本質がある。そもそも首相秘書官と番記者が日常から馴れ合っていることが問題なのだ。

とはいえ「オフレコ」の約束を破って報道するのは信義則に反するというご意見もあるかもしれない。しかしそれは明確な間違いである。政治取材の現場において「オフレコ」はあくまでも本音や背景事情を知るための取材手法であり、その場で看過できない差別発言などが飛び出したらオフレコを解除して報道することが許されるというのが長年の政治取材で積み重ねられた慣行である。オフレコ取材は権力者のためではなく、あくまでも国民のためのものなのだ。

今回毎日新聞などがオフレコ発言の報道に踏み切ったのは、あるべき政治報道の姿として評価していい。ただし岸田政権が弱体化しているからこそ「オフレコ破り」を断行できたのではないかという点は気になるところだ。強大だった安倍政権下でマスコミ各社は官邸の意向を忖度する報道を繰り返した。安倍政権下で首相秘書官が同じような発言をしても「オフレコ破り」に踏み切る覚悟があったとは私には思えない。

オフレコ取材のあり方については、私の政治取材経験をもとに鮫島タイムスで繰り返し考察してきた。以下、代表的な記事をいくつか列挙するので、ぜひ参考にしてほしい。

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