野党第一党の立憲民主党が「野党は批判ばかり」との批判に怯え、「提案型野党」を名乗って臨んだ今年の通常国会。蓋を開けてみると、対決法案も疑惑追及もなく盛り上がりに欠け、岸田内閣の支持率は徐々に上がって6割を超えている。立憲は自公与党に追従する優等生のようだった。史上まれにみる波静かな国会だった。
国会は来週には閉会して6月22日告示ー7月10日投開票の参院選になだれ込むが、自民一人勝ちの様相である。立憲民主党が掲げた「提案型野党」は大失敗に終わった。参院選にむけて野党戦線は崩壊しており、立憲民主党は野党第一党としてすでに敗北しているといってよい。
立憲民主党の体たらくと、それを受けた野党各党の現況については、プレジデント・オンライン『「何もしていない岸田政権」の支持率が上がるばかり…元政治部記者が日本の野党に抱く”強烈な違和感”〜立憲民主党は「野党第一党」としてすでに敗北している』で詳しく解説したのでご覧ください。
弛緩し切った政局のなかで立憲民主党は土壇場で取ってつけたように内閣不信任案を提出し、6月9日の衆院本会議であっさり否決された。今さら不信任案を提出するのなら日頃からもっと徹底的に岸田内閣を追及しろよ、何をやってきたんだこの半年、という感想しかない。無為無策とはこのことだ。
自公与党は昨年秋の衆院選で圧倒的多数の議席を獲得したばかり。内閣不信任案に対抗して衆院解散を断行するはずもない。解散・総選挙になる可能性は絶対にないという安心し切った状況での不信任案提出。そこには迫力も緊迫感もない。参院選前にやってる感を演出するアリバイ作りであることは誰の目にも明らかだ。
立憲民主党のパフォーマンスに付き合って「終盤国会は大きな山場を迎えた」と報じるテレビ新聞も猿芝居の一員である。こんな野党だからこそ、こんな政治報道だからこそ、政治への関心はいつまで経っても高まらず、投票率は5割にとどまり、組織票に勝る自民党が勝ち続けるのだ。ああ、つまらない。
それでもなおこの不信任案提出に政治的意味があるとすれば(それは極めて永田町における玄人的な意味にとどまるかもしれないが)、野党各党の対応がばらけ、立憲民主党が参院選目前に野党のリーダーとして不信任を突きつけられたことだろう。
野党第二党の日本維新の会と野党第三党の国民民主党は内閣不信任案に反対した。これは岸田内閣を信任したということである。もはやこの両党は「野党」とは呼べない。「限定的な閣外からの協力」といっていい。
国民民主党は連合と歩調をあわせて岸田文雄首相や麻生太郎副総裁ら自民党主流派に急接近し、当初予算案にも賛成していた。国民民主党は自民党の中でも「岸田首相・麻生氏の補完勢力」である。今回の不信任案への反対は予期された行動だった。これにより立憲民主党との決別は鮮明になった。もはや参院選で両党が共闘する大義は完全に消滅した。現内閣を信任する政党と、信任しない政党が、選挙協力するとしたら、それは有権者を欺く行為である。
日本維新の会は自民党主流派の岸田首相や麻生氏とは距離があり、非主流派の菅義偉前首相に近い。「菅氏の補完勢力」である。このため岸田内閣への不信任案への対応が注目されたが、国民民主党とともに反対に回った。これは岸田首相や麻生氏ら自民党主流派よりも内閣不信任案を提出した立憲民主党との対決姿勢を鮮明にしたといえる。つまり、維新は今回の参院選で「打倒自民」よりも「打倒立憲」を優先するということだ。
野党第二党(維新)と野党第三党(国民民主党)が野党第一党(立憲民主党)に明確に三行半を突きつけたのだから、もはや野党戦線は崩壊したといってよい。
立憲民主党と決別したのはそれだけではない。
立憲と社民が提出した不信任案に同調したのは共産党だけだった(組織政党の共産党は昨年の衆院選にあたり、立憲と「限定的な閣外からの協力」で合意したうえで共闘する「歴史的一歩」を踏み出すことを機関決定した以上、簡単には軌道修正できず、共産との共闘を白紙に戻した立憲の背中を追いかけている)。れいわ新選組は今回の不信任案に棄権したのである。
れいわ新選組の声明には、立憲民主党と決別する姿勢がくっきり出ている。
まずは岸田内閣は「信任に値しない」と明言している。一方で、不信任案を提出した野党(立憲)は今国会で問題法案に本気で抵抗してこなかったと厳しく批判したうえ、「選挙前に『抵抗してます』感をアピールする季節行事に参加することは、茶番への加担になる」とこき下ろしたのだ。
立憲が自公に抗ってこなかった具体例として、①警察庁が国民のプライバシーに捜査介入できるようにする警察法改正案をたった2時間の審議で通したこと、②経済安保ビジネスに群がる「お仲間」の権益を拡大し、政府に都合の良い軍事研究開発を進める経済安保法案に賛成したこと、③慣例に反して予算審議中に憲法審査会を開催し、憲法9条を書き換える議論を交わしていることーーなどを指摘した。
そのうえで「ここまで野党が政権や与党に抵抗しない国会があっただろうか? 歴史上、『野党がもっとも協力的だった国会』と記録される」と痛烈に批判し、「れいわ新選組は、野党が与党に徹底抗戦できるよう、最善を尽くしていく」と結んでいる。
私は1999年に朝日新聞政治部に着任し、20年以上にわたって通常国会をウォッチしてきたが、れいわの声明が指摘するとおり、野党がこれほど政権に抵抗しない国会をみたことがない。しかも参院選を目前に控えた国会で野党がこれほど与党に協力的だったのは、想像を絶する事態である。
「提案型野党」を掲げた立憲民主党は参院選を前に自滅し、不戦敗に追い込まれたという感がある。野党がバラバラになってしまったのは、野党第一党の求心力があまりになく、他の野党がそれぞれ生き残る道を自前で探るしかなくなったからだ。
立憲民主党は参院選前に野党のリーダーとしてふさわしくないと不信任を突きつけられたのである。参院選は立憲にとって想像以上に厳しい結果が待ち受けているだろう。比例区で維新を下回り、1人区は全敗という衝撃的な敗北を喫する可能性もある。
これでは衆院議員たちは次の衆院選を「立憲」の看板では戦えないと誰もが思う。立憲は分裂・解党への道を転げ落ちるように進み、参院選後の野党再編は待ったなしだ。
求心力を失った立憲は、連合に依存して追従する「連合派」、躍進する維新にすり寄る「維新派」、自公との対決姿勢を強めて確かな野党路線を鮮明にするれいわに共感する「れいわ派」に三分裂していく可能性が高い。
有権者は今回の参院選で、立憲候補がこの3派のどこに属するのかをよく見極めて投票しないと「裏切られた」と後悔することになる。参院選は立憲に代わる野党の主役を競いあうレースと考えたほうがよい。
発売日から一気に品薄に陥りご迷惑をおかけしていた新刊『朝日新聞政治部』がようやく都内の主要書店で山積みになりました。今週末にかけて全国の書店へ行き届くはずです。
6月9日、ジュンク堂池袋本店と紀伊國屋新宿本店を訪ね、色紙にサインしてきました。詳細は以下の動画で!