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新聞を読んでもわからない!内閣不信任案のめぐる二階幹事長、枝野代表の思惑をわかりやすく解説しました

立憲民主、共産、国民民主、社民の野党4党は6月14日の党首会談で、菅義偉内閣への不信任案を15日に衆院に提出することを決めた。16日に会期末を迎える今国会の延長を要求したが、自民・公明の与党に拒否されたことを受けて内閣不信任案を提出することにした。与党は粛々と否決して国会を閉会する方針であると新聞各紙は伝えている。

きょうは内閣不信任案について、これまで何度も不信任案の取材をしてきた政治記者の目で生々しく解説したい。

内閣不信任案が可決されれば、首相は10日以内に衆院を解散するか内閣総辞職しなければならない。これは憲法69条に規定されていることだ。今回は衆院で圧倒的議席を持つ与党が否決することは確実で、衆院解散も内閣総辞職もなく、国会はそのまま閉会し、衆議院議員の任期満了の今年10月までに行われる総選挙にむけて与野党は事実上の選挙戦に突入する。

つまり今回の内閣不信任案は総選挙を目前に控え、野党が国会会期末に対決姿勢をアピールするためのセレモニーといえよう。

とはいえ、内閣不信任案は「野党が衆院解散か内閣総辞職を要求する」ものであるから、首相がこれに対抗し、衆院解散を断行する大義名分になる。

実際、自民党の二階俊博幹事長は、野党が内閣不信任案を提出したら衆院解散で対抗する考えを繰り返し口にしてきた。コロナの感染拡大が広がる最中に総選挙を断行するのは常識的にあり得ないのだが、立憲民主党の枝野幸男代表はそれでも「(与党幹部が)衆院解散すると明言しているので提出できない」と語り、不信任案提出に慎重姿勢を示してきた。

そもそもなぜ二階氏は「不信任案を提出したら衆院解散」と明言してきたのか。新聞各紙の政治記事を読むと、単に二階氏の発言を垂れ流すばかりで、二階氏の思惑を読み解いていない。だから新聞の政治記事は面白くない。

私は二階氏の思惑はふたつあるとみている。

一つは自民党内の事情だ。いま自民党では安倍晋三前首相、麻生太郎副総理、甘利明税調会長の「3A」が連携し、菅政権誕生の立役者といわれる二階幹事長の追い落としを画策している。解散総選挙と自民党総裁選が行われる今秋の政局で二階氏を幹事長から外し、政権運営の主導権を取り戻すことを狙っているのである。二階氏はこれに対抗し、「首相の専権事項」である「衆院解散」にあえて言及することで「俺は菅首相と親しいんだぞ。首相の専権事項である衆院解散を口にすることもできるんだぞ」と自民党内にアピールしているのである。

裏を返せば、二階氏は、安倍・麻生・甘利の3Aによる「二階外し」の動きを警戒しているのだ。だからこそ菅首相との親密な関係をアピールして「二階外し」の動きが自民党内に広がることを阻止しようとしているわけだ(さらに深読みすると、二階氏と菅氏の関係は周囲が思うほど円滑ではなく、二階氏はそれを覆い隠すために親密ぶりをアピールする必要に迫られた可能性もある。このあたりの自民党内権力闘争は稿をあらためて詳しく解説しよう)。

もうひとつの思惑は、野党共闘を揺さぶることだ。与党が「不信任案を提出したら衆院解散」とケンカを打っているのに対し立憲民主党の枝野幸男代表が提出を見送れば、野党共闘内部から「枝野代表は弱腰だ」と批判が出るだろう。一方、枝野氏が早めの提出を決断すれば、与党は粛々とこれを否決し、その後の国会は盛り上がりを欠いて単調に進む可能性がある。この場合も野党共闘内から「不信任案の提出が早すぎた」と批判が出るかもしれない。いずれにしろ、野党共闘の足並みの乱れを誘う「種」をまく政略というわけだ。

もっとも、この二つ目の思惑は「おまけ」にすぎず、二階氏のいちばんの狙いは「自民党内での求心力の維持」にあったと考えて間違いない。このように、国会対策をめぐる政治家の発言は往々にして党内権力闘争を真の目的としているのに、新聞記事は表面的な「与野党対決」の構図でしか報じないので、ほんとうの思惑が伝わってこないのだ。

一方の枝野氏はどうか。二階氏と同じである。枝野氏も野党内での求心力維持を最優先にして不信任案の扱いを考えている。

野党の議席が圧倒的に少ない中で内閣不信任案を提出しても可決される見込みはない。ましてコロナの感染拡大がおさまらないなかで菅首相が「不信任案を大義名分に衆院解散に踏み切る」ことなどあり得ないと枝野氏も思っている。とりわけ合理主義者の枝野氏はハナから不信任案を「与野党激突をアピールする国会会期末のセレモニー」としか考えていないだろう。

そうした立場からすれば、「不信任案をいつ出すか」という野党内の議論にエネルギーを割くのは阿保らしくなる。いっそのこと、「国会会期末の提出」を腹の中で想定しながら、会期末が近づくまでは「提出しない」という姿勢を発信して提出時期をめぐる野党内の議論を封印しておくほうが、足並みの乱れを抑え込める。枝野氏は最初から「国会会期末に提出する」つもりでいたと私は思っている。

だが、枝野氏が不信任案を「提出できない」と明言してきたのは、得策ではなかった。野党の選挙準備が整っておらず、「枝野氏は早期解散を避けている。弱腰だ」との憶測を広げてしまったからだ。不信任案の提出時期に一喜一憂する永田町の「玄人」たちは枝野氏の不信任案への姿勢をみながらあれこれ憶測を撒き散らすものなのだ。

実はこうした「永田町の雑談」は馬鹿にできない。ここで「枝野氏は弱腰だ」という印象ができあがると、それはさまざまなメディアを通じて世の中に拡散し、枝野幸男という政治家像を作り上げてしまうのである。自民党はこのような印象操作が実にうまい。論理的で聡明な枝野氏の苦手分野といえるだろう。どんなに阿呆らしくても「二階幹事長のケンカを受けて立つ。内閣不信任案は最高のタイミングで提出する」と応じる猿芝居を演じてきたほうがよかったのではないかと私は思う。

さいごに、内閣不信任案と衆院解散の関係について、本質的なことを述べたい。

私は政治記者として「野党は不信任案を提出して衆院解散に追い込むべきだ」という発言を何度も聞いてきた。だが、与野党の議席が伯仲していて与党から造反の可能性がある政治情勢ならまだしも、与野党の議席が開いている時に不信任案を提出しても衆院解散に追い込むことなどできない。

憲法上の学説は割れるものの、現実政治の世界では、首相が自分の都合の良い衆院解散のタイミングを選べる。首相が不利な時にあえて衆院解散に踏み切ることなどめったにないのだ(2012年民主党政権最後の首相はなぜかそうしてしまったのだが)。与党は任期満了までの4年のあいだに最も勝てそうなタイミングをひとつ選んで衆院解散に踏み切ればよいのである。そこで過半数を維持すれば、政権を継続できるのだ。

つまり、首相が解散権を握る今の政治の仕組みは与党に圧倒的有利なのである。野党は衆院任期の4年間、一瞬でも気を抜くとそのタイミングで衆院解散を仕掛けられ、大敗してしまう。前回2017年衆院選がそうだった。民進党の前原誠司代表は山尾志桜里衆院議員を幹事長に大抜擢して支持率獲得を目指したが、その山尾氏のスキャンダルで転び、世の中の批判を浴びて窮地に立ったところで衆院解散を仕掛けられたのである。前原氏は慌てて小池百合子・東京都知事の希望の党への合流を決断したが、これは大失敗に終わり、野党は自滅したのであった。

こう考えると、野党にとって最重要なのは「4年間、与党に衆院解散を仕掛けられないようにすること」である。野党の基本戦略は「解散に追い込む」ことではなく「首相に解散の好機を与えず任期満了に追い込む」ことなのだ。これは結構大変だ。野党はつねに与党より勢いを維持していなければならないのだから。

この「任期満了に追い込む」ことに成功したのが、2009年総選挙だった。民主党は2005年秋の総選挙(郵政選挙)で大敗したものの、2007年夏の参院選で圧勝し、そのあと自民党よりも勢いのある状況をずっと保ち、自民党に衆院解散のタイミングを与えなかった。そして事実上の任期満了となった2009年夏の総選挙で圧勝し、政権を奪取したのだった。

さて、今回の総選挙。野党陣営は2017年秋の総選挙から4年間、実にフラフラ迷走した。安倍首相や菅首相がいつ解散総選挙を断行しても、おそらく野党は勝てなかっただろう。にもかかわらず、結果として与党は衆院解散に踏み切らなかった。日本社会はコロナ禍に襲われ、今回の総選挙は「事実上の任期満了選挙」となる気配だ。枝野氏は「コロナ」の力を借りて「任期満了に追い込む」ことに成功したのである。

枝野氏はツイている。この「幸運」を政権奪取につなげられるか。枝野氏の真価が問われるのはここから先だ。


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