兵庫県議会の全会一致で不信任決議案を可決されていた斎藤元彦知事が県議会を解散せず、失職した。すでに出直し県知事選に出馬する意向を表明している。パワハラなどさまざまな疑惑を追及され、至らない面があったことを認めながらも、ハコモノ行政の見直しなど行財政改革に取り組んできた実績を強調し、出直し知事選で県民の信を問いたいという考えだ。知事選は10月31日告示、11月17日投開票だ。
県議会に全会一致で不信任されたのだから、県議会を解散して県民の信を問うのが筋である。とはいえ、現実には斎藤知事が各地の選挙区に知事派を擁立して過半数を阻止し、新しい県議会で不信任決議が再可決されるのを防ぐことが必要になる。そうなれば県議会の不信任決議可決は県民に支持されず、斎藤知事が支持されたということになる。
だが、すべての政党に見放された斎藤知事が、今から知事派の候補者を集めて大量擁立するのは、相当にハードルが高い。
斉藤知事はもともと総務省のキャリア官僚で、選挙地盤を持つ政治家ではなかった。3年前の知事選で自民党や維新に担がれて知事になった。にもかかわらず、自力で候補者を大量擁立するのは、資金面からも人脈からも政治的実力からしても到底無理だ。
だとすれば、知事を失職して出直し知事選に出馬し、県議会と斎藤知事のどちらが正しいのか、県民に信を問うというのはひとつの考え方であると私は思う。斉藤知事が知事選に勝利すれば、県民としては知事に軍配をあげたと政治的には判断してよいだろう。
現職知事が辞職して出直し選挙に出馬した場合は、当選しても任期は残余の期間(あと1年)になる。一方、不信任案可決を受けて県議会を10日以内に解散せず失職して出直し選挙に出馬した場合、当選すれば任期はまるまる4年だ。斎藤知事が失職を選んだことを問題視する向きもあるが、出直し知事選で勝利した以上、一年後に再び知事選を実施することを避けるためという理屈はそれなりに説得力があるのではないか。
問題は、出直し知事選に斎藤知事が勝てるのかどうかである。
もともと自民や維新に担がれ、丸抱えの選挙で当選した官僚出身の政治家だ。選挙に精通しているとは思えない。全政党の支援を受けず、はたして選挙戦が成り立つのか。資金面や人員面で体力があるのだろうか。
失職を表明する前の三連休、斎藤知事はテレビに相次いで出演し、知事としての実績をアピールした。このようなメディア戦略だけで支持を広げるねらいなのだろう。
しかし、現時点で斎藤知事への逆風は猛烈だ。知事の改革姿勢に県議会が反発して不信任案を可決したのならまだ勝ち目はある。しかし知事のスキャンダルに対する世論の批判の高まりを受けて、知事を担いだ自民や維新も不信任案に乗るほかなくなった経緯からすれば、知事が県民の支持を引き戻して知事選に勝利する道は相当に険しい。
もちろん与野党がほぼ同時並行で進む解散総選挙で激突する以上、知事選で足並みが乱れ、候補者が乱立して、斎藤知事が相対的に有利になるという可能性はなくはない。それでも斎藤知事への現在の逆風を考えるとやはり当選確率は相当に低いのではなかろうか。ここまで引っ張りながら、告示直前に勝算はないとみて出馬断念に転じる可能性もあるだろう。
いずれにしてもお騒がせ知事である。政治論としては十分にあり得る出直し選挙だが、リアリズムの世界では本当に選挙を戦い抜けるのかという疑念が拭えない。再選戦略を描けないまま、単に知事を続けたいというだけで出直し選への出馬を表明したのなら、現職知事として無責任である。今後に注目したい。