兵庫県議会に全会一致で不信任決議案を可決された斎藤元彦前知事の失職に伴う兵庫県知事選(9月17日投開票)の行方が混沌としてきた。読売新聞や共同通信の情勢調査では、元尼崎市長の稲村和美氏がわずかにリードし、斎藤氏が激しく追う展開だという。
パワハラ疑惑やおねだり疑惑で猛烈な批判を浴びて失職に追い込まれた斎藤氏が、反転攻勢に出て勢いづく異例の展開をたどっており、逆転する可能性が十分にある。
斎藤氏が再選すれば、全会一致で不信任を決議した県議会の政治判断が県民の民意に否定されたことになる。とくに自公与党は斎藤氏を不信任したのに、対抗馬を立てられず、自主投票となった。あまりに無責任な対応に県議会への批判が高まるだろう。
兵庫県知事選は前代未聞の展開になってきた。
マスコミの情勢調査では稲村氏が一歩リードしている。もともとはリベラル派の市長として知られた。立憲民主党の一部が支持し、自民党の一部も支援に回っている。
共同通信の情勢調査によると、自民の4割弱は支持。これは何としても斎藤氏の再選は阻止したいということだろう。公明の6割弱も支持している。
立憲は6割超が支持。唯一の女性候補であり、リベラル派ということもあって、立憲支持層は稲村氏に流れているようだ。
無党派は5割弱にとどまっている。トレンド調査によると、「無党派層へ支持が広がっているという機運は乏しく、むしろ斎藤氏に追い上げられている様相だ。
斎藤氏は当初こそ世論の猛烈な批判を浴びて大逆風を浴びたが、圧倒的な知名度に加え、「改革派の斎藤氏が既得権を握る県議会や県庁にはめられた」との見方がネットを中心に広がり、ここにきて猛烈に追い上げている。各地の演説会場には支持者が押し寄せ、熱気に満ち溢れている状況だ。
5期20年勤めた井戸敏三前知事が引退した前回知事選(2021年)は、井戸氏の後継者にあたる元副知事を自民県議団の主流派が支持。これに対し、自民県議団の非主流派が総務省から大阪府財政課長に出向していた神戸市出身の斎藤氏を擁立し、維新がこれに乗った。
当時の菅義偉首相は維新との関係を重視し、斎藤氏の推薦を決定。自民党兵庫県連の大物である西村康稔元経産相も菅氏の意向を踏まえ、斎藤氏支持に回った。「保守分裂」の知事選は斎藤氏が86万票を獲得して圧勝した経緯がある。
斎藤氏は井戸前知事が進めた県庁舎新築などを大幅に見直し、県議会や県庁が反発していた。パワハラ疑惑やおねだり疑惑がマスコミに次々にリークされた背景には、斎藤氏を追い落とすことを狙う既得権側の抵抗があったという見方が広がっている。
菅氏が退陣して影響力が低下し、西村氏が裏金事件で失脚し、維新が大阪万博への批判で失速したことが、斎藤氏の政治基盤の低下につながり、県議会の全会一致の不信任案可決に発展したともいえる。
今回の知事選も自民党は分裂し、共同通信の情勢調査では自民の4割強が斎藤氏を支持している。一部の自民党県議が不信任案を可決しながら知事選では支持に回るという支離滅裂な言動に出た背景には、以上のような経緯がある。公明の3割弱も支持だ。
注目すべきは、国会で主役に躍り出た国民民主党の4割超が斎藤支持に回っていることだ。無党派も3割弱が斎藤支持である。パワハラ疑惑の大逆風を受けて失職した割には、無党派の支持が急速に戻ってきているといっていい。かなり情勢は急変しており、これから無党派の支持がさらに広がって逆転する気配が漂っている。
維新を離党して出馬した前参院議員の清水貴之氏は、マスコミ情勢調査では伸び悩んでいる。維新も2割どまりだ。維新の4割強は斎藤支持だという。今後、維新支持層は清水氏をあきらめ、斎藤氏へさらに流れる可能性が十分にあるだろう。
総選挙で立憲民主党は小選挙区を中心に裏金自民批判を集めて50議席を増やしたものの、比例代表では大惨敗した前回総選挙から7万票しか増えなかった。世論は自民からも立憲からも離れており、総選挙で躍進したのは国民民主党とれいわ新選組だった。自公与党が過半数割れしたものの、立憲中心の野党連立政権をつくる機運はまったく高まらず、むしろ立憲は国会で孤立感を深めている。
リベラル勢力に対する抵抗感も広がっており、7月の東京都知事選で蓮舫氏が惨敗したことに代表されるように女性候補への反発もじわりと広がっている、米大統領選で女性初の大統領を目指したハリス氏が敗北したのと同じように、唯一の女性候補である稲村氏は最終盤で伸び悩んでいることからも、斎藤氏に追い風が吹いているとの見方も少なくない。
斎藤氏が逆転勝利して知事に復帰すれば、全会一致で不信任案を可決した県議会の意思が県民の民意に否定されたことになる。前代未聞の事態といっていい。県議会やマスコミに対する有権者の根深い不信感が、斎藤氏の想定外の大健闘を呼び起こしたといえるのではないか。
兵庫県知事選の行方は大注目である。