兵庫県知事に返り咲いた斎藤元彦知事に公職選挙法違反の疑惑が浮上している。PR会社の折田楓氏が「広報全般を任され、SNS運用をやった」と自らのブログに投稿したからだ。これは選挙運動そのもので、有償で行っていたら、公職選挙法が禁じる運動員買収になる。まさに自爆だ。
折田氏は「東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手がけた」ことをアピールしていた。斎藤知事の勝利に自らの会社が大きく貢献したことを誇示したかったのだろう。
アンチ斎藤派は当選が無効になると勢いづき、兵庫県警が捜査に動くかどうかに注目が集まっている。
斎藤知事は選挙戦序盤、四面楚歌で孤立していた。折田氏くらいしか頼る人がいなかったのか。
ネット上では「斎藤知事は詰んでいる」との見方が広がっているが、はたして警察は動くのか。
そして斎藤知事はどうなっていくのか。今後の展開を予測してみよう。
公職選挙法は運動員買収を一部の例外を除いて禁じている。主体的にSNSなどの広報戦略を企画立案するのは完全な選挙運動で、一発アウトだ。
斎藤知事が折田氏らとともに企画会議に参加していたことも折田氏はブログで写真付で紹介した。折田氏が選挙カーに乗ったり、選挙演説をスマホで撮影したりしていた動画も出回っており、選挙運動に深くかかわっていたのは間違いない。
斎藤知事はPR会社に報酬として70万円を支払っていたことは認めている。ただし、企画立案は依頼しておらず、あくまでも法律に認められたポスター制作などの業務の対価としている。「折田さんが勝手にボランティアとしてSNS戦略を展開しただけだ」という立場だ。
現実の選挙では多くの政治家が選挙コンサルから助言を受け、報酬を支払っている。SNS戦略を任せるケースもある。しかし、契約期間を選挙がはじまる前までにしたり、報酬の名目はポスター制作など法律上認められたものにして実際はそれに上乗せ支給したりして、公選法の規制をすり抜けているのが実態だ。
そもそも金持ちが有利になることを防ぐため選挙運動に制限をかけている公選法自体が抜け穴だらけといえる。
自ら「広報全般を任されていた」と暴露してしまった折田氏は、選挙の素人だったというほかない。
斎藤知事は選挙序盤、四面楚歌だった。素人の折田氏にしか頼る人がいないほど、孤立していたということだろう。
斎藤知事は報酬70万円について「ポスター制作など法律で認められたものの対価」とし、折田氏がSNS戦略を担ったことは「ボランティアだった」と説明している。
私は実はこちらのほうが問題だと思っている。
対価をもらうべき仕事を無償で行うと、寄付行為となる。広報戦略全般を担うことは、相当な業務量であり、無数で行えば寄付行為とみなされるだろう。
折田氏は県の有識者委員を務めていた。公選法は県と契約を結んでいる当事者が選挙で寄付をすることも禁じている。有識者委員のポストを得ることと引き換えに無償で広報戦略を担ったとすれば、公選法違反ばかりか贈収賄の可能性さえ浮かんでくる。
仮に法律に抵触しなくても、県の有識者委員を務めた人に県知事が広報戦略の企画立案という選挙対策の中枢を無償で行わせたとすれば、有識者委員起用の見返りとの疑念を招くのは確実だ。斎藤氏は少なくとも政治的責任を免れない。
折田氏の広報戦略は、ハッシュタグ「斎藤元知事がんばれ」をつくるなど、それほど斬新なものではなかった。別に折田氏でなくてもできる程度の内容で、折田氏の広報戦略が斎藤知事を大逆転させたとは思えない。
実は選挙中のネット検索数は「斎藤元彦」より「立花孝志」がはるかに上回っている。報道やネットでも「立花さんの動画で関心をもった」という声が非常に目立った。
SNS戦略を中心は折田氏ではなく、勝手に斎藤知事を援護射撃した立花氏だったといえるだろう。
斎藤知事は、大逆転の立役者ではない折田氏に足元をすくわれたことになる。皮肉としかいいようがない。
それでは、警察は公選法違反容疑で捜査に動くのか。
外形的には運動員買収の構図は明確で、警察が本気で強制捜査すれば、立件することはそれほど難しくない。問題は、警察が動くかどうかだ。
忘れてはならないのは、警察は正義の味方ではなく、警察そのものが権力であり、さらに時の権力の味方であることだ。
熱狂的な支持で当選した斎藤知事を逮捕したり、当選無効となる事件を立件したりすることには躊躇があるだろう。警察もまた世論に敏感である。大逆転勝利に興奮した有権者らの怒りを買うことは避けたい。一方で、捜査を見送れば、これまた猛烈な批判浴びるだろう。
警察が意向をうかがうのは、時の権力だ。いまは自公政権である。世論の大逆風を浴びても警察人事を握る自公政権の後ろ盾があれば、少なくとも警察幹部たちは安泰だからだ。
そうなると、自公政権が斎藤知事をいかすか切るか、どちらに傾くかが重要になる。斎藤知事が、大阪維新の会や来夏の東京都議選で地域政党旗揚げを表明した石丸伸二氏らと「地域政党連合」をつくる動きが出てくれば、自公政権にとっては脅威だ。そのまえに斎藤知事を切り捨てておく(つまり警察捜査の背中を押す)可能性は十分にある。
一方、斎藤知事の当選が無効になって再び兵庫県知事選が行われ、反自公の知事が誕生することは避けたい。例えば、今回の知事選は出馬を見送った泉房穂・前明石市長らが名乗りをあげれば反自公の兵庫県政が誕生し、来夏の参院選で関西圏を中心に大逆風を浴びる恐れがある。それならば斎藤氏をいかしておいたほうがよい。
さて、自公政権はどちらの判断に傾くか。そして警察は動くのか。今後の動きに注目したい。