中国から日本への団体旅行が解禁され、中国人旅行客によるコロナ前の「爆買い」復活への期待が、観光業界を中心に経済界で高まっている。加速する円安の影響で「爆買い」は以前に増して過熱しそうだ。
中国をはじめとする海外旅行客の「外貨」で国内経済が潤うのは、経済界にとっては望ましいことだが、裏を返せば、日本の経済力が落ちて通過(円)の力が弱まり、日本が「買われる国」になったことを象徴しているといえるだろう。
一方で、ガソリン価格は減産・円安・補助金打ち切りの影響で急騰し、近く過去最高の185円を突破して年内には200円台に乗るとの見方も広がっている。穀物価格も上昇が止まらない見通しだ。
エネルギーや食糧を輸入に依存してきた日本にとって、通過(円)の下落は、国民生活を危機に直面させる重大問題だ。経済界がインバウンド需要に期待を高める一方、国民生活は苦しくなるばかり。それなのに、政治は経済界の顔色ばかりみて、外貨で賑わうインバウンド業界のテコ入れに躍起なのだ。
それを印象するような話題があった。
自民党の森まさこ参院議員がX(旧ツイッター)に、ブライダル業界への補助金事業である「ブライダル補助金」について、経産省サービス産業課から「第一次、第二次公募の結果について報告を受け、夏の概算要求に向けた対応も説明を受けました。これを受けて秋に議連を開いて議論して参りたいと思います」と投稿。「ウエディング業界に税金がジャブジャブ流れていく」「全く少子化対策になってない」などと炎上したのだ(smart FLASH参照)。さらに森氏がブライダル大手から補助金を受けていたとも報じられ、炎上に拍車がかかっている。
この問題は当初、トンチンカンな「異次元の少子化対策」としての受け止めが広がったが、結婚式費用が補助されるからといって結婚に踏み切るカップルが増えるわけがないことは森氏とて理解していることだろう。むしろブライダル補助金の実態は「インバウンド利権」と考えたほうがよい。
経産省は、昨年度の第2次補正予算案にブライダル事業者の支援策として12億円を計上。少子化に伴う結婚式場の利用の減少を受けて、日本で結婚式を挙げる海外旅行客を引き込む政策を進めているのだ。
ブライダル業界は少子化が進む国内需要を早々に見切り、インバウンド需要の開拓に活路を見出しており、自民党や経産省もそれを後押ししている構図が浮かぶ。「少子化対策」どころか「少子化を容認したうえでのブライダル業界の救済策」というほうが実態に即しているのではないか。
この夏、花火大会やお祭りの「有料席」の是非が大きな関心を集めた。「観光立国」の国策に沿って、地元住民よりも海外旅行客の呼び込みを優先し、各自治体が「地元の夏の風物詩」を「観光ビジネスの切り札」に変質させる事例が相次いでいる。
政治家がガソリンや穀物の高騰に直面する国民生活の危機に目をつぶり、活性化するインバンド業界ばかりに目を向けるのは、目を覆いたくなる現状だ。日本の製造業が衰え、もはや観光で外貨を稼ぐしかなくなった現実を映し出しているともいえる。
一連の「インバウンド重視」は、国民生活よりも業界優先を続けてきた自民党政治の行き着く先であるように私には思える。
右肩上がりの時代はそれでも業界を通じて国民に富が再分配されてきたが、人口減時代に突入して縮小するばかりのパイを経済界に優先的に配っているのが今の自民党政治である。これでは国民生活は崩壊してしまう。
業界よりも国民生活を優先する政治へ、業界に補助金をばら撒くのではなく国民に現金を直接給付する政策へ、早く転換しなければ大変なことになる。
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