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バッハ会長と菅首相に「失敗」の文字はない〜東京五輪スポンサーの新聞が上っ面しか報じないトップ会談の中身を読み解く

横柄な態度で評判を落とすばかりのバッハIOC会長と、内閣支持率が低迷し続ける菅義偉首相が7月14日に首相官邸で会談した。国民の怒りが噴出しかねないこのトップ会談を東京五輪スポンサーである大手新聞は淡々と報じるのみだった。

日経新聞記事をもとにこの会談を振り返ってみよう。淡々と報じるだけでは物足りないツッコミどころ満載の会談である。

最初に紹介されているのは、菅首相の言葉だ。

安全・安心な大会にしたい。一致協力して成功に導いていきたい。

のっけから「安全・安心な大会にしたい」と言わなければならないところに防戦一方の菅首相の苦境がにじむ。その上で「成功に導いていきたい」と言うのだが、何を持って「成功」とするのか、基準を示さないのはお決まりのパターンだ。

日本社会にコロナ感染が急拡大しようが、来日した五輪関係者の言動に批判が高まろうが、開会式が開かれ閉会式が終われば「成功した!」と自画自賛するのはミエミエである。

国民の大反対を振り切って東京五輪を強行開催する以上、「感染者が○○人を超えたら首相としての政治責任は免れない」と進退をかけて約束するのが為政者として誠実な態度だろう。それでこそ「安全・安心な大会にしたい」という言葉に説得力が出てくるというものだ。

菅首相の言葉は続く。

世界が新型コロナウイルスの困難に直面する今だからこそ、難局を乗り越える大会を日本から世界に発信したい。

これも「成功」と同じである。何を持って「難局を乗り越えた」ことになるのか。開会式が開かれ閉会式が終われば「難局を乗り越えた」ことになるのか。まったくもって意味不明である。

これに対するバッハ会長の返答がまたすごい。

困難な道のり、旅路ではあったが、歴史的な大会になる。

いやはや、彼の言葉がすでに「過去形」になっているのは驚いた。五輪開催反対論が渦巻く日本列島に上陸した時点で、このIOCのキングメーカーにとっては「困難な道のり、旅路」は成功裏に終わっているのである。だからこそ「歴史的な大会になる」と断言しているのだ。

菅首相同様、日本社会にどんなに感染が拡大してもバッハ会長には「失敗」の文字はないのである。「余の辞書に不可能という文字はない」と豪語したナポレオンの気分なのだろう。

菅首相はバッハ会長に対し、さすがに感染対策の徹底を求めている。

すべての関係者が適切な行動をとることが成功に不可欠だ。

この言い回しもずるい。「適切な行動をとることが成功に不可欠だ」という言葉からは、強行開催して感染が拡大した場合の責任を「適切な行動をとらなかった五輪関係者」に転嫁しようという魂胆が透けて見える。

これに対するバッハ会長の返答が菅首相のはるかに上をいっている。

新型コロナのリスクを持ち込むことは絶対にない。非常に厳しい対策が要求され機能している。

この発言には怒りを超えて呆れるほかない。「新型コロナのリスクを持ち込むことは絶対にない」と断言しているのである。すでに来日した五輪関係者から感染者が見つかっているにも関わらず「リスクゼロ」という理論的にあり得ないことを宣言するのは、「これから日本社会でどんなに感染拡大が起きても、それは五輪関係者がコロナウイルスを持ち込んだことが原因ではないと言い張るぞ」と、菅首相に今から釘を刺しているのである。

バッハ会長にここまで言われて菅首相はどう答えたのか、日経新聞の記事には記されていない。おそらく頬をゆるめながら黙って聞いていたのだろう。

このバッハ・菅会談の政治的意味は、バッハ会長が東京五輪開催で日本社会にコロナ感染が拡大してもそれは五輪のせいではないと一方的に宣言したことにある。新聞は本来、そう報道しなければならない。それが「権力を監視する政治記事」というものだ。

けれども、東京五輪スポンサーとして五輪盛り上げ報道にいそしむ大手新聞に、内実をえぐり出す政治解説は期待できそうにない。彼らはバッハ・菅会談を淡々と報じるだけだった。そのような上っ面の報道を「客観中立報道」と呼んで自己肯定しているのである。かくして東京五輪の実像は多くの国民に伝わらないのだ。