自民党の石破茂元幹事長が久しぶりに注目を集めている。マスコミ各社の世論調査で「次の首相」の先頭を走ってきた河野太郎デジタル担当相がマイナンバーカードをめぐるトラブル続出で失速し、石破氏が一部調査でトップに返り咲いた。岸田文雄首相とも久しぶりに会食したことから、8〜9月に予定される内閣改造で閣僚に復帰するとの観測も流れ始めている。
石破氏は2012年の自民党総裁選の第一回投票で安倍晋三氏を上回る首位だった。決選投票で安倍氏に逆転されたものの、安倍政権当初は幹事長に就任し「ポスト安倍」の一番手につけていた。世論調査でも「次の首相」のトップを独走していた。
安倍氏は石破氏を脅威とみて徐々に干し上げ、2016年夏には無役に追い込んだ。石破氏は18年総裁選で3選を目指す安倍氏との一騎打ちに惨敗し、安倍氏の退陣にともなう20年総裁選では菅義偉氏、岸田文雄氏に続く最下位に転落した。21年総裁選には出馬することもできず、河野氏支援に回った。石破派は事実上解散し、自民党内における石破氏の影響力は大きく陰っていた。
それでも世論調査の「次の首相」では河野氏に続く2番手や3番手を維持し、根強い人気を保ってきた。石破氏の国民的な知名度の高さは決して侮れない。
内閣支持率が続落し、菅氏や二階俊博元幹事長ら非主流派から揺さぶられ、麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長との間にもすきま風が吹く岸田首相にとって、「自民党内ではひとりぼっちだけれども、知名度は抜群で、国民人気も根強い石破氏」の存在は、政権立て直しへの切り札と映っているのかもしれない。
岸田首相は8月4日に記者会見し、マイナンバーカードをめぐる混乱について国民に謝罪した。この夜、石破氏と会食したことが「近く行われる内閣改造・自民党役員人事について協議したのではないか」と永田町に波紋を広げた。
石破氏は会食後、「久しぶりに会って楽しかったね」「(岸田首相とは)長い付き合いだから」と記者団を煙に巻き、「(内閣改造の話は)していない」と短く答えて立ち去った。
岸田首相は9月中旬を軸に内閣改造・党役員人事を検討してきたが、最側近である木原誠二官房副長官が週刊文春が報じた疑惑(木原氏の妻が元夫の不審死事件で重要参考人として警視庁に事情聴取されながら、木原氏の妻であるという理由で捜査が不自然に打ちきれれた疑惑)で立ち往生し、河野大臣が主導するマイナンバー問題も迷走を重ねていることから、8月中に人事を前倒しして政権立て直しを急ぐ案も浮上している。
その目玉人事として石破氏を重要閣僚に抜擢し、内閣支持率の回復を狙うのではないかという憶測が広がっている。
JNNが8月5、6日に実施した世論調査では「次の首相」のトップに石破氏(16%)が河野氏を僅差で抑えトップに返り咲いた。党内基盤が弱体化した石破氏を「復活」させても、岸田首相にとってはそれほどの脅威にはならない。逆にポスト岸田を狙う茂木幹事長や河野大臣に対する強烈な牽制となる。
ポスト岸田争いを混迷させることで政権延命を図るのが岸田首相の基本戦略だ。石破氏はその戦略にピッタリ当てはまる存在といっていい。
茂木派の次世代ホープである小渕優子元経産相の抜擢と並んで、石破氏の復活が内閣改造人事の大きな焦点となってきた。
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