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維新が来夏の参院選と同時に改憲発議を提唱する狙いとは? 麻生氏が牛耳る岸田政権と維新の利害は全く重ならない

衆院選で自民党、立憲民主党に次ぐ第三党に躍進した日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)が来夏の参院選までに衆参両院で憲法改正案を発議し、参院選と同時に国民投票を実施すべきだとの考えを示した。

自公与党だけでは改憲発議に必要な「衆参両院の3分の2」に達しないため、改憲発議を政治テーマに押し出すことで、維新の存在感を高める狙いがあるとみられる。

裏を返せば、自民党がマスコミ調査の予測を覆して過半数(233議席)を大きく上回る絶対安定多数の261議席に達したため、通常の政権運営なら自公与党で十分だということだ。維新としてはせっかく躍進したのだから、国会での見せ場をつくるためには、改憲論議を動かすことが得策と判断したのだろう。

しかし、岸田政権が改憲論議を動かす可能性は極めて低いと私はみている。以下、その理由を説明しよう。

岸田首相は安倍晋三氏と麻生太郎氏の操り人形であることはもはや衆目の一致するところだが、そのなかでも岸田氏が完全服従しているのは麻生氏である。

麻生氏は麻生派(志公会)が岸田派(宏池会)を吸収合併するかたちでの「大宏池会」構想を目指しており、それと引き換えに岸田氏を首相に押し立てることに全力を尽くしてきた。岸田氏は宏池会前会長の古賀誠氏と縁を切れという麻生氏の要求を受け入れ、古賀氏を名誉会長から外してまで麻生氏に追従しており、もはや「麻生頼み」で突き進むしかない。

その麻生氏は最大の政敵である菅義偉氏と、菅氏が総裁選に担いだ麻生派ホープの河野太郎氏を封じ込めることに全力をあげている。総裁選で河野氏を敗北に追い込んだ後、麻生氏は菅氏や河野氏を徹底的に干す人事にこだわった。

その菅氏は橋下徹氏を大阪府知事に担いで以降、維新の松井氏とはツーカーの関係なのだ。安倍政権以降の自民党と維新の交渉窓口は「菅ー松井ライン」に特化されていた。しかも菅氏も河野氏も新自由主義を掲げる維新とは政策的にも極めて近い。

改憲論議を動かして自公与党と維新の間の政党間協議が重視され、維新の存在感が増せば、自民党内で菅氏の発言力が急回復する恐れがある。麻生氏にとっては絶対避けたい展開だ。改憲論議さえ封じ込めば、維新にも菅氏にも出番はない。

安倍氏は改憲論議が動くのは悪い気はしないが、菅氏の復権は避けたいところ。菅氏とタッグを組んで麻生氏に改憲論議を動かすように迫ることはないだろう。

一方、維新も岸田政権が改憲論議に乗ってこないのは織り込み済みだろう。

先日の立憲民主党の小川淳也氏に関する記事でも指摘したが、維新が最優先に目指しているのは、自公の連立政権に加わることでもなく、野党共闘に加わることでもない。自民党より先にまずは立憲民主党を弱体化させて解党に追い込み、野党第一党の座を奪取して、自民党と維新の二大政党政治を実現することだ。

その意味では、来年の参院選にむけて改憲論議以外では「麻生傀儡」の岸田政権と徹底的に対決し、改憲は協力する姿勢を示しながらも「自民党がのってこなかった」と批判し、参院選で自民批判票を掘り起こす狙いとみられる。「自民vs維新」の対決姿勢を強め、野党第一党の立憲民主党を埋没させ、さらに弱体化させる戦略である。

さらに松井氏には改憲論議で維新の存在感を増すことによって、盟友である菅氏の自民党内での復権をサポートする意図もあるだろう。麻生氏が牛耳る自民党とは激突し、菅氏が牛耳る自民党とは融和するというのが、松井氏の基本スタンスである。

維新の「改憲発議」提案に敏感に反応したのが、今回の衆院選で野党共闘とは一線を画し、自公与党と是々非々で向き合う姿勢を掲げて議席を伸ばした国民民主党だ。

玉木雄一郎代表は7日のテレビ番組で、維新と国会運営で連携し、改憲論議を推進していく考えを表明。同じ番組に出演した維新の吉村洋文副代表(大阪府知事)もこれに同調し、維新ー国民民主の連携機運が一気に盛り上がった。

もっとも国民民主は連合の影響力を強く受けており、新自由主義を掲げる維新とは経済政策や労働政策で折り合えない部分が少なくない。国会運営での連携は「自公与党」でも「立憲民主や共産など野党共闘」でもない「第三極」として手を結ぶという極めて政局的立ち振る舞いだ。そのための大義名分として改憲論議を掲げているとみられる。

ただ、国民民主党は連合の組織内候補が多い参院と、個人の力で当選した議員が多い衆院で温度差がある。将来的には維新との合流を志向するメンバーと、連合と歩調をあわせるメンバーに分裂していく可能性もあるだろう。

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