政治を斬る!

泉房穂氏「次の衆院選で救民内閣」構想は、自公政権に対抗して「野党再編」を自ら仕掛けるという宣言だ〜来春の「岸田電撃辞任→新内閣で解散総選挙」に備えて勝負時期を前倒し

子ども予算の倍増を訴え、東京都立川市長選や埼玉県所沢市長選など各地の選挙で自公と対決する新人を応援して勝ち続けていることで注目されている泉房穂・前明石市長が東京新聞のインタビューで、次の衆院選で自公政権に代わる「救民内閣」構想を練り始めていると語った。

泉氏は物価高などで国民生活は持ち堪えられなくなっていると指摘。国民に負担増を求める政治から国民を救う政治に転換するには、自らの地方選での勢いを次の衆院選につなげ、政権交代を実現するしかないと強調した。

ポイントは以下の発言だ。

「岸田文雄首相は首相をやりたかっただけで、国民に対する愛も、国家に対する責任感もない。『異次元の少子化対策』と言いながら、財源も確保せず、国民の負担だけを増している。そんな人が長期政権を敷いているのが今の日本の不幸。国民は疲弊しているのに、毅然と反論する与党議員もいなければ、野党も体たらくで、国民には選択肢がない。仮に岸田首相が退いても、国民の生活不安は変わるはずはなく、劇的な方針転換を求めている」

「これまでのような右や左の対決ではなく、『国民の味方』対『国民の敵』の戦い方に持ち込む。2005年の郵政選挙で自民党が大勝した時、4年後に民主党政権が誕生するのは誰も想像しなかった。私は救民内閣創設を訴え、政治の流れを一瞬で変える。1回の衆院選で政権は取れる」

「既存政党とは別の新党を立ち上げるというよりも、全ての既存政党を壊すイメージ。衆院選は小選挙区制だから、今はいずれの政党の議員であったとしても、『国民の味方』が勝てると思えば、こっちに流れてくる。国民の負担増を許さない勢力を一つにまとめるのか、連合軍で戦って勝つのかは、いずれでも良い」

「自分が国会議員の1人になるかどうかに意味はない。政治映画を製作するイメージで言えば、主演を務めるのではなく、シナリオを書いてキャスティングもした上で、総監督として、政治の夜明けを国民に届けたい」

岸田内閣の支持率は続落し、自民党にも逆風が吹きつける一方、野党はバラバラで、政権交代の機運は高まっていない。

立憲民主党の支持率は低迷し、泉健太代表は次の衆院選での政権交代をあきらめる旨を発言をする始末だ。

日本維新の会は打倒・自民よりも打倒・立憲を優先し、野党第一党の奪取を目標に掲げている。岸田内閣が提出した補正予算案にも大阪万博の関連経費750億円が含まれていることを理由として賛成し、自公政権と対決する姿勢は見えてこない。

国民民主党も補正予算案に賛成した。ガソリン税の上乗せ部分を撤廃するトリガー条項の凍結解除について、岸田首相が与党と国民民主党で検討する考えを表明したことを理由としているが、2022年当初予算に賛成した際も岸田首相がトリガー条項の凍結解除の検討を表明したことを理由としていた。結局、岸田首相にハシゴを外されたのだが、今回もまた同じ道をたどっているようにみえる。

岸田内閣はボロボロなのに、野党はバラバラで、自公政権を倒す意思も覚悟もない。このまま衆院選に突入しても政権交代にはつながりそうにない。

この膠着状況を打開するには、自公政権の「国民に負担増を迫る政治」に対抗して「国民を救う政治」をめざす勢力が結集するしかないーーすなわち「野党再編」を自ら主導するというのが、泉氏の「救民内閣」宣言の趣旨である。

泉氏は私との共著『政治はケンカだ!明石市長の12年』(講談社)を出版した今年5月、すでに国政を転換させることに強い意欲を示していたが、「勝負は2025年夏の衆参同時選挙」とみていた。それまでに地方選で自公の対立候補を支援して勝利し、各地に勢力を拡大して野党再編を主導する意欲が感じられた。

実際に泉氏はその後の地方選で連戦連勝し、野党支持層には国政進出への期待が高まった。X (旧Twitter)のフォロワー数は急増して55万を超え、野党党首の立憲の泉健太代表(4万)、維新の馬場伸幸代表(4万) 国民の玉木雄一郎代表(35万)、共産党の志位和夫委員長(22万)を早々と超え、ついにれいわ新選組の山本太郎代表(52万)も追い抜いた。テレビやネットメディアにも引っ張りだこで、低迷する野党各党を横目に泉氏への期待は高まるばかりだ。

一方、岸田内閣の支持率は続落し、岸田首相は年内解散の見送りを表明。この後、自民党内では「岸田首相は来年秋の自民党総裁選まで衆院解散に踏み切れず、不出馬に追い込まれる」との見方が急速に広がり、自民党内の求心力は低下。高市早苗経済財政担当相が総裁選の推薦人確保を狙って勉強会を旗揚げするなど、ポスト岸田レースが事実上始まっている。

麻生太郎副総裁も岸田首相の総裁再選は困難と見て、麻生派・茂木派・岸田派の主流派体制を維持するためには来春に首相を電撃辞任させ、茂木敏充幹事長を緊急の総裁選に担いで勝利し、ただちに衆院解散を断行するシナリオを描いている。

つまり、次期衆院選は「25年夏」ではなく、早ければ「24年春」に前倒しになる可能性が強まってきた。泉氏もこのような政治情勢の急変を受けて、勝負所を前倒しし、今回の東京新聞のインタビューで「救国内閣」構想の一端を打ち上げたということであろう。

泉氏のもとへは複数の野党から連携を求める声がさまざまな形で持ち込まれている。しかし、維新や国民は自公へ接近し、立憲も野田佳彦元首相、枝野幸男前代表、岡田克也幹事長、安住淳国対委員長ら重鎮は財務省と濃密な関係にあり、泉氏の「救国内閣」に党を挙げて乗る可能性は小さい。

泉氏の「救国内閣」構想が実現するには、既存政党の枠を超えたところからの新規参入に加え、立憲・維新・国民の所属議員が「このままでは衆院選で勝ち残れない」と判断して党を飛び出し、泉氏のもとへ駆け寄り、衆院選に向けて新党結成の動きが出てくることも必要であろう。れいわ新選組や共産党との共闘も焦点となる。

ここで障害となるのが、イデオロギー的な左右対決の構図だ。

泉氏は「物価高で苦しむ国民を守る政治」を旗印に掲げている。これはイデオロギー的な左右対決ではなく、上級国民と庶民の経済格差の是正を最大の対立軸に据える「上下対決」を志向するものだ。

自民党は上下対決の構造を避けるため、つねに憲法改正や安全保障などの左右対決に持ち込もうとする。それをはねのけ、左右を超えた政治勢力を結集して上下対決に持ち込めるかどうかが、泉氏の「救民内閣」構想の成否を握るであろう。

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