自民党の「幽霊党員」問題が波紋を広げている。安倍派裏金議員で10月総選挙で衆院富山1区で当選した田畑裕明衆院議員が、大量の不適切な党員登録を認めた。
田畑氏によると、事務所が管理する党員701人のうち、不適切な党員登録が262人あった。本人に入党の意思を確認しないで勝手に党員登録した場合に加え、架空の名義で党員登録した場合もあったという。田畑氏は自身の関与を否定する一方、父親や親族が無断で党員登録して党費を支払っていたと説明している。
自民党は所属国会議員に党員獲得1000人のノルマを課している。これを達成できなければ、不足1人につき2000円をペナルティーがあるという。半分しかノルマを達成できなければ、100万円の罰金だ。
田畑氏の幽霊党員問題は、党員登録した覚えのない人に9月の自民党総裁選の投票用紙が次々に届いたことから発覚した。
安倍派裏金事件では、派閥が所属議員にパーティー券販売ノルマを課し、それを超えた分をキックバックして政治資金収支報告書に記載していなかった実態が発覚し、政治資金規正法(未記載)違反事件に発展した。
今回の幽霊党員問題も政治資金規正法(虚偽記載)にあたる可能性がある。田畑氏は党費を支払っていたのは父親や親族だとして収支報告書に不記載や虚偽記載はないとしているが、身内のなかのお金のやりとりのため、実態は不透明だ。
田畑氏は自民党の国会対策副委員長を辞任したが、それだけでは済まないだろう。
しかしこの問題は、単に田畑氏の個人的な疑惑にとどまらない。自民党の党員システムがきわめてずさんであることが露呈したからだ。
9月の総裁選では、党員投票で躍進した高市早苗氏と石破茂氏が、国会議員票では苦戦しながらも1位と2位で決選投票に進んだ。
しかし、資金力さえあれば幽霊党員が簡単につくれるのなら、外国勢力や宗教団体が組織的に架空の党員を登録して総裁選の大量の党員投票を行い、総裁選の行方を左右することも可能になる。
国政選挙で不正を行うのは相当に難しい。それよりも首相を事実上決める自民党総裁選に介入することで国家権力に近づくほうがはるかに簡単だ。
実際、米大統領選ではロシアの介入疑惑がたびたび指摘されてきた。日本でも同様のことが行われていないとは言い切れない。
自民党は田畑氏の個人的疑惑として片付けるのではなく、党員の実態についてしっかり自己検証すべきだ。ミサイルや戦闘機を購入するよりも、安全保障上よほど重大で緊急を要する問題である。