東京株式市場の日経平均株価が史上最高値を更新し、政界も財界も浮かれている。マスコミにも「日本経済が復活した!」「日本は危機を脱した!」と浮かれた論調が広がっている。はたして、本当だろうか。株価が上昇したのは、円安が急激に進んでいるから。つまり「日本が安く買い叩かれているだけ」ではないのか。
日経新聞は、2月22日の東京株式市場の日経平均株価の終値は3万9098円となり、バブル期の1989年12月29日の最高値(3万8915円)を超え、初めて3万9000万円台に乗せたと報じている。その理由を「企業の稼ぐ力の回復や脱デフレへの期待で海外マネーが流入した」と分析している。
この分析そのものが実態を見間違えていると私は考えている。以下、理由を述べよう。
①確かに日本の株価はバブル崩壊目前の1989年の水準に約30年ぶりに戻った。しかし世界の株価はこの30年間にはるかに上昇している。日本は30年前に立ち戻っただけだ。いかに「失われた30年」で日本の国力が低下したかがわかる。「史上最高値を更新」という表現は、日本の低迷から目をそらすミスリードであろう。
②次に、株価上昇の最大の要因は、急激な円安だ。ハイテクを中心とした輸出企業が円安の恩恵を受けて急激に業績を好転させていることが大きい。さらに円安によって日本株の割安感が世界に広がり、投資マネーを呼び込んでいる。つまり日本株は安く買い叩かれているともいえるのだ。これは急激な円安で海外からの不動産投機が増えて地価や家賃が上昇し、インバウンドが盛んになってホテル代が高騰しているのと同じ構図である。国民生活にとってはマイナス要素もたくさんあるといっていい。
③最後に、米中対立やウクライナ戦争を受けて世界が二極化し、東アジアの安全保障環境が緊迫して中国から投資マネーが逃げ出し、日本へ流入しているという点がある。これも日本の不動産価格が海外マネーの流入で高騰しているのと同じ仕組みだ。
つまり、史上最高の株価は、日本企業の「稼ぐ力」がアップしたわけではなく、急激な円安や国際情勢の変化によって、海外マネーが日本に流入しているという外的要因が大きい。日本の経済力が復活しているわけではないのだ。
この現状認識を誤ると、今後の対応策も間違えることになる。史上最高の株価に浮かれる政界や財界、マスコミ界の論調は極めて危ういとしかいいようがない。
いまの日本社会が抱える根源的問題は、①少子高齢化・人口減による経済・社会の活力低下②中間層の没落による経済格差の拡大ーーの2点である。急激な円安は、株や不動産を所有する大企業や富裕層をますます潤わせる一方、庶民層はエネルギーや食料など生活に不可欠な輸入品の物価高で苦しみ、貧富の格差を拡大させる大きな要因となっている。
このような状況で本当に必要な経済政策は、円安株高で潤う大企業や富裕層に課税強化し、富を庶民層に再分配して国民生活を底上げすることだ。
ところが、岸田政権は株式市場への投資を刺激するという真逆の政策を進めている。これでは大企業や富裕層はますます潤い、庶民層・中間層は没落して、日本経済の足腰はますます弱まるだろう。まさに自民党政権は大企業や富裕層の味方なのである。
さらに中国を敬遠する海外マネーの流入で日本経済が支えられている構造も危うい。東アジアの安全保障環境が好転して世界が平和に向かって安定すれば、海外マネーは再び日本を離れて中国へ向かうだろう。それをおそれるあまり、日本の政治が安全保障環境を緊迫させることで海外マネーの流出を防ぐ方向に傾きかねない。これは平和国家をめざす日本の国是に逆行する危うい展開だ。
いずれにせよ、史上最高の株価は、日本経済の健全性が生み出したものではない。その核心を認めず、「日本ズゴイ!」と浮かれているようでは、いよいよこの国は危なくなってくるだろう。