コロナに感染して休んでいた岸田文雄首相がカムバックして最初に打ち上げたのは、自民党と統一教会の関係を断つという宣言だった。内閣支持率が急落してさすがに放置できないという思いになったのだろう。一人で閉じこもっていた間に危機感を募らせたに違いない。
岸田首相が自ら主導した「安倍晋三元首相の国葬」に世論の批判が殺到しているが、こればかりは総理大臣の威信にかけて撤回できない。ならば統一教会との関係断絶を前面に打ち出して支持率下落に歯止めをかけるしかないということであろう。
岸田首相の決断をうけて、自民党の茂木敏充幹事長は「今後、旧統一教会および関連団体とは一切関係を持たない。これを党の基本方針とする」と表明した上、「仮に守ることができない議員がいた場合には、同じ党では活動できない」と踏み込み、統一教会と断絶できない議員には離党を迫る姿勢を示した。
一方で、統一教会との過去の関係については「(講演など)露出度の高いもの、資金のやり取り、選挙協力については氏名を公表する」としながらも、祝電やインタビューなどかかわりの浅い議員については個人名の公表を見送る考えを示した。
統一教会との関係にけじめをつけ、反転攻勢に出るのなら、いっそのこと、すべてをさらけ出してしまえばいいのにーー政治のプロでなくてもそう思うに違いない。
茂木幹事長の対応はなぜ、かくも中途半端なのか。自民党内の「統一教会汚染」が想像以上に深刻で、すべてをさらけ出せば自民党への信頼が根底から崩れてしまうという危機感もあろう。
しかし私がここで提起したいのは、もうひとつの理由である。それは茂木幹事長をはじめ、岸田政権を支える主流派の面々(麻生太郎副総裁、茂木幹事長、林芳正外相ら)が、実は統一教会問題をねこそぎ解決し、内閣支持率の下落に歯止めをかけ、岸田政権の再浮揚させることに、それほど意欲的ではない(むしろ消極的)ということである。
自民党第五派閥のトップに過ぎず、党内基盤が弱いと指摘されている岸田首相だが、すでに衆院選と参院選に圧勝していることを忘れてはならない。
安倍政権が歴代最長になったのは、もともと派閥会長ではなかった安倍首相が衆参国政選挙で6連勝し、党内基盤を強固にして「安倍一強」という体制を構築したからだった。安倍政権の以前に衆参選挙に勝ったのは、小泉純一郎首相まで遡らなければならない。岸田政権はその意味で、小泉政権、安倍政権に続く強大政権になる現実味を帯びてきたのである。
安倍氏は2012年衆院選で政権復帰した時はライバルの石破茂氏を幹事長に起用しなければ政権運営はままならない状況だったし、13年参院選に圧勝した後も盤石とはいえなかった。安倍一強の状況が確立したのは14年秋に電撃的に衆院を解散して衆院選で圧勝した後である。
その意味で、岸田首相も次の衆院選で圧勝すれば、安倍政権並みに強大化する可能性は十分にある。そのためには高い支持率を維持して衆院解散の機会をうかがわなければならない。
もし、岸田首相が次の解散総選挙で圧勝したらどうなるか。安倍政権のように「岸田一強」の政治が出現しかねない。内心穏やかではないのは、岸田首相の後釜を狙っている茂木幹事長や林外相である。岸田政権が長期化すれば、首相になる出番は回ってこなくなるからだ。
このため、茂木幹事長や林外相にすれば、岸田内閣の支持率はそこそこにとどまり、むしろ低空飛行してくれたほうがありがたい。統一教会問題で支持率が下落し、岸田首相が衆院解散のタイミングを見つけられないまま2024年秋の自民党総裁選を迎え、後進に道を譲るーーというのが彼らにとってはベストシナリオなのだ。
キングメーカーの麻生氏にとっても事情は似ている。80歳をすぎた麻生氏には、安倍政権が長期化した結果、自分が首相に再登板する機会が奪われてしまったという思いがある。岸田政権の後、いまいちど自分に出番が回ってくる展開もどこかで期待している可能性はあるが、そうでなくても、岸田首相が強くなりすぎると、キングメーカーとしての存在感が陰ってしまう。岸田首相が独り立ちせず、いつまでも自分を頼ってくるくらいがちょうどいい。そのためにも支持率はあまり高くない方がいい。
岸田首相を支える自民党執行部にとって、内閣支持率の低下はむしろ好都合なのだ。ここが自民党内政局を読み解く難しいところである。「本当の敵」は野党や自民党非主流派よりも、むしろ身近に潜んでいるのだ。
もうひとり、支持率低下を歓迎している「主流派」がいる。財務省だ。
この先は以下のユーチューブ動画でじっくり解説したのでご覧ください。
9月6日発売のサンデー毎日に寄稿した『始まるぞ!菅義偉の大逆襲 岸田政権崩壊シナリオの全貌』では、岸田政権で非主流派に転落した菅義偉前首相の立場からも今後の政局を詳細に解説した。よろしければお読みになっていただければ。