ウクライナ戦争が勃発した今年はじめ、与野党もマスコミもロシアを一方的に批判し、日本国内が「ウクライナ頑張れ」に包まれた時に恐れた事態がいよいよ現実になってきた。岸田文雄首相が12月13日の自民党役員会で、自らが打ち出した「1兆円の防衛増税」を正当化するために語った言葉に、私は背筋が凍る思いがした。
毎日新聞「防衛費増額巡り 首相「国民自らの責任」 一部増税で賄う考え」は、首相は以下のように語ったと報じている。
防衛力の抜本強化は安全保障政策の大転換で、時代を画するものだ。責任ある財源を考えるべきで、今を生きる国民が自らの責任としてその重みを背負って対応すべきものだ。経済あっての財政との立場であり、こうした基本的姿勢は変わらない。自らの暮らしを守り、国を守るという国民一人一人の主体的な意識こそが何より大切なことはウクライナの粘り強さが示している。このことも十分念頭において議論を進めてもらいたい。
れいわ新選組をのぞく全ての与野党がウクライナに加担する国会決議に賛成し、国民の大多数が「親ウクライナ・反ロシア」に染まったウクライナ戦争。それを機に自民党の安倍晋三元首相らは東アジアの危機をあおり、防衛費倍増や敵基地攻撃能力の保有を訴え、岸田首相もそれを受け入れた。その財源を確保するために防衛増税を打ち上げ、世論からも自民党からも猛反発を浴びている。
それに対して岸田首相が用意した言葉ーーそれは「責任ある財源を考えるのが国民の責任」であり、「国を守るという国民一人一人の主体的な意識こそが何より大切」であり、そのことは「ウクライナの粘り強さが示している」だったのだ。
日本国民もウクライナ国民のように国を守るために率先して戦え!
防衛増税くらいは国民の責任として受け入れよ!
そういうことか。
日本国内がウクライナ支持に染まり、れいわをのぞく与野党(立憲民主党ばかりか共産党も乗った!)がゼレンスキー大統領の国会演説をスタンディングオベーションで称賛した時、私は国会が大政翼賛体制に向かうことに警鐘を鳴らし続けた。ネトウヨばかりか立憲支持層などからも「ロシアに加担するのか」と激しくバッシングされた。「殺す」という脅迫メールも届いた。
ロシアが軍事侵攻したのは許されない。当たり前だ。しかし戦争勃発のかなり前から米国製武器を大量購入して軍事的緊張を高め、結果としてロシア軍の侵攻を誘発したのは、ウクライナ外交の失敗だった。潤ったのは軍需産業だけだった。
ロシアが悪いにせよ、結果としてウクライナ国民の生命を奪う戦争を阻止できなかったことは、ゼレンスキー政権の失政である。戦争を食い止めることこそ、外交の最大の目的なのだ(北朝鮮が一方的に日本国内にミサイルを撃ち込んできたら、絶対に許されることではない。しかし、だからといって、ミサイルを撃ち込ませることを阻止できなかった日本政府の失政が許されるわけではない。軍備増強しても、軍拡競争を煽るだけで戦争は回避できない。むしろ開戦リスクを高める。それがウクライナ戦争の教訓だ。ミサイルを撃たせない外交こそ重要なのである)。
ゼレンスキー大統領は自らの外交の失敗を棚上げし、国民総動員令を出して男性の出国を禁止して軍隊に招集し、野党の政治活動を禁止し、まさに「大政翼賛体制」をしいて国民の自由を奪い、米国からさらに武器を大量購入して戦争を続行している。その結果、多くのウクライナ国民の生命や財産は失われ、国土は焦土と化し荒れ果てたままだ。まさに米ロ対立に巻き込まれ、巨大な国益と多くの国民の命を失ったのである。戦争は泥沼化し、終息する見通しはない。政治は結果がすべてだ。これほどの失政はない。
岸田首相はそのウクライナを見習え、ウクライナ国民のように「粘り強く」戦え、耐えろと私たち国民に迫っているのである。中国やロシア、北朝鮮と交戦状態に陥った時、この首相はゼレンスキー大統領と同じように、国民総動員令を出して国民の国外脱出を禁じ、戦地へ送り出すだろう。戦争を防ぐことができなかった自らの失政を棚上げにして。
まさに「1億総玉砕」を掲げて国民を道連れに泥沼の戦争を続行した戦前日本と同じである。これほど愚かな政治指導者がいるだろうか。
岸田首相が「ウクライナを見習え」と主張したのは、国内世論がウクライナを一方的に支持したことを踏まえ、ウクライナを引き合いに出せば日本国民は増税に納得するという浅はかな思い込みによるものである。この浅はかさこそ、戦争への道だ。
私たちはウクライナ戦争が勃発した時、米ロ対立に巻き込まれて軍備増強したウクライナのことを、米中対立に巻き込まれて軍備増強を進めようとしている私たちの国に置き換えて考えただろうか。
タカ派の清和会を率いてきた安倍氏も、ハト派の宏池会を率いる岸田氏も、同じようにウクライナ戦争を口実に、軍備増強を掲げたのである。それはどちらも米国追従の外交・防衛政策しか頭にないからだ。それは米国に依存して政権を維持しているゼレンスキー大統領の姿とも重なる。
米国追従で政権維持→米国製武器の大量購入→軍事的緊張が高まる→戦争勃発という悪循環に陥ったことこそ、わたしたちがウクライナ戦争から学ぶべき教訓であり、その同じ道筋を現代日本もたどっているということに私たちはそろそろ気づかなければならない。
岸田首相の浅はかな発言は、本人の思惑とは裏腹に、この国が軍備増強を進めたウクライナと同じ道をたどって戦禍に巻き込まれる危険が高まっていることを浮き彫りにしたのである。
岸田首相の「防衛増税は国民の責任」発言で広がる「岸田おろし」の動きについて、それぞれの思惑をYouTubeで解説しました。ぜひご覧ください。