岸田文雄首相(岸田派)が自民党の麻生太郎副総裁(麻生派)や茂木敏充幹事長(茂木派)を留任させる方針を固めたという報道に続いて、主要閣僚を留任させる方向であるとの報道が相次いでいる。
西村康稔経済産業相(安倍派)、高市早苗経済安保担当相(無派閥)、林芳正外相(岸田派)、河野太郎デジタル担当相(麻生派)…これまでの報道によると、事前に去就が注目された主要閣僚は軒並み留任の方向で調整しているらしい。
萩生田光一政調会長(安倍派)や松野博一官房長官(安倍派)、森山裕選対委員長(森山派)も留任か他の要職への横滑りで調整しているようだ。疑惑渦中の木原誠二官房副長官(岸田派)の留任も早々に決まった。
今回の内閣改造・党役員人事は来年秋の自民党総裁選に向けて最後の「大幅人事」の機会であり、首相の再選戦略にとって極めて重要だ。首相周辺からも「大規模になる」との見通しが流布されていた。
ところが、これまでのところ、留任が相次ぎ、新味を欠く人事となりそうである。その理由はひとえに、茂木幹事長の交代に踏み切れなかったからだ。
昨日の記事で茂木氏留任の裏側を解説したが、簡潔におさらいすると、岸田首相はポスト岸田を狙う茂木氏を交代させ、非主流派の菅義偉前首相(無派閥)や二階俊博元幹事長(二階派)に近い森山氏を幹事長に据える腹づもりでいた。
ところが、岸田政権の後見人として茂木氏を幹事長に引き立てた麻生氏に反対され、踏み切れない。そこで、のっけから予定が狂ったわけだ。
岸田首相は来年秋の総裁選にむけて、岸田派ー麻生派ー茂木派の主流派を維持するのか、菅氏や二階氏ら非主流派を取り込んで主流派を組み替えるのか。そこが今回の人事の焦点であり、幹事長人事こそが肝であった。茂木氏留任を決断したということは、岸田派ー麻生派ー茂木派の主流派体制を維持するということであり、それなら大幅な人事刷新には至らないことは自然な流れである。
岸田首相は「現状維持」を選んだといっていい。いや、麻生氏に反対され茂木幹事長の交代に踏み切れず、「現状維持」に追い込まれたともいえるだろう。
そうなると、内閣改造による新体制で支持率を回復させ、10月に衆院解散に踏み切るというシナリオは描きにくい。来年秋の総裁選に向けて有力なポスト岸田が見当たらないことは首相にとって有利だが、政権浮揚の展望も開けず、このまま解散権を行使できないままジリ貧となり、来年秋に勇退に追い込まれるシナリオが現実味を増してくる。
このため、首相周辺ではなお、茂木氏交代説がくすぶっているとの報道もある。さて、どうなるか。
このままパッとしない内閣改造・党役員人事に終われば、岸田政権は失速して「ポスト岸田」レースの号砲となるかもしれない。