岸田文雄首相から失言が飛び出した。所得税減税を柱とする経済対策について「より困っている方に給付を与える」と発言したのだ。
10月27日の衆院予算委員会でトップバッターで立った自民党の萩生田光一政調会長が「所得税も住民税も支払っていない国民に対してどうするのか」と質問したのに対し、岸田首相は「より困っている方に的確に給付を与える」と答弁し、あわてて「給付の支給する」と言い直した。
言うまでもなく、私たちが納めている税金は岸田首相のものではない。「給付を与える」という上から目線の発言は瞬く間にネット上で拡散し、批判が噴出した。
内閣支持率が続落するなか、岸田首相は政権発足当初に繰り返した「聞く力」「丁寧な説明」という言葉を忘れ、傲慢路線を強めている。それを象徴する失言といえるだろう。
けれども、これは単なる「言い間違え」ではない。ここには岸田首相の人間性にとどまらない根本的な問題が潜んでいる。そもそも「税金とは何か」という基本認識を勘違いしているのだ。
🔸「税収増を国民に還元する」は大ウソ
岸田首相はそもそも「税収増を国民に還元する」と表明してきた。「財源を確保するために税金が必要だが、税金が余ったのでみんなに返す」という意味だ。
ここに根本的な誤りがある。
財務省やマスコミは「財源を確保するために税金が必要」と流布してきたが、政府には通貨発行権があり、税金を取らなくてもお金を刷ればいくらでも財源を確保できる。
ただし、無限にお金を刷ることはできない。なぜなら、世の中にお金が溢れかえって、お金の価値が下がり、物価が高騰してしまうからだ。
お金を刷る量には、確かに限界がある。けれども、税収の範囲内で予算をつくる(財政収支を均衡させる)必要はまったくない。
世の中に出回るお金が増えすぎて、お金の価値が暴落することは避けなければならない。そうならない範囲でなら、大胆に財政出動することは十分に可能だ。財政の収支をあわせることを優先して、大胆な財政出動を控える必要はまったくないのである。
実際にコロナ禍で世界の先進各国は大幅な赤字を覚悟で巨額の財政出動をしたが、どの国も財政破綻しなかった。
🔸税金の役割① 世の中のお金の量を調節する
税金の役割が「財源確保」でないとするならば、それは何なのか。
最大の役割は、世の中のお金の量を調節ことだ。
お金が溢れかえっているときは、増税して、お金を減らす。
お金が足りない時は、減税して、お金を増やす。
財政収支をバランスさせることではなく、世の中に出回っているお金の全体量を調節することに、税金の最大の役割がある。
世の中のお金が増え過ぎれば急速なインフレ(物価高)になり、庶民生活を直撃する。一方、世の中のお金が不足すればデフレになって景気が悪化する(お金の価値が上がるデフレは、基本的にお金を蓄えている富裕層・既得権層に有利、蓄えの少ない庶民に不利で、経済格差を固定化させる。逆にお金の価値が下がるインフレは、蓄えの多い富裕層・既得権層に不利で、蓄えの少ない庶民に相対的に有利で、富裕層の没落や成金の出現など下剋上が起きる可能性が高まる)。急激なインフレもデフレも避けるために、増税や減税でお金の量を調整するのである。
いまの物価高の直接的要因は、日本国内にお金が余っていることではなく、①ウクライナ戦争で原油や食料の国際価格が高騰したこと②日本経済の国際的競争力が弱くなって、円安が加速したことーーである。
だから、現時点で世の中のお金の全体量を減らす必要があるのかどうかは慎重な検討が必要だ。そのうえで、お金の全体量を減らす必要と判断した場合に初めて増税すればよい。
🔸税金の役割② 富を再分配して貧富の格差をを是正する
では、お金の量を減らすために増税が必要な時、誰に課税強化したらよいのか。ここが税金の役割の二つ目だ。
富を再分配して、貧富の格差を是正する。つまり、お金持ちに増税して、庶民にばら撒くことに、税金の本質的な役割がある。
ところが、財務省は「税金は財源を確保するためにある」と流布し、「薄く広く国民みんなで負担する」という理屈で消費税増税を進めてきた。
消費税は弱い立場にある人にほど重くのしかかる「悪い税」だ。本来の税金の役割である「富を再分配して貧富の格差を是正する」に反した税といっていい。
世の中のお金の全体量を減らすために増税が必要な時、最初に課税強化すべきは大企業やお金持ちなのだ。
🔸税金の役割③ 社会の歪みを抑制する
最後にもうひとつ、税金には大切な役割がある。「社会を歪めているもの」に課税し、社会を良くすることである。
たとえば、たばこ税。喫煙者ばかりではなく周囲の人々の健康を害する恐れのあるタバコに課税し、タバコの消費量そのものを抑制して健康被害を減らすという社会的目的がある。
環境税も同じだ。環境を負荷をかける経済活動や開発事業に課税し、自然破壊を抑制する目的がある。
いずれも「財源確保」というよりは「社会の歪みを抑制する」ことに狙いがあるのだ。
では、いまの日本社会を歪めているものは何か。
私は、汗水流して働く人々よりも、お金を右から左へ動かして儲ける人々が報われていることにあると思う。
アベノミクスの金融緩和そのものは間違っていなかった。けれども、金融緩和によるお金は、株式市場や不動産市場ばかりに流れ、大企業やお金持ちばかりがボロ儲けしたのだ。
この歪みを是正することに、税金の大きな役割がある。つまり、株や不動産への課税を強化して、汗水流して働いている人々に配ることが、いまいちばん大切な政策ではないか。
岸田首相は「税金は財源確保のために必要」という財務省のプロパガンダを信じ、所得税減税を柱とする経済対策を打ち出した。この根本認識を改めない限り、真に必要な経済対策を打ち出せるはずがない。